第7話  不穏

「んんぅ...。」

「おはようございます先輩。」


耳に元気な声が響き渡る。

その耳に響く声を聞きながら上半身を起こす。


「あぁ、おはよ。俺倒れたと思うんだけどその後どうなったのか分かるか?」

「そりゃもう大変でしたよ~ 私も先輩が倒れたって思った時にパニックになって海に先輩を放り投げかけたらしいですから...。」


とうっ!っと放り投げるモーションを阿瀬は俺に見せる。


「いや、海に投げるなよ! そのまま俺が海に浮いてきた時に息してなかったらどうするんよ! お前サイコパスか!!!」

「嘘です、ごめんなさい。」

「えぇ...。一瞬ビックリしたやん...。」

「実際は海の家の休息スペース借りて先輩を寝かせつけただけですね~。」

「あぁ、そうか迷惑掛けたな。それとありがとう。 それはもう色々と。」

「ん?です?」


...? なんかトボケてる様子も無いし、どうしたんだ阿瀬。

ポタリと額から足に冷や汗が垂れる。

無意識で今までのお姉さん演技?してきた...?

何かがおかしい。


「阿瀬、お前今日何したか覚えてるか?」

「はい!先輩がホモな人に絡まれてるのを助けてその後お茶しました!」

「...。 お茶する前は...?」

「普通に先輩と海の家に向かいましたよ?」


普通に?

なんだろうこの違和感。 

阿瀬がたまにおかしくなるのは稀に感じていたが、はっきりとおかしい!と言える状態の阿瀬は初めてだ。

何があったんだ?

俺は思考を進めようと目を閉じる。


「寝かせません!」

 

そういって阿瀬は俺に抱きついてくる。

真剣に考えてたのを忘れてしまう位にギューッと本気で抱きつかれる。

あぁ、俺今何考えてたっけ?


「ごめんごめん、せっかく海来たのにまだ泳げて無いよな? 海行こうか?」

「はい! 先輩は泳げないと思うのでボート借りてきましょう!」

「いや普通に泳げるんやが...。」

「先輩と乗りたいんです! 口実が欲しかっただけです!!!」


体を前のめりにした阿瀬が目の前にくる。

女の子特有の何ていうかいい匂いが鼻をかすめる。

なんか今俺キモい事考えたな。

俺はバチっと自分の頬を叩く。

気持ちを切り替えよう。


「はいはい、一緒に乗ろうか。」

「最初から素直にそう行ってくれればいいんです!」


そう言いながらボートを早く借り阿瀬は俺を無理矢理立たせ売店に行く。

売店の前につき、阿瀬は声を出す。


「すいません! ボート借りたいんですけど!」

「はーい!」


売店の奥の方からちょっと美人でフランクな格好をしたお姉さんが出てくる。



「もしかして君たちカップル?」

「はい!そうです! 私達お似合いですか?」


そう言いながら俺の腕を阿瀬は抱える。


「んーまぁお兄さんはカッコいいとは言えないですけど雰囲気は凄く落ち着いてて、君みたいな天真爛漫みたいな人と合ってていいと思うよ!」

「ありがとうございます!」

「そんなにはっきり言われると...(泣)」


うぅっと泣く演技を見せる。

ヨシヨシと阿瀬は頭を撫でてくる。


「甘ったるしい空気見せつけないで!独身27歳のお姉さんの心が苛つくからさっさとどっか行って!」

「えぇ...ボートは!」

「お金は払わなくていい! 後でちゃんと返しにきて! それと彼女と楽しんでこい!」

「お姉さんありがとうございます!」


いいなぁ、似合ってるよ本当に。

なんて声が聞こえてきたが、聞かなかった事にしておこう...。


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