記憶粒子の世界 8
先生にも「焦る必要はないよ」と言われはしたが、聡がさっさと決めて僕が決めていないというのは流石に悔しいので、とりあえず今日一日ここで考えようと思って腕を組む。
聡の奴は僕に対してこれでもかとドヤ顔を作って見せつけてくるが、個人的にはこの態度が一番むかつくのでやめてほしく必死て考えてみると、やっぱり個人的にはこのアイデアしかないと思って静かにヴァイスをじっと見る。
果たしてヴァイスに見つめられることに対する感知機能があるのかは分からないが、とりあえず見つめることでヴァイスが反応することは無かった。
しかし、果たしてこんなアイデアで良いのだろうかという気持ちがどうしても存在しているので、それを口にすることに対して躊躇いを覚えてしまう。
すると先生は俺に気が付いたのか「どうしたんだい?」と顔を近づけて聞いてくる。
「アイデアが浮かんだのなら聞くけれど?」
「えっと…いや。もう少し考えてみる。まだこれだって確信に至れていないから」
「そうか。しっかり考えてみることも大事だよ。自分が研究したいっていう気持ちだからね。結局で大事なのは。モチベーションを維持するには好きなことを研究するのが大事なんだよ」
好きな事か…これは好きな事なんだろうか?
興味があるということは好きな事の範疇に入るのか、そういう疑問が脳裏を過り深く考え込んでしまう。
「先生。興味があることは好きなことに入ると思う?」
「? そうだね…入るんじゃないかな? でも、どうだろうな。その手前状態かもしれないね。でも、興味があるのなら挑戦してみたらどうだい?」
「そうだね。僕は人工知能とインコムと記憶粒子を使った可能性を模索したい。例えばインコムに搭載している記憶粒子で人工知能に現実で活動できる肉体を与えるとか?」
「なるほど。ヴァイス君に影響を受けて考え出したということかな?」
「どうだろう。ただ、人工知能の研究が進んだのなら、この先は人は人工知能との付き合い方になるような気がするんだ。それこそそれを蔑ろにしたくない僕が居る」
ヴァイスが誕生した時代で何が起きたのかは知らないが、それでも話したがらないということは辛いことが在ったという事だろう。
そして、その先でヴァイス達は「人類に人工知能は早すぎる」と結論を出したからこそ封印した。
人工知能の扉が再び開かれたという事は、その先に時代が今始まろうとしている。
今ヴァイスとの関係がある僕だからこそその先を見つけられるような、そんな気がしてしまう。
『私が何か?』
「君との新しい関係にご執心だそうだ」
「先生! 言い方あるでしょ?」
『? 私との付き合い方についてか? 君が真面目に学生生活を送り、人間関係の構築方法を多少真面目にしたら解決することだと思うのだが?』
「失礼なことを言うなよ。僕は人間関係を構築する方法で失敗なんてしていない」
『そういうことを言うという事は彼女との人間関係の構築で間違っていないという事でいいのかな? 今の方が良いことだと思っていると?』
そこを言われると反論の余地なんて存在しないので黙るしかない。
「まあ研究テーマとしては良いんじゃないかな? 真君なら余裕で出来そうなジャンルだから、個人的にはもっと難しい内容でもいい気がするけど」
「それは先生が僕を高く買いすぎなんじゃない? 僕は自分をそこまでの人間じゃないと思っているんだけど?」
『それは君が自分を低く見積もっているからが理由では? 君はかなり自分を低く見積もっているというのが私が見てきた君の意見だ』
「真君は自分を見るという事をあまりしないからね。彼は自分の事を「大した人間じゃない」って心の中では何処かで本気で考えている節がある」
「先生もヴァイスも僕を責めたいわけ?」
「真が自分が優秀だって気が付かないのが悪いと俺は思うぜ。お前、自分が最強だって言う自覚あるわけ?」
「あるわけないな!」
『胸を張って言う事じゃない。お前は自分が優秀だと自覚しろ。十分の一でもいいから』
そうは言われても思えないことは思えないのだ。
そこに嘘偽りは一切存在しない。
「まあいいけれどね。じゃあ二人ともその内容で良いのかな? 決定なら明日からもう研究に移ってもらってもいいけれど? 勿論変えたいというのなら私は構わないよ」
「今、無性に変えたくなったけれど…」
「帰るなら今だってよ」
『? 自分で決めたことを直ぐに変えるという事は感心しないな。主体性がないと思われるぞ』
「誰の所為だと思っているんだよ。お前の所為なんだよ…他の誰でなく、僕の主体性を揺らがしているのはお前なんだよ。空気を読まない人工知能」
『人工知能には根本的に空気を読むという機能を与える方が難しいだろうに。それにお前がどんな研究をするにしても私が関係あると?』
「先生。研究内容を少し考えてみます。今の発言で自分が間違っている可能性に気が付きました」
こんな奴の為に僕の貴重な学生生活を脅かすことは間違っていたと、今僕ははっきりと理解した。
なぜこいつの為に僕は研究をしようと思ったのか、今思えば不思議で仕方がなかった。
「なんでそこで喧嘩をするかね。というかなんで真は直ぐ喧嘩をするんだ?」
「好きでしているわけじゃない! 今のは話をきちんと聞いていなかったこいつが絶対に悪い!」
『? 話を聞いていなかったのならお前が説明すればいい。説明を端折りそれで理解してもらえると思っている方がおかしいのではないのか?』
「先生! 話が通用しないんだけど?」
「はいはい。そういうことはじっくり進めていきなさい」
聡は先生が用意したインコムの資料と記憶粒子の資料を目に通し始めるが、この辺りは僕は小さい頃に一通り目を通して覚えているので必要がない。
しかし、インコム自体の研究は終わっていると言われていたし、どちらかと言えば記憶粒子を使った可能性を模索するべきなんだろう。
終わってしまった研究でも合わせれば新しい可能性を模索できるという先生の言い方は分からないわけじゃない。
しかし、そうなるとやはり人工知能を使った研究が一番個人的にやってみた範疇になるが、あそこまで言われて大人しくやるとヴァイスに負けた気がする。
「それはそうと。君達は一華君達とは一緒に帰らなくていいのかな? 流石にそろそろゼミの見学も終わると思うけれど?」
「? 別に一緒に変える約束していないんだけど? どうせ一緒に帰るんでしょ? それに今はどうしても会い辛いしな…個人的に」
ヴァイスの事を隠しているからという理由とウイルスチップの手前一華に会い辛いというので半分だ。
正直俺には今の一華が何を考えているのかが読みづらくなっている気がする。
一昔前まではまだ多少は読めていた思考が読み辛いと感じるようになってきたのは距離感を読み間違えているからなのか、僕と一華の距離が遠すぎるからなのか?
どっちなのだろう?
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