記憶粒子の世界 1
僕の嫌いな言葉がいくつかあるが、そのうちの一つがチートである。
ここで追加で記載しておくと別段チートを使った相手に負けたという経験があるわけじゃない。
ただ単に卑怯な手段で勝つことに意味と理由を見いだせないし、何より卑怯という言葉がそもそも嫌いなのだ。
そして、いまヴァイスは戦闘開始前に僕にそう告げたわけだが、その瞬間に「チートして楽しいのかね?」と問い返したくなった。
しかし、AR・アーマーズでチートという言葉があまり聞き馴染みがないわけだが、僕が知らないだけでそういう代物があるのかもしれない。
先日はそんな話を一切聞かなかったわけだが、そう思ったところでヴァイスがそのチートに気が付いたこと、こいつが僕の元へとやってきた理由を繋げてしまった。
要するにこいつはやはり何か目的があり、その目的こそがこいつが使っているチートなのだろうと思って意識を切り替えて正面を見据える。
森に囲まれたステージでの開始、敵は見晴らしのいい川を挟んだ先にいるのだろうが、無暗に攻撃しても意味はないだろう。
まあとりあえず敵を発見するしかないと思って僕が森の中を移動していくと、真上から警報アラートが鳴り響く、一体何事かと思っているとヴァイスが話しかけてきた。
『どうやらミサイルを無数に放っているようだな。さて、あの武装でミサイルが入るとは思えないからステージに隠しているのを偶然発見したのか、先ほどの索敵ではなかったはずだが』
「それこそさっきのチートじゃないのか?」
『私が言うチートとお前が思い描くチートは別のものだ。流石にステージや機体そのものに働きかけるレベルのチートはもはやクラッキングだ。言っておくが公式大会で使用されるこの機械にハッキング出来るとしたらプロ集団だぞ。一人でできることじゃない』
僕は取り合えず右側に移動してミサイル攻撃から逃げていくが、何せ攻撃範囲が異様に広いのでミサイルの着弾地点を避け、そしてまた移動して避けるを繰り返すだけでも結構大変だったりする。
最初の大まかな位置は分かるから攻撃範囲を絞れるというのは分かるが、しかし、こうして移動している位置に攻撃範囲をずらしているのはおかしい。
『しまった。なるほど』
「どういうことか教えろ」
『攻撃範囲についてはチートだ。おそらくお前の機体の位置を遠目で確認しているんだろう』
「いやいや! それってチート!?」
『そういうチートなんだ。分かり易いレベルでの情報の書き換えはない。戦闘中などの身体機能の強制ブーストだといえばわかる。人間が出せる範囲を無理矢理引き出す。でだ。このミサイルだが、機体の出現させる際に『
聞きなれない単語に首をかしげながら川へと身を乗り出した。
川はそこまで深くはないので特に問題はないだろうと判断し、ミサイルが飛んできている方向へと一旦移動していく。
まあ、敵がそこからずれて東側へと逃げているのは分かっている。
『公式戦では使用が禁止されているが、こういう野良試合では戦闘が始まる前にストックとして攻撃物資を指定して戦場に呼び出すことができる。使いっきりだからそのまま捨てる羽目にはなるが、ストレージに入れておけばどんな物資でも呼び出すことができる』
「なるほどだから敵はミサイルポットをあちらこちらに置きながら川を上流へと移動しているのか…」
『お前のその空間認識能力こそチートだな。まあ無理矢理攻撃範囲をずらしてお前に自分は開始位置から移動していませんと教えたいんだ』
「意味は無いさ。僕は開始からずっと敵の位置が見えているんだから」
川を上流へと向かって大体東側に上った先、もしかしたら山を登ろうとしているのかもしれない。
どうにもパワー型の近接装備にしか見えない機体が山を登って敵から遠ざかる…逃げているのか、それとも別の策があるのか。
『別の策がある方だ。あのパワー型だ。おそらく開始位置までお前を誘導してパワー型の攻撃で山雪崩を起こしてそのまま身動きを封じたい。そして、そのままダメージを与えたい。そんなところか』
「ならあえてその策に引っかかろうか…」
『それが一番だな。山雪崩ではダメージにはならないからな。ダメージになっても大したものじゃない』
敵が居たであろう開始位置には無数のミサイルポットが置かれており、順次放出するようにあらかじめプログラミングされているようだ。
すると大きな地震のような揺れと同時に『ドゴン!』という重い音が響き渡り、予想した通り山がある方向から土砂が崩れて流れ込んでくる。
大きめの岩だけを避けながらあえて俺は土砂の中に身を隠す。
敵の機体が周囲をきょろきょろ探しながら俺の位置を探ろうと必死になっており、僕は息を殺しながら敵が近づいてくるのを待っていると、ようやく僕の位置が分かったのか一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
目の前まで、両腕を振り上げたその瞬間に両肩から伸びているアーマー越しに拡散弾を収束させてはなった。
もろに着弾した敵はそのまま土砂とともに後ろへと倒れていき、僕は土砂を吹っ飛ばして機体を起き上がらせる。
目の前に倒れている敵の機体はゆっくりと起き上がる。
「くそが!! 死んだふりしやがって!!」
「分かり易い罠を使う方が悪い! 馬鹿が知恵を絞ったところでその程度だろ? この原始人! なれない近代兵器を使ってもその程度」
「ちょっと作戦が上手くいって調子に乗るな!! ここから俺様のショーだ!」
「馬鹿っぽいセリフ」
両腕の攻撃を使って体を起き上がらせる敵の機体、そのまま右腕を突き出しながら僕に向かって突っ込んできた。
切り返しが異常に早いがそれでもパワーに全振りしているせいか遅い。
『気を付けたほうが良い。どうやらチートとしての能力をフル活用しているみたいだ』
「なあ疑問なんだがそんなレベルで強引に身体機能を上げたら脳が持たないんじゃ?」
『その辺は適応能力の高さがものを言うな。低い人間は数日で意識不明だし、慣れれば何年も使用できると聞いている。この男は相当慣れているみたいだな。最も性格面が荒れている原因はチートだな』
「副作用?」
『ああ。要するに強引に身体機能などを引き上げたから脳にダメージがいった。そして、結果性格面が歪んだ。これが『ウイルスチップ』の効果だ。まさか一般の学校の中にまで出回っているとは』
ということはそれ以外の場所で横行している横行しているということだ。
それを聞いている余裕はなさそうなので、戦いが終わったら詳しく聞こうと心に決めヒートサーベルを取り出す。
どうやらこいつ自身は大した腕前じゃないらしいので、サクッと片付けようと心に決め敵が考えもせずに突っ込んできたところに右腕を肩の部分から切り落とした。
驚きながら敵は僕の機体の胴体を吹っ飛ばそうと左腕を振り回すが、その攻撃に合わせるように左腕を肘の辺りから吹っ飛ばす。
「もう諦めたらどうだ? その機体両腕で攻撃するタイプの機体だ。攻撃手段を失ったあんたに勝ち目はないよ」
「…ふ、ふざけるな!!! 俺様は時期エースだ!! それがこんな……こんな素人に!!!」
素人と叫びながら突っ込んでいく、特に策はない。
というよりは作戦も実行できないぐらいに追い詰められているという感じか、するとヴァイスが「突き刺せ」と指示を出す。
問い返す時間がないので俺は指示通りに敵の胸の部分にヒートサーベルを突き刺した。
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