AR・アーマーズ 3

 一人の栗色の髪を後ろに纏めて居る少女がうつ伏せになりながらカフェレストランのテーブルにうつ伏せになり、その対面で割と大きめな溜息を吐き出した黒色の短めの髪をしている少女がうつ伏せの少女を見つめる。

 うつ伏せになっている少女はその手に握りしめていたARアーマーズをそっと手放し、対面にいる少女の名を呼ぶ。


沙喜さきちゃん…また負けたよぉ~」

「仕方ないわよ。一華。だってアンタゲーム音痴でしょ? 昔っから分かっている事じゃない。だから言ったでしょ? アンタは開発や改造だけしていれば? って。私と一緒でプレイする才能は無いんだもん」

「だって…ゲームする以上はやっぱり勝負して勝ちたいじゃない! ずっと負けっぱなんだもん。しかも今回は…」

「明らかに相手素人よね。機体こそスペックがヤバげ立ったけど、ランクはFでしかも勝敗が完全に0勝0敗。今日始めたばかりの人間」


 沙喜と呼ばれた少女は脳裏に『海谷真』という少年を思い浮かべたが、それを口に出せばこれから彼の自宅を強襲しかねないから自粛した。

 何というか、彼が上手いと言う事は分かっていたし、そんな彼なら明日に向けて今日からプレイしかねない。

 そして、あんな高性能機をアッサリ用意できるのも財力がある彼なら出来ると考え、同時に対戦場所とその直線上にありながら丁度対極にある建物は海谷家の自宅兼『ビビアン・ゲームズ・コーポレーション』の支店も兼ねているあのビルディングしかないと。


「腕前がアンタとダンチでしょ? ずっと見て居たけど、見切るとか、隙が無いというレベルじゃ無いわよ? 相手だってそこまで極端なうまさじゃない。明らかに今日昨日始めたばかりの人間よ。単純にアンタが下手だから相手が勝っただけじゃない?」

「き、機体性能とか…」

「それもあるけど、勝敗結果にはそこまで左右しないわね。機体スペックは上級者や各国ランカーや世界ランカーには影響するけど、この程度のランクだとそこまでじゃないわ。単純に腕前の問題!」


 要するに下手くそ対上手な人という構図であると説明、一華は再び突っ伏してから「そんなぁ~」とぼやきながら何かをブツブツと呟き始める。


「まず最初にアンタが相手に長距離攻撃であるレールガンで攻撃した後の動き見た? アンタはそのまま棒立ち、相手はその攻撃を開始と同時に右側に動いて回避しつつ視界から消え、そのまま一気に距離を詰めてから腕に隠していたヒートブレードで切り刻んだ。もうこれでHPは七割減ったわよ。そこから…」

「それこそ機体性能…!」

「無い。ランクがそのまま機体性能にも繋がるこのゲームにおいて、本来DランクとFランク同士でも十分機体性能差は埋まるはずよ。それに本来武装による攻撃は腕前で多少は減らせるわ。護るなり、機体を動かして致命傷を避けるなりね。アンタ何もしなかったじゃ無い」

「こ、コテンパンにするね…沙喜ちゃん。今日は特に容赦無い」

「そりゃあアンタの試合を昔っからずっと見てきたからね。でも、それを差し引いても相手のあの勘の良さは中々ね。完全にアンタがレールガンで狙っているとバレていたし、相当の勘の良さよね」


 沙喜は同時に小さく「だから彼がどうしても…ね」と呟いた。


(あの異常なレベルの空間認識能力を持つ彼ならゲームの画面越しにでも勘の良さを発揮するかも知れないしね…それじゃ無くてもあのゲーム嫌いはゲーマーとしての才能を持っているしね。もし、あれのテスト相手として自然と選ばれたのなら…最悪ね。明後日に行なわれる最初の授業までに探っておいた方が良いかも。バレたら面倒だし…)


 沙喜ともう一人だけが知っている海谷真と祈一一華の愛称の悪さ、それ故に基本あまり二人をそういう場面へと連れて行く様なへまはしない。

 しかし、今回はARアーマーズを授業として取り入れている学校、普段以上に接近遭遇を避けるため、沙喜は春休み中はずっと一華と会っていた。

 もとより鈍感な一華なので、まさかそんな理由で会いに来ているなんて思って居ない。


「さっさと諦めたら? まあ、それで言うことを聞いてくれるなら私も苦労しないけどね。学校に行っても負けたらってしつこく襲い掛らないようにね」

「ちょっと! 私が過去に一度でもしたみたいに!!」

「やったじゃない。真君に一週間食いついたでしょ? あれ…彼のトラウマよ。あれでゲーム嫌いが本格的になったんだから」

「そう言えば。どうして真君はこの街に残ったんだろうね」

「露骨に話題を変えたわね。言っておくけど反省会なら結構出来るわよ。今日の戦績分反省会をするつもりでこっちは…」

「嫌! 絶対にしない。沙喜ちゃんの反省会は辛いだけだもん!」

「あのね。反省会なんて基本辛いだけでしょ? 反省会が楽しかったら反省会にならないじゃ無い。ハァ…良いけど。で? 何?」

「だからどうして真君はこの街に残ったんだろうねって。親についていってアメリカに行けば嫌いなゲームをしないで住む」

「あのね…あの子が親嫌いだって知っているでしょ?」

「そうだけど…だったらこの街に居なくても良くない? 隣町に引っ越すとか」

「それをする手間暇が面倒なんでしょう? 真の家って引っ越しにむかないから。そんな事言っていたじゃ無い」


 これは本当の話で、真は中学卒業時にそれを口実にしていたが、沙喜は知っているそれだけでは無い理由を、しかしそれを一華に話したりは絶対にしない。


「親嫌いか…私そう言うの分からないし…」

「でしょうね。私も分からないもん。真だけの感覚でしょ? でも、そういう思春期特有の感覚って大抵中学から高校生程度で来るって聞くわよ。まあ、あれは昔からだけど」

「そう言えば沙喜ちゃんも私同様昔からの知り合いだよね? でも、その話聞いた事無いな」

「別段話すようなことじゃないわ。強いて言うなら幼稚園が一緒とかそんな感じの下らない理由よ。実際一華を通して私は遊んだことしか無いし。小さい頃は特にね」

「うん。中学は行って直ぐの時はお互いに距離が在ったもんね」

「私達みたいな言い方止めて。一華はそうだけど、私は別に距離は無いわよ。普通に遊んでいたし、それに一華の場合は」

「言わないで! 分かってる。私の責任でこうなっているって」

「はぁ…それで反省して実行されれば本当に困らないんだけどね」


 実行されない反省会を前に更に大きめの溜息を吐き出した。


「そう言えばまた話題を変えるけど、なんで沙喜ちゃんも私と同じ学校なの? もっと上の学校狙えるよね?」

「別に。あの学校学費も成績次第で免除されるし、通いやすいし、良い事づくめでしょ? 別に私は何か大まかな目標って無いからね。まあ…一華のサポートで忙しいから」

「そっか…って私がサポートを受けることが前提なんだけど?」

「あら。必要ないと?」

「………これからもお願いします」

「よろしい。で? まだするの対戦。やめておいた方が私は良いと思うけどね。無駄に連敗記録を更新するだけ」

「その代わり反省会をするんでしょ?」

「勿論。じゃないといつまで経っても成長しないし。成長したいでしょ? それとも一生このままが良い?」


 つまる一華に対して笑顔を向ける沙喜、十分悩んだ瞬間一華は「反省会します」と項垂れた。

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