AR・アーマーズ 10
環高は多くの校舎を所有しているのだが、その半分以上が一般の生徒のほとんどが立ち入る理由が無い建物が多く、授業でも使わない場所なのだそうだ。
そして、そのうちの一つのビルディングに海谷家の家紋である波とロボットが描かれているのだが、僕はそれを彼に無視しようとすると、沙喜が普通に気が付いて「あら? この校舎海谷家の所有物?」と聞いてきた。
学校内に家の所有物が普通に存在している学校、内心「入る学校を間違えたよな」と後悔しているが、この校舎は父ではなく多分祖父が作った奴だろう。
そうに違いないと言い聞かせて無視しようとするが、沙喜はさらに追撃を仕掛ける。
「この校舎先月完成したらしいわよ。学校側に新施設の建設費用から実際の建設まで全部海谷家が払ったと聞いた」
僕の方に向かってニコニコ笑いながら語りかけてくるが、その笑顔は今だけは本当に煩わしいことこの上ない。
明らかに僕が嫌がっていることだと理解して、それを口にされるのが本当に嫌なのだと分かって行っている行動。
「そうなんだ。知らなかった。流石の海谷家だね…真君が入学するからかな? それとも関係ないのかな?」
そして、それを知らないと僕にダメージを与えてくれる幼馴染の一華、僕の心には二人からの攻撃で無残にも傷つけられている。
そんな僕を見ながら沙喜はさらに口元を上へと吊り上げながらニヤリと笑いながらさらに僕を見るのだ。
「いいえ。この際関係あるでしょう。間違いないわ…そうだ。この施設は行ってみましょう。そこに関係者の一族が居るんだから入らせてもらえるでしょ?」
「いいね! ここからだと入学式の会場も近いし、入ろうよ!」
僕に拒否権はなさそうなので諦め、逃げられないようにと二人は僕を拘束しながら中へと入ろうとしたその時、一人の男子生徒が声を張り上げながら話しかけてきた。
「一年生の分際で新校舎を使おうとするんじゃねぇよ! 女子を両脇に抱えてハーレムのつもりか!?」
「………誰?」
僕は沙喜を見ると先は一瞬だけだが僕のインコムを見る。
インコムはすっかり黙り込んでおり話し出すつもりがないらしい、沙希は僕の拘束を解いて「えっと…」と言いながら頭の中にある全生徒の名簿を調べ始めた。
というか、答えが返ってくるとは思っていなかったので驚いた。
「確か二年の後藤田先輩よ。ちなみに開発部とかいう新進気鋭の部活動に入っていると聞いているけど?」
「ちょっと! 私達がどこに入ろうと勝手でしょ!? 少なくともあなたみたいな野蛮人で原始人みたいな顔の猿に使わせるよりこの施設だって私達に使われた方がましよ!」
僕は吹き出してしまう。
確かにチンパンジーの顔をしているゴリラが服を着て歩いているみたいな、まさしく野蛮人で原始人みたいな男だった。
沙喜も流石にこの言葉にはクスリと来たらしく、顔を見られないように細心の注意を払いながら笑う。
しかし、言われてしまった当の本人は顔を真っ赤にして額にはあからさまな怒りマークが見えた気がした。
僕と沙希は流石に「やばそう」と判断し、一華の名前を呼ぼうとするがそれより早く男は一華の右頬を叩こうと腕を持ち上げる。
そして、それを振り下ろそうとしたその瞬間、その腕をつかんだ男がいた。
僕たち同様に早く学校に来ていたらしい聡だった。
「ちょっと先輩? 図星だからって殴るのはどうかと思いますよ…。それにこの学校の施設は海谷家の所有物。海谷家の人間が使うことは間違っていないでしょ? 先輩だって聞いているはずだ」
「その通りだと思いますよ。此処にいる男子生徒は海谷家の一人息子の真ですよ? 野蛮人の原始人さんとは違って現代人なんですよ?」
「沙喜! 挑発するな! 一華もだ。これ以上挑発するな。でも…先輩。女子生徒を殴ろうとしてただで帰れると思っていませんよね?」
「下級生が上級生を一丁前に挑発する気か!? ぶっ殺されたいのか!?」
「じゃあ勝負しようぜ。入学したての素人に負けたら土下座で謝罪して一生かけて僕達に関わるな」
「良いぜ! 俺が買ったらこの女を隙にさせてもらうぜ!」
今時珍しいぐらいの野蛮人に俺達は驚いてしまう。
「沙喜。一華を連れて入学式の会場へ」
「でも!」
「駄目だ! 流石に少しは反省して先に入学式の会場に行け! 速攻で終わらせて僕も向かう」
そういって僕達は海谷家の所有物のビルへと入っていき、見届けの為にと聡も中へと一緒に入ってきた。
受付の人に「ARアーマーズを使わせてほしい」と頼み、僕の名前を出すと受付の人は快く三階の特設会場を使わせてくれた。
「こちらの会場は特設会場で四月末から五月上旬ごろに行われる大会の舞台として調整されています。試験運用で最新設備もテストされていますが、普通に試合を行う分には問題はありません」
多くの観客席が周囲をぐるりと囲んでおり、そのど真ん中にはバスケットコートより大きい円状のテーブルが置かれている。
公式などの大会で行われるフィールドを作り、そのフィールド内で戦わせるために装置、実際に僕が見るのはこれが三回目だったりするが、聡は流石に初めてだったらしく感心するような声を漏らす。
先輩の方は鼻を鳴らしながらAR・アーマーズのゲーム機を取り出す。
俺と対面となるように立ち、お互いの目の前にある差込口にゲーム機を差し込む。
すると円状のテーブルが淡い光と共に粒子を放ち始め、あっという間にフィールドを構築し始めた。
先輩の位置を北に、南側には森北側には大きな川が西に向かって流れており、東側にはちょっとした山が存在している渓流フィールド。
お互いの機体は森の木で隠れるように配置、そして僕と先輩の後ろに金属製の椅子が現れ、それに座ると前方には操縦桿が現れる。
足元のペダルの押し込み具合を確かめる。
『対戦か? よくもまああんな感じで喧嘩を吹っ掛けることができる』
「僕が吹っ掛けたみたいな言い方止めろ。サポート頼むぞ。一華を殴ろうとした罪、何より一華をそういう目で見たあの目をつぶしてやる」
『しかし、操縦桿システムは使ったことは?』
「ある。昔お小遣い稼ぎでシステムテストをやらされたことがある。僕の空間認識能力のテスト用にも使ったことがあるからむしろこっちの方がしっくりくるな」
『なら良い。調べた限り旧式タイプと操縦システム自体は変更しない。ただ、感度が上昇しているようだから心半分意識的に早めに動かすようにするといい』
「あの男の機体は分かったか?」
『変更していないのなら典型的なパワータイプの機体だ。遠距離武装はそこまで搭載していないが、フィールドを使った攻撃が得意で、基本はこういったフィールド構築式の試合を好むようだ。開発部では去年夏の選抜の補欠に選ばれているようだな』
夏の選抜。
夏の時期に行われる選抜試合の事であり、学校毎にクラブや個人を集めて行われるチーム戦と個人戦が行われる。
対戦方式はフィールドを構築して戦う構築式を採用され、施設が整っている学校で地区予選、市大会、県大会、全国大会という順に大会が行われる。
毎年全国大会は東京にある『新東京ドーム』で行われることになっており、これも海谷家が開発関わっていたりするのだ。
『油断はしないことだ。昨日前の試合とは違って普通に強いぞ…』
「やけに強めに脅すんだな…何かあるのか?」
『まあ。気を引き締めろ。相手はチーターだ』
チーター。
要するに卑怯者である。
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