記憶粒子の世界 6

 聡でもいいかと思って一旦先生の元へと帰ろうと思ってきた道を戻ろうと思っていると、グラウンドの方から陸上部の元気の良い声が聞こえてきて二人でふと足を止めてしまう。

 長距離走、短距離走、砲丸投げなど一つのグラウンドで複数の練習をしている陸上部、僕としては走る以外で特に興味のないクラブなので参加はしない。

 それに走っているのも健康と日課だからで、それを趣味や将来への積み重ねにしたいとは思わないのだ。


「なあ。真って陸上部とか興味ないわけ? 中学の時は誘われたろ? 足は速いし、体力あるし、やろうとすれば長距離も短距離もいけるんじゃね?」

「長距離はともかく短距離は無理だな。そこまでの早さじゃない」

「はい? そこまでの早さじゃない人間が短距離走のレギュラーに勝つわけ?」

「そういう日常も存在するんだよ。僕にそこまでの才能を求められても困るし、中学時代の部活動ってそこまで強いってイメージ無い。あそこ弱いだろ? お前が一人強かっただけで」

『確かに。お前たちの中学は運動関係の部活動に関してはそこまで強いわけじゃないようだな。全国大会などここ最近は剣道部の個人戦だけだ。今年は全滅だな』

「残念だな。何だったら聡はもう一度中学やり直す?」

「え!? 中学校の為に!? わざわざ俺が!? がんばれよ! 後輩が!!」

「他力本願は良くないな。お前は中学に何か貢献したいという気持ちは存在しないのか?」

「お前は!?」

「無いよ。なんで僕がわざわざ興味のない中学にわざわざ貢献しなくちゃいけないんだ? 貢献するぐらいなら傷跡を残すわ」

「残すなよ! いや! 残したけどさぁ!」

『何をした? 通報レベルをしたんじゃなかろうな?』

「失敬な。しつこい柔道部と剣道部の先輩を試合と称して病院送りにしただけだって」

「周囲が引くレベルの問題行動だからな? 先生が引いていたからな? ていうか何があったら先輩を病院送りにしたんだよ?」


 はて、何が理由だっただろうか?

 理由があったと記憶はしているが、非常にどうでもいい理由で、かつ僕がイラつくレベルの行動だったのだが、何かしつこいことをされたとして覚えていない。

 しつこく勧誘されたのかな?

 それしか無いよな?


「多分しつこく勧誘されて僕を取り合って二人が喧嘩したからが理由だったような気がする」

「そんな理由で病院送りね。柔道は分からないでもないけど、剣道をどうやって病院送りにしたんだよ?」

「? いなかったけ?」

「勧誘期間中は新入部員は参加不可だぜ? 俺は翌日部長が病院送りになって、それをしたのが一年生だって聞いたんだよ」


 答えてもいいのだが、ルールにのっとって攻撃をしただけでそれ以外何もしていない。

 まあ五連撃ぐらいお見舞いした気がするが、まあ異常なレベルの空間認識能力を持っている僕からすれば相手の動きを読んで反撃するぐらい朝飯前である。

 カウンター気味にご連続で急所を攻め立てた気がする…どうでもいいので覚えていないが。


「弱いうえに偉そうなやつの記憶は積極的に削除するって決めているんだよね。僕が嫌いな人間は弱いくせに偉そうな人間だからさ」

『お前は本当に性格が悪いな。弱いことは悪いことじゃないぞ。悪いのは実力が伴わない性格だ』

「傷つけてる。傷つけてる。見知らぬ他人を人と人工知能が二人係で傷つけてる。刀で滅多刺しだよ。この場に居たらその言葉だけで走り去っていくわ」

「こんな真実の言葉を浴びせられた程度で泣いて逃げる人間なんて生きていないと一緒でしょ?」

『そのような人間にこの先生きていく価値があるのか?』

「お前たちって性格まで似るのか? 流石に少し引くぞ。まあいいや。そろそろ行こうぜ」


 聡がわざわざ促すので僕は陸上部から視線を逸らそうとしたとき、陸上部が練習しているグラウンドに灰色のスーツを着た初老の男性が入っていくのが見えた。

 僕は聡に「あの人誰?」と指をさしながら聞いた。

 一瞬失礼に思えたが、こんな遠くだと指をさす以外に相手を示す方法はない。


「? えっと……教頭かな? 剣道部で練習していた時に隣の柔道部に入っていく姿をさっき見た。部長と顧問が教頭先生だって言っていたから。さっきまで柔道場に居たはずだけど。今は陸上部か?」

「なんで教頭がそんなに部活動に顔を出すわけ?」

「知らね。そういえばさっき剣道部に入った同級生が言っていたけど。教頭先生が入学前の生徒に話しかけているのを見たって」

『? 意味が不明だ。説明を求める』

「興味なし。後にしろって。まあ教頭が学校のイメージづくりに走り回っているんだと想像しよう」

「酷いこと言うよな? 話振ったのお前だよな? まあ良いけどさ」

『私は先ほどの話の内容が気になる。続きを求める。意味が分からない。なぜ教頭が入学前の一般生徒に話しかける?』

「成績がやばいですよっていう忠告だろ?」

「それを教頭がするって意見がヤバいから。だったら入学させるなって話でしょ?」

「学校からすれば授業料を無差別に搾取できるんだから入学させるでしょ? 訳が立たないと分かったら即退学」

『最悪の学校だな。仮にも国立を名乗っている大学がそれだと誰も入らないだろうに…話しかけた人間に共通点があるのでは?』

「とはいってもな。俺も噂として聞いただけだし。どこまで本当か分からないからさ」


 教頭が一般生徒に話しかける理由ね。

 なんか如何わしさを感じるよな。


「女子生徒に盗撮を…」

「それをしているなら即通報だぜ。ていうか、されている生徒も通報しろよ!」

『脅しつけられているのかもしれんな』

「なるほど。可哀そうに。そんなのはその辺の男子生徒が被害を受ければいいのにな」

「お前を含めない辺りに自分勝手さが出ているよな?」

「僕の場合手を出したら最後、この世から社会的に抹殺して見せる」


 聡はドン引きしながら「出来そうで困る」とハッキリと言われた。

 実際に出来るので僕は困らない。


「でもさ。真面目な話。生徒に話しかける意味もクラブ活動を視察する意味も分からないよな?」

「この学校校長は居ないから代わりをしているんじゃないのか? ほら。この学校は学園長すらいないはずだし。運営は大学側がある程度を決めて、それを職員会議で細かい部分を生徒会と共に決めるって聞く」

『学校の運営方針は環太平洋連合に参画している各国家の代表企業がオーナーになるようだ。日本は海谷家がオーナーになる。おお。すごい表情をしたな』

「顔を見るだけで嫌悪感をマックスにしているってわかるよな。真って」

「海谷家はここのトップって事? 最悪の情報じゃん」


 道理で海谷家の建物を作っても不思議じゃないわけだ。

 入学する前に聞いていたら一華事別の学校を選ぶように人脈と才能と武力と権力の全てを駆使したのにな。

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