第21話

ミュージカルの劇場についた、二人はチケットの番号を確認して席を確保すると今売店で買って来た紙コップのジュースで乾杯の真似事をして笑う。



「それにしても……」「さっきのは酷かったなぁ」



さっき、後ろの席で席を譲れと怒鳴っていた老人を思い浮かべた。



「あれ、全然違う席のチケットなのに。全然関係ない赤の他人に席を譲れって怒鳴るとかどんなアフォよ」


「まぁ、あーいうのが一人でもいれば。全体の印象は、良くなくなるよな」



「少し前にも、電車でも居たわよ。グリーン席に怒鳴り込んで、若い人に席を譲れーって。若い人は、その席のチケットをちゃんと持ってて老人は自由席のチケットしか持ってなくて駅員に運び出されてたけど」




「一応、電車のルールにはチケットを持ってなくて特に特別な理由がない場合グリーン車は入っていけないし。車両内を通過することも、ダメな事になってんだけどな。チケットなく入った時点で袋叩きにされてもおかしくないんだから随分穏便に済んだもんだ」



開幕のブザーが鳴り、二人が前をみて口を閉じる。


美しい音楽が流れ、舞台が動き出した。



ちらりと、だけ隣を見れば実に真剣な表情で和弥が舞台を見ていて自分もジュースをカップホルダーに置くと舞台の方を向く。



舞台は、ゴーストのボディガードという演目で幽霊になっても最後の仕事であるボディーガードを完遂し天に昇っていくというもの。


「俺は仕事が終わったら、幽霊らしく消えるとするさ」帽子に手をやって、そんな事をいう幽霊に「夜明けまでは、一緒にいて欲しいと背中で泣く少女」


「俺は幽霊だ、だから君の心にしか現れないそういうもんなのさ」


そういって、うっすらと消えていく。


「明けない夜はないんだ、消えない絶望もない。だから、笑顔と祈りで送ってくれ」



エンディングの音楽が流れ、ほらよっと和弥がハンカチを真琴に差し出す。


涙を流しながら右袖でそれを拭きながら、左手でハンカチを出す和弥がいた。


「自分がそれ使いなさい、酷い顔よ」


そういうと、真琴がう~んと背伸びする。




「自分じゃ、まずこういうの来ないから」


「そうだな、俺達は二人ともこういうの選ぶタイプじゃないし。それでも、ちゃんと面白いものだったし。これはこれで、良かったけどな」


「そうね、ただ次からこういうの見る時は多めにポケットティッシュもってこないとダメね」


真琴はそういうと、和弥に自分のバッグから追加のティッシュを差し出した。


「ありがとう、助かる」「どういたしまして」


そういって、二人がまばらになった劇場からゆっくりと手を繋いで帰路につく。


そこには、二人の満足そうな顔が確かにあった。

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