AR・アーマーズ 4
玄関のドアを開けるとズカズカと室内に入ってくる失礼な親友『新島聡』はそのイケメンフェイスを僕に見せつけながら何かビニール袋を押し付けてきた。
なんじゃこら?
そう思いビニール袋の中身を確認するようにのぞき込むと、中には炭酸ジュースが三つとチョコ菓子が二つ、僕炭酸飲まないしチョコレートは苦手なんだけどな。
こいつわかって買ってきているから困ったもので、本人は鼻歌交じりでソファに腰かけリモコンをいじり始める。
「邪魔しに来たんなら帰れよ。何しに来たよ?」
「いやいや。まかさ邪魔をするだけに来るわけないじゃん。お前のことだから今日から早速ゲームをし始めているんじゃなかって思ってな。だったらいろいろと指導を…」
「もう間に合っているから十分だよ」
聡は何を言っているのかわからないという顔をしているが、その答えは俺のゲーム機がきちんと教えてくれた。
『この男が親友の新島聡か? データにはそう記載されている』
「そのデータを誰が編集したのか聞いてもいい? どうせ僕の知っている人物だろうけどさ」
「え? 何々? これAIってやつ? こんな高性能AI存在すんの? 聞いたことないけど?」
「じいちゃんが送っていたからこの世で一つだけだと思う。だから間に合っているって、このビニール袋と一緒にお持ち帰りください」
「なんでそんな冷たいことをいう!? せっかく買ってきたのにさ!」
「俺が炭酸もチョコレートも嫌いだって知ってるだろう?」
「好き嫌いしていたら成長しないぜ。たまには食べろって」
「だったらお前も魚食うんだよな? 無論。そこまで言うなら直せよ、好き嫌い」
『子供の言い争い。今現在無駄に時間を消費していると推測するぞ。このような時間があるなら試合継続を提案する』
「何々? 試合していたの? 何勝した?」
「お前の信頼値が以上に高い理由はなんだ? なんで勝つこと前提なわけ?」
「じゃあ負けたのか?」
「…勝ったけどさ」
「なら間違ってねぇじゃん。一回、一回突っかかってこないでほしいぜ」
「なら突っ込ませるような行動を普段から取らないで欲しい。お前は一日一回はどこかに突っ込みどころを用意するんだもん」
「そこまで?」
腕を組んでから考え込むが、その間奇妙なことにヴァイスは黙り込んでいる。
僕はヴァイスがいるはずのゲーム機をのぞき込むと、そこにはヴァイスはおらず俺は自分のインコムを確認すると、案の定そちらに移動していた。
自由だな…こいつ。
『この男との対戦は有意義なものになると判断するぞ。対戦歴はそこそこ長く現在もうすぐBランクだ。初めて三年でBならそこそこ腕前はいいはずだが?』
「お! どうやらそのAIは俺の実力を高く見積もってくれているみたいだぜ」
なら仕方がないと僕はパスワード式の対戦ルームを作りそこで数戦してみようという話にした。
まあ一機しかない僕とは違ってきっと複数機用意していると思われる相手だ。
先ほどと違って気を抜くことはできないだろうが、その分いい訓練にはなりそうだ。
「対戦ルールはHP制。勝敗条件は相手のHPを削り切ったら。とりあえず腕前を測るために一戦してみるか…」
「勝手に決めるね。まあその辺は任せるけど」
所詮まだ素人には発言などない。
度が過ぎればきっとヴァイスが止めるはずだし、そう高を括る。
「といってもハンデをつけるべきか…今のままHP制で始めたらレベル差が出るんだよな…いる? ハンデ」
「? レベル?」
「ああ…そういうレベルね」
『このゲームは幾らかルールがある。機体そのもののパーツ毎に耐久値が存在しており、機体を操縦不能にするデスマッチ制、先ほど行ったいくら攻撃しても機体そのものに影響を与えないHP制、拠点を用意してその拠点を防衛する防衛制など様々だ。一般的にはデスマッチ制は国際ルールで日本国内で発展しているのはHP制だな。拠点制はチーム戦で行われるルールだな。そこでHP制だ。HP制は機体そのものの性能にプラスプレイヤーのレベル分だけ数値が加算される。それ故にレベルやランクの高いプレイヤー相手だと不利になるが…この場合デスマッチ制にしたら新島聡のほうが不利になる』
「え? マジで?」
『マジだ。マジという言葉は本当か? という意味ならそうだ。海谷真が所有している機体『アーノルド』バランス型の機体だが、本社が一から開発しているために開発費用が桁外れだ。そこにこの男の実力が加味されれば、多少のハンデ差は覆る。よってハンデは必要はないと判断する。どのみち私のサポートがあるんだ。むしろHP制で互角だと判断する。プレイを続けていけばさらに実力が増していく。よってランクマッチを排除しないと新島聡が後悔する展開になると推測する」
顔面蒼白という言葉をこれでもかというほど分かり易く教えてくれる聡、まあ僕は何でもいいんだけど。
所詮Fランクでいる間は失うものがないわけだし…そもそも気にしていないし。
とりあえず一戦してみようという話になった。
僕は聡がゲームフィールドをテーブルの上に作っている間に、家の中にある記憶粒子を放出するための端末を探し出し、前に実家から送られてきたやつを探し出した。
聡はテーブルの上にコップや小さい段ボールなどを配置していき、僕はテーブルのど真ん中に端末である『タワー』を配置する。
準備万端、僕たちはタワーをを挟んで体面のソファに座り込んで勝負開始とした。
まず開始三十秒前にお互いの正面にお互いの機体が出現していく。
僕は黒い両腕を覆い隠すような装甲を付けたバランス型の機体、それに対し向こうは中のフレームが見えそうなほどスッカスカの機体、防御を捨てて機動力にステータスを全振りしているのではと思われるが、HP制の場合これで十分なのかもしれない。
タワーの真上に英語で『勝負開始』の文字が立ち上がると同時に僕は両腕を隠しているアーマーを前方に集めながら右側に移動。
すると聡の機体はコップを一ジャンプで乗り越えてから僕を視界に捉え、一気に突進を仕掛けてくる。
後ろに大きく下がることで回避しようとするが、一瞬だけ早く装甲を切りつけられてしまう。
ダメージそのものは低かったし、何よりバランスを失うということはなかったので、僕はそのまま聡の機体に向かって装甲の中に隠していた拡散弾を浴びせる。
一発一発の銃弾のダメージは低いが、その分至近距離で浴びせれば多少吹っ飛ばすことができるはず。
しかし、機体がスッカスカなのがこの場合聡にはいい判定を受け、予想以上に吹っ飛ばずに距離を稼ぐことができなかった。
僕は相手の動きに合わせてヒートサーベルを取り出して、聡の機体の剣の攻撃に合わせるようにヒートサーベルを振り下ろした。
僕のヒートサーベルは聡の機体の左側面を大きく削るようにダメージエフェクトを作り出し、聡の機体の剣は僕の機体の足元を多少かすめる程度、何か聡は僕の動きに手間取っているようにも思えた。
聡の表情を一瞬伺うと焦ったような表情をしていたが、これが一体何を意味しているのか。
『おそらくだが。拡散弾が通用しなかった時点で真が焦っていると判断して追撃を仕掛けたのだろう。そうすれば焦ってコントロールを失い、さらなるダメージが期待できると。だが、実際はお前は素早く意識を切り替えてから突っ込んできた。本来海谷真がいた地点から大きく対象がズレてしまったので攻撃が外れたんだ。実際相手が機動力にものを言わせて距離をとっている』
ヴァイスの言う通りで聡の機体は僕から大きく距離を取りタワーの後ろに隠れてしまった。
タワーの両サイドは開けているので左右から出てくればばれるはず、最も更に後ろに下がってから別の物陰に移動するなら話は別だが。
『左右から飛び出す可能性は最も低い。この場合大きく距離を取り、物陰から様子を窺っている状態だと推測する。ここはあえて突っ込んでいくことを推奨する』
ヴァイスの指示を信じて突っ込んでいく僕、タワーの裏にはいないと判断しコップの後ろへと回り込むと、案の定機体を隠していた聡の機体を発見、聡の表情が顔面蒼白なのがはっきりと僕には見えた。
攻勢に出るべきと思ったその時焦っている聡の表情が一瞬でキリッとした感じの表情に切り替わる。
追い詰められたことで意識を集中させたのかもしれない。
逆境に強い男なので、こういう状況はむしろ得意技だったりする。
しかし、ここで引くわけにはいかないと気持ちを引き締めなおして僕は突っ込んでいった。
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