AR・アーマーズ 8
海谷真達が入学する環太平洋連合大学付属高等学校広島校の入学式に向けて朝早くから起きて毎日のジョギングをするために軽めのスポーツウェアに身を包み、スニーカーを履いて家を出たのが午前六時ギリ前だった。
駆け出していき桜並木を通り過ぎながら散りつつある桜を横目にしていると、真正面に小田沙喜が立って待ち構えているのが見えた真は足を一旦止めてから声を自ら掛ける。
「何? 朝早くから制服で待ち構えるなんて…」
「別に、真に会うのに私が時間を気にすると思っているわけじゃないでしょ? 実際今までだって何度も何度も時間を気にしたことは無いと思うけど?」
「ジョギングが終わるのを待ってほしい。日課をサボると調子が落ちるんだ」
「分かった。あんたの家の前で待ってるから」
そういいながら環太平洋連合大学付属高等学校広島校を略し『
真はそのまま再びジョギングを再開しながらインコムからヴァイスが話しかけてきた。
『あれが小田沙喜か。今年の入学制の中では学年主席だったな。次席が真だったな。色々察しが良さそうで、同時に秘密ごとが多そうな女だ』
「秘密はあるだろうな。僕も下手に探りを入れないようにはしているし」
『良いのか? むしろああいう天才は最低限でも探りを入れるべきだと思うんだが? 危険なことや危ないことを事前に知ることでリスクを減らすことが…』
「いざとなったりしたら探る。あの女の性格上自分の悩み事は絶対に口にしないからさ。まあ、悩むことが少ないから僕が手出しすることはしないけど。僕が手出しする案件となるともう警察沙汰だよ」
『では、警察沙汰の場合どうするつもりだ? まさか本当に警察に伝えて「はい。終わり」とするつもりではなかろうな?』
「それはないけどな。内容次第だよ。まあ、僕が介入して解決した後で警察にお任せする方針かな」
『悠長な事だ。気長に構えていると後で酷い目に合う。まあ、ああいう天才というのはお前のように最強同様にある程度は自発的な解決が出来てしまうからな。でも、どうなんだろうな。言って見せたが、正直あのレベルの天才が悩む悩み事となると家族がらみではないのか? というか、お前はどのレベルであの女のことを知っている?』
「………察することはできる。推測も出来るし裏付けもやろうと思えばできる。出会った場所とか考えれば推測は確信に変わると思う。でも、下手には探らない。それこそ探ればバレる。それが分かるのは…困る」
『フム。だが、いざとなれば私は調べてもいいのかな? それとも自分で調べるつもりなのか?』
「その時は流石に頼むよ。俺が調べても時間が掛かるだけだしな」
話をしながらジョギングをしていると気が付けば家の近くまで走ってきていたことに気が付いた真、海谷家の家は実家の会社の支店最上階三つが真の家となっており、会社の裏口から入って家に向かわなければならない。
案の定一回の裏口前で待っていた沙喜は壁にもたれ掛かりながら真を待っており、真を発見して起き上がってからそのまま歩いて中へと入っていく。
真もそれに続くように入っていき、エレベーター前にインコムを当ててエレベーターを起動させ、最上階へのボタンを押す。
二十人でも余裕があるほどに大きなエレベーターの中は寂しく沈黙に満ちていた。
「あれ…どういうつもり?」
「何の話だ? いきなり」
「昨日の対戦よ…あれわざと? それとも偶然? あの子に当てつけのようなことして…あれバレているわよ」
「? そうなのか? 僕が当てつけのようなことをすると?」
「しかねない性格しているでしょ? それともされないと皆から思われていると思っているわけ?」
「…思われているだろうな。でも、流石に中学時代のあれで反省したよ。お前が居ないときに起きたあの大喧嘩で」
「なら良いけどね。あの体育だってあんたが私に頼んであんな試合を組んだのよ? 案の定あんたが遊びだしたけど。バレないって自信満々でさ。でも…」
「結果は男女どうして勝手にエスカレートしたんだよな。目論見が外れた時には流石に思ったよ」
あの喧嘩はあらかじめ真が一華への嫌がらせを兼ねて行ったものだったが、結果は二人の目論見や計画が周囲の感情の高まりで破綻した結果に終わった。
あれ以来真と一華の間にあった溝は悪化したといえる。
エレベーターが目的の階層へと辿り着き二人はエスカレーターを降りてからそのまま真の自宅へと足を踏み出す。
インコムを玄関に触れさせると鍵が開く音と共に女の子の『にゅあ~ん』という声が聞こえてきて真は吹いた。
明らかに冷ややかな目線へと変貌する沙喜、何が起きているのかまるで分らず弁明の言葉すら見つからない真。
するとヴァイスが話し出した。
『あまりにも空気が重たく暗いために私が和ませようと変えたのだ。どうだ? 和んだか?』
「空気が凍り付いたわ。僕が自発的に入れたんだと思われるだろう?」
「何? それ人工知能? ああ。ビビアンの同型タイプね。そういえば残り三機あるって聞いたことがあるわ」
そういって先は真より早く室内へと入っていき、真はヴァイスに「直せ」と言い聞かせる。
シャワーを浴びて出てくる最中沙喜は軽めの朝食を作ってくれたようで、焼いたばかりの食パンにレタスやトマトなどの簡単なサラダがおかれていた。
真が食事をしている間にも沙喜は真のインコム越しに存在しているヴァイスにご執心だった。
「初めて見たわ。初めまして」
『初めまして。ヴァイスという。君のことは最低限データベースから探って調べている』
「あら。恥ずかしい。どの程度調べたのかしら? その辺少し詳しく教えてもらってもいい?」
『プライベートなことは調べていないつもりだ。無論真からの指示があればすぐ調べる』
「要するにこの子が余計なことを知ったら真を恨めばいいわけね」
「僕への呪いが強まることを言わないでほしいんだけど? で? 結局用事は何?」
「? あんたのご両親からあんたが入学式にきちんと出るように見ていてほしいって頼まれたんだけど?」
「お前がそういう風に仕向けたわけじゃないのか? 僕と一華を接近遭遇させないためにさ」
「あら。あなたのお父さんを騙せる自信は私には無いわね。これは本当に頼まれたのよ。あんたが何か言い訳して入学式をボイコットする可能性があるから…と」
「失礼な」
『私の中では四割程の可能性で起きると予想していた。それこそバスが止まっているとか、多少の気分の悪さで起きかねないと思っている』
真に対するイメージが両者とも同じような感じな事にはもう突っ込まないことにした真。
「行くさ。行かないとそれこそ教職員から親へと告げ口されたらせっかく親から離れているのに引き戻される口実にされかねないし」
「あら。大人しく戻る選択肢があると?」
「無いけど? 頑固反対の意向を取る」
食パンを半分ほど食べた時に沙喜はふと気になったことを尋ねてみた。
それはどうして真は親が嫌いなのかということ。
「子供を放置して仕事人間みたいに生きる人を好きになる理由が無いだろ? 口を開けば『仕事だから』を言い訳にする。物心ついた頃の誕生日は一華と沙喜とメイドぐらいだった」
「覚えてる。遅れてお爺さんがやってきたのよね? 結局二人が喧嘩して終わったのを今でも覚えてる。楽しいって記憶しているから」
「いい性格しているって言われるだろ?」
「ええ。よく知っているわね。私のファン? それともストーカーかしら?」
沙喜の冗談に真は最後の食パンを食べきってから笑顔で答える。
「友人だろ? それ以上もそれ以下も無いさ。これから先も」
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