AR・アーマーズ 9
環太平洋連合付属高等学校広島校は沖律市のやや東側にあり、旧国道二号線沿いに正門を構える大きな建物で、三十階建てのビルディングが五つに十階建てのビルディングが二つ、東京ドームサイズの横長の建物が五つと様々な施設が目白押しの学校である。
入学式は広島校の第一講堂で行われる事になっており、海谷真が正門を潜ったのは朝の七時過ぎの事、本人的にはまだ早かったかと腕を組んで考え込んでしまうのだが、だったらいっその事学校内を見学でもしようと思っていた。
歩き出して第一校舎という名前の三十階建てのビルディング前に掲載されている掲示板、その掲示板には一年から三年生までが掲載されており、真は自分のクラスを簡単に確認しつつ、知り合いがいるかどうかだけ確認。
偶然か、誰かが仕組んだのか、知り合い三名が同じクラスだったことに驚きを隠せなかったが、真の隣に立って同じように掲示板を見ていた沙喜は「あんたが仕組んだの?」と訴えてきた。
「不当な訴えだぞ。何もしていないし、するメリット無いだろう? ていうかそんなことに不正行為をしないぞ。僕は…」
「チートは嫌いだ…でしょ? 耳にタコが三つほどできるぐらい聞いたわ。そのセリフ。まあ偶然としておきましょうか。そこのAI君がしでかしたパターンを想像しているけど」
『流石天才だと評価しよう。一か所にまとめておいたほうが私が管理しやすい』
「お前の都合でクラッキングと隠ぺい能力を駆使してクラス替えを弄り倒すな」
『最近のクラス替えは全てコンピューターがランダムで行うのだな。お前の祖父が幼い頃はまだそんな進んでいなかったからな』
沙喜が「流石高性能人工知能ね」と評価しながらも本当に興味がなさそうに歩き出していく。
別段付いていく理由はないが、何となくという理由で後ろをついていく真に何を思ったのか沙喜はふざけ倒すつもりだったのか、誠以外誰にも聞こえないような音量で発言した。
「ストーカーが後ろから追いかけてくるわ。怖い」
「それ誰もいないって分かっているから言っているんだよな?」
「ちょっと! 沙喜ちゃんをストーカーしないでよ!」
真は前を歩いている沙喜に恨み言一つでも言いたい気持ちになったが、後ろから飛んできた声の主がそれを遮るように先の右腕をつかんで舌を出す。
沙希は分かっていたのか振り返って「一華」と声をかけると、一華は先の右腕をつかむ。
「駄目だよ! この乱暴者と一緒に行動していたら暴力的になるから」
「あら。なら一番一緒に行動している一華が一番乱暴者にならない? その理屈」
「ならないもん!」
「乱暴者になることとストーカー化は一緒にならないだろう? ていうか同じ方向に歩いていくことをストーカーとか言われたら全ての人間がストーカーになりかねないな」
一華が現れると同時に一瞬で黙り込むヴァイス、恐らくしゃべると面倒ごとになると自ら判断したのだろうけれど、真は内心「ありがたい」と思えた。
ヴァイスの見た目は真の専用機と瓜二つで、見ただけで一華は昨日戦った相手が真だと分かってしまう。
無論それだけではなく、ヴァイスは一華と真とのすれ違いの悪化を懸念していた。
正直に言えば、ヴァイスは真と一華のすれ違いが一歩間違えたらそれこそ絶縁や事件に発展しそうなほどであると推測していた。
今朝の話を聞けばヴァイスにはそれぐらい簡単に推測できる。
そして、黙り込んだヴァイスの様子を見て真だけじゃなく沙喜もまたヴァイスの機微が分かった。
(本当に空気が読めるのね。やっぱり普通じゃないわけね。ビビアン系列だから疑っていたけど…人間にどこまでも似ているAI。いいえ。人間を参考にして作り出した『究極の人工知能』だったかしら? 真も大体めんどくさい代物を押し付けられたわね)
「二人で一緒に登校?」
「あら? 私に嫉妬? それともあっちに嫉妬? どっちかしら?」
「両方…」
「偶然一緒になっただけだから安心しなさい。それよりそろそろ腕が重たいから開放してほしいな」
二人は仲良さそうに歩いているが、真は二人の間に何か確執があるように思えてならない。
無論それはあくまでも真の視線からそう見えているだけで、実際に真自身そうだという確証はない。
三人で歩くこと十分ほど、剣道場の前を通り過ぎた。
「流石に入学式当日の朝は練習無しよね…真は何か聞いてる?」
「? 聡は今日の午後からは部活動に入って練習するって聞いてるけど? 僕は冷やかし半分で顔出すけど」
「最低。そういうことするんだ」
「顔出さないでさっさと帰るほうが冷たいだろう? 僕なりに「聡頑張れ」ってエールを送るんだよ」
「言い方よね。良い風に言えばそう聞こえるんでしょうけど…まあ、中学時代みたいに『部活荒らし』って言われる行動は控えることね」
「と唆した当の本人が何か言っております」
「? 何の話?」
「「何でもない。気にしない」」
「むう! また二人だけの世界? たまには入れてよ」
「あら。たまには入れているでしょ? いつも入れると不貞腐れるもの。真に対してしているあの嫉妬を私にまで向けられたら堪ったものじゃないわ」
「それを四六時中向けられる僕の気持ちになってくれない? それともそれも計算のうち?」
「さあ? どうかしら」
沙喜は真面目にこれ以上話すつもりはないようで一気に黙り込む。
一華はチラチラと真の方を見ているが、誠は知らないふりを続けるだけだった。
「言いたいことがあるならシンプルに聞いたら? そうやって聞きたいことから逃げる癖直しな」
「沙喜ちゃんは昨日から意地悪だ…言いづらいし…聞きにくいもん」
(何となく分かっていたけど…やっぱり気が付いているパターンよね。負けた時は気が付いていなかったはずだけど。寝る前には確信した感じかしら。でも、これも成長ね。去年までだったら分かった時点で喧嘩だもの)
実際去年までは真に負けたと分かった時点で時間を気にせず即喧嘩、その不満を翌日に沙喜が聞く羽目になることがパターン化していた。
しかし、沙喜は「じゃあいつ頃から大人しくなったのか?」ともし聞かれても正直予想することだってできやしない。
卒業式の時点ではまだ荒々しさが残っていたはずだが、沙喜にも真にもこれが良い変化だとは思えなかった。
「そろそろ入学式の会場だけど先に入って待ってる? まだその辺見学する?」
「後何分で開始?」
「えっと……後約一時間ほどかな」
「ええ~一時間ならその辺ウロウロしよ! なんだったら学校のAR施設とか見てみたい! そうだ! 実際に使ってみようよ!」
真は後に後悔することになる。
大人しく入学式の会場で大人しくしていればよかったと。
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