記憶粒子の世界 7
まあ選んでしまったことはもう諦めるしかないと強く…ひたすら強く言い聞かせてから僕は下唇を噛みしめる。
先生のゼミまで戻っていく過程でショックな話を聞いてイマイチテンションが戻らない海谷真であるが、それでも報告の為にとゼミに戻っていく。
先生のゼミに戻ると先生がすでに部屋から退出しており、先生が部屋の中へと入れたのだろうホワイトボードには「少し出かけてくる。すぐに戻ってくるから待っていてくれ」と書かれていた。
だったら待っていようと思って僕は適当に本棚辺りを見ていると、聡が反対側で「アルバム発見!」と叫びながら何かを取り出す音を響かせる。
僕もアルバムは興味があるが、先生はアルバムを持ち歩いているのだろうか?
そう思って振り返ると聡は「真地小さ!」と言うのですかさず僕は「僕のアルバムかよ!」と突っ込んだ。
「なんで先生のゼミに僕のアルバムがあるんだよ! ていうか見るな!」
「良いじゃん。うわぁ…これ一華? それと隣にいるのは沙喜の奴か? このころから目つき若干悪い」
僕はそっとアルバムの中を覗き込むと、そこには小さい僕が左端に、真ん中に一華が笑顔で僕と沙喜の腕を組んでいる。
この頃は仲が良かったんだよなぁ…この頃は。
何時から仲が悪くなっていったのか、小学校に上がった時? 高学年に上がった時? それとも中学? 次第にか?
「いつから仲悪くなったんだ? この幼稚園の頃は仲良さそうに見えるけどな」
「多分小学校の高学年。でも、その頃から傾向はあったよ。次第に喧嘩が増えていったのは高学年に上がってからだと思う」
「ふ~ん。でもこの高学年時に取ったと思われる写真も仲良さそうだぜ? ほら…」
確かに仲良さそうに見えて仕方がないわけなのだが、でも俺と一華が一緒に自然に囲まれて取られている写真は修学旅行中に喧嘩した後の写真だろう。
よく考えると修学旅行中に喧嘩してそのあとすぐ沙喜の手引きで仲良しになったはずだが、そういえばあれもなんで喧嘩したのか覚えていない。
些細なことがきっかけだったはずだが、食事の席での好き嫌い? それとも旅行先の選択で? どうだっただろう。
「覚えてないわけ? 普通喧嘩したらさ」
「いや。日常茶飯事だし…いつもの事だから一回一回覚えてないよ。でも、その時も沙喜が仲直りの仲介役を買って出たんだよな。今思えば沙喜が居ないと仲直りが出来ないぐらい喧嘩を何回かしている気がする」
「それでもお前は好きなわけ? 一華の事が」
「ああ。それだけは揺るがない」
たとえ世界がひっくり返るような出来事が起きても変わることのない気持ちだと断言できるのだ。
「でも、俺が分からないのは沙喜だぜ。なんであいつそんないっつも喧嘩している二人の仲立ちをするかね?」
「さあ? 僕から離れたがらないのは間違いないと思う。天才にしか分からない部分だろう?」
「そんなものかね? わざわざ苦労を背負うかね? どうにも裏を感じるな…」
「考えすぎじゃね? あいつ自身が災いを持ち込んだことは一回も無いんだぜ?」
そう言いながらも心の中では「確かにあいつが僕達の元からいなくならない理由を知らないな」と疑問に思う。
今までも聞く機会は幾らでもあったはずだった。
でも、別に聞こうという思いすら湧いてこなかったし、いつの間にか傍にいることが当たり前に思えたからだ。
僕からすればむしろなこれだけ問題が起きていてあいつは僕達の傍からいなくならないかが分からない。
まあ聞いても教えてくれないと思うので聞かないけどね。
「おや? 帰ってきていたのかい? 結構早かったね。念のために早めに帰ってきたときにとメモを残していたけど」
「先生。聡が入ってくれるって。剣道部と兼任になるけど」
「ウォン先生! ゼミに入ったら授業の一部は補償されるんでしょ?」
「ああ。されるよ。その代わり研究内容を毎年論文として提出することが条件だけどね。まあ、その辺りは私が協力するから大丈夫だと思うけど。ただ基礎授業だけは出てほしいね。あれは補償対象外だからね」
国語、数学、歴史だったはずだ。
国語と入っても英語もいれての国語である。
「二人で一つの論文ってあり? それとも無し?」
「楽をしようと試みるなって。自分で論文ぐらい作れよ。剣道だけしていればいいわけじゃないぞ」
「別に構わないけど。いざとなって困るのは君だよ? しっかり論文づくりをしていないと、発表時に困るからね」
先生のにこやかな笑顔が怖いと思って聡は一瞬で「一人で考えます」とアイデアをひっこめた。
まあ、実際片方に論文を押し付けて発表時の質問でバレること想像できる。
ましてや数が多いのならともかく、二人でしているのなら十中八九バレるだろう。
「さて、じゃあ二人には論文のテーマを決めて貰おうかな。それが今年一年の研究内容だし。内容の細かい詳細は君達で決めるわけだが、大まかな内容としては『記憶粒子を使ったインコムの未来』がテーマだよ」
「それって記憶粒子をインコムに搭載することを前提の機能と専用のインコム開発って事?」
「そうだね。それ以外にもアプリ開発もその研究内容になるな。あくまでもメインはインコムだ。インコム自身を作ってもいいし、アプリの開発に専念してもいい。ただし記憶粒子を活用することが条件だ」
「記憶粒子を使ったインコム関係なら自由ってことだよね? もちろん内容を決めたら先生に提出?」
「そうだね。内容を確認してこれでいいと決めたら実際に自由に研究してもらう。勿論最初は私が幾らか指示を出すし、実際には私が大筋の道筋を決めるわけだが、最後にどんなものを作り、どんな論文内容にするのかは自分たちで決めて作って発表してほしい。最後に多くの人の前で発表することで一年目の終わりにしたい」
結構難しいことを言われている気がする。
先生はこれで意外とスパルタなので、やると言えばどういう手段を使ってでもやらせるはずだ。
しかし、ある程度は絞ってあるし丸投げされているわけじゃないので個人的にはやりがいがある方だ。
聡も顔で「やりがい」を見つけたと分かるようなワクワクする顔をしていた。
「二人とも何時でもいいから決めてみな。決めるときも相談してくれれば乗るからね」
僕はインコムの中に引っ込んでいるヴァイスをじっと見つめ、同時に思い出したことを先生に相談した。
要するに一華がウイルスチップを持っているか明日調べてみようということだった。
「う~ん。反応しただけか…まあ調べてもいいかもしれないね。でも。持っていたらどうするつもりだい? 使っていると分かったら…」
「それは…没収するよ。流石に沙喜も止めないとは思うし。その時は流石に沙喜にも手伝ってもらう」
「まあ、そうなるよな。体に害のある機能なんてどう考えもおかしいし。先生! そんなことより俺開発してみたい奴がある!」
聡は今まで話していた僕にとって大事な内容を今『どうでもいい』と締めくくってくれた。
その後、聡は一瞬だけ僕の方へと勝ち誇った顔をしてから何かを話し出した。
「ほほう。それは良いね。スポーツ選手ならではの発想だ。面白そうだね。なら先に…」
「フムフム。じゃあ先生この分野の課題を幾つか欲しい」
「良いよ。何なら暇なときゼミに来て詳しく教えてあげるよ」
負けた気がする僕。
課題が見つかればすぐにでも取り掛かれるから完全に負けたわけじゃないが、それでも焦る気持ちが確かに存在していた。
まあ、やりたいことが無いわけじゃない。
先生が道を切り開いた人工知能、そのより良い付き合い方に僕なりの答えを示せるはずなんだ。
そんな思いがふと考えついた。
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