AR・アーマーズ 6

 小田沙喜という少女を新島聡が正直に言って苦手だったりするが、それでも最低でも友人だと言い聞かせて生きてきた。

 決して悪い人間ではない。


 海谷真を『最強』と表現したが彼女の場合は『』である。


 この時代に飛び級制度がもしあったなら彼女は小学校に通っている歳には大学に通っていたはずで、それを誰よりも海谷真達はよく知っていた。

 幼い頃に彼女がどこかの等ということは一種の噂として誰もが一度は聞いたことがある話で、その真実を知っている者は誰もいない。

 実際小田沙喜の実力があれば本来国立の学校へと進学することも、もっとレベルの高い高校へと進学することだって難しくないのに、彼女は別段進学することに意識的ではなかった。

 というよりは明確な目標のない中、小田沙喜という少女は無暗に意味の無い進学を選ぶ気がなかっただけであり、正直大人になって条件のいい進学先さえあれば本人はいいと思っている。

 そんな天才である小田沙喜は海谷真の最強性に気が付いており、自らの天才性を隠すことを平然とし、それを幼稚園の頃からずっと続けてきた。

 中学で新島聡が海谷真に出会ったとき、二人が最初付き合っているのだとすら思うほど、二人はよく一緒に行動していたし、最初こそ海谷真に対するイメージは酷かったが、その理由の半分は彼女が原因だったりする。

 要するに彼女は海谷真を利用した。

 しかし、それを海谷真が気が付いていないとは思えない、それが新島聡の意見であるが、何度海谷真に問いただしても本人はまるで答える気がない。

 何か傍に置く理由があり、その理由はどうやら彼女自身理解している。

 二人は『WinWin』の関係なのだろう。

 それを本人達が理解していればいい、だから一華は知らないし教えてもらおうと思っても答えてくれない。

 というよりは一華は二人の関係はおろか、二人の間にある怪しい噂すら知らないのだ。

 海谷真は半分意識した鈍感であるのに対し、一華は本当の意味での鈍感なのである。

 惚れたという噂話が大好きという側面がある一方で、そういう話を振られても鈍さが際立ち会話が成り立たないのだ。

 実際そういう話を振られても気が付くのに時間がかかったということは中学時代から多くのエピソードを持っている。

 しかし、その分小田沙喜はそう言う点では鋭いほうで、天才と馬鹿は紙一重とはいうが、彼女は天才ではあっても馬鹿ではない。

 料理は普通に出るし、他社への配慮も最低限こなすことができるし、何よりも恋心にも敏感に働く。

 だからこそ小田沙喜は誰よりも早く海谷真と紀一一華の関係に気が付いてしまった。


 二人は幼馴染であり両想いにお互いが気が付いていない。


 小田沙喜はいつでもため息を吐き出しながら二人の関係を取り持っており、それを新島聡が知ったのは中学一年の夏でのこと。


 新島聡は夏休み前に剣道部の練習中に腕の骨を折ってしまった時、練習もゲームもできない状況に飽き飽きとしていた。

 仕方がないと何度自分の心に言い聞かせてきたつもりだが、暇そうに佇んでいた時、海谷真と紀一一華が言い争いをしている姿を見てしまう。

 職員室前で小田沙喜も居ない中での言い争い、教職員が慌てている中での言い争いだったのだが、新島聡はいまいち内容がわからなかった。

 その後、海谷真から聞いた話では、前の体育で何故か女子が乱入して男子とバスケットボール勝負になってしまったと、そして当初こそ男子は女子に勝ちを譲ろうとしたらしいが、女子の挑発に耐えられなくなった一部男子が逆転勝ちをしてしまったそうだ。

 そこで、海谷真が「手加減をしていた」という真実に紀一一華が気が付いてしまった。


 そこからはとにかく言い争いだったそうで、海谷真からすれば別段紀一一華の為に手加減をしていたわけじゃないうえ、挑発し勝手に乱入した女子が悪いという主張。

 そして、紀一一華の主張は海谷真が一方的に手加減したと怒っているのだ。

 教師曰く、「この二人の言い争いは三日に一度の割合で起きている」とのこと。


 そこで、暇をしていた新島聡は海谷真がAR・アーマーズの開発した会社の一社の御曹司であることを知った。

 無論新島聡はそれで彼を特別扱いをするわけではなく、自然とそこから仲良くなっていく。


「こいつ悪い奴じゃないな」


 それが海谷真のあった時の第一印象である。


 その後小田沙喜に出会った。

 翌日の事、海谷真が正面玄関の下駄箱前で女子と話している姿を遠目に見て「彼女か?」と本気でそう思ったが、その日の夕方には「違う」とハッキリと否定されたし、その時の態度で海谷真が本当に好きな相手が誰なのかわかってしまったのだ。


「あれは幼馴染だよ。どうにも昨日僕が一華と喧嘩したらしいと一華からそれとなく聞いてな。色々と愚痴を言われたんだよ」

「愚痴? なんで?」

「あれは僕と一華の間を取り持っている奴だからさ。幼稚園からの付き合いだし…それに…」


 それから先海谷真が発言することは無かったが、たぶんそれが理解したきっかけだった。

 しかし、実際話をしてみると予想以上に海谷真と紀一一華以外に興味がないということがわかってしまうのだ。

 そう、彼女は二人以外に対する人的興味はまるで存在しない。

 なぜ彼女が海谷真と紀一一華を気にしているのかは誰にもわからないらしい。


「僕も知らないんだ。そもそも、あいつから僕に話しかけてきたんだから。一華の直ぐ後だったって記憶しているかな。会ったのは病院。と言っても僕が病気をしていたわけじゃないぞ?」

「え? そうなのか?」

「だけど、だからと言ってあいつが病弱というわけじゃない。単純に僕が居た理由も祖父の健康診断を大学病院で本格的に行うのを待っていただけだし。でも、あいつは居た。もっともあいつはどういうわけか紀一一華には出会いは話していないらしいけど」


 しかし、小田沙喜の行動をその後海谷真の噂話と同時に聞くことになり、彼女の評価は正直あまりいい感じではなかった。

 天才故に最強と称される海谷真の評価よりマシだったが、それでも隠し切れない部分に彼女の質の悪さがにじみ出ている。

 それだけに二人でコンビを組ませるとその辺の組織だったら軽く壊滅できるやばさがあるのだ。

 それを自分で買ってきたジュースを飲みながら新島聡は思い出していた。

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