第18話
「この辺に、毛糸とか売ってるとこない?」
そういって、真琴が母親に尋ねると相変わらず微笑みながら言った。
「いや~ねー、この子は。うちの売店にあるでしょ~」
その言葉に、真琴がぶすっと膨れた。
「うちにあるのは、いいものばっかりじゃないの。安いのが欲しいのよ私は」
「安いもの…、あるわよ実は」
急に目つきが鋭くなった母親に、真琴がたじろぐ。
「あるの?」
「ちょっと待ってなさいね、内線はっとごしごし~」
「母さん、それはカメの子タワシ……」
「あらやだ、ほほほ~」
「内線はこっちよ、はい」
そういって、真琴が子機を手渡した。
「色を染色する前の、弾いた奴ってまだあるかしら?」
受話器で話しながら、真琴に〇のサインを指で作った。
「やっぱり、うちのじゃない」
「弾いた奴ってのは、どうせ廃棄するやつだから持って行くならタダよ?」
「弾いたって事は、どっか良くないのよね?」
「売り物にならないだけで、昔貴女が着ていたセーターとかは全部それで編んだものなのよ?だから、母さん貴女がどれだけワンパクで穴をあけてきても怒らなかったでしょう」
真琴は、ぁ~みたいな顔になった。
「何で、慎重すぎる母さんが私の着るものザルなのか判ってきたかも」
「中学生三年まで、スカートを押さえる事も無く走り回ってた時は母親としては頭が痛かったのよ」
「うっ」
「大体、動くのに胸が邪魔になるまで上もつけてなかったじゃない」
「今は、ちゃんと上もつけてるわよ」
「今つけて無かったら問題よ、全く……」
真琴はぶすっと膨れ、母親は肩を竦めた。
二人は、お互いにぷっと笑い出す。
「折角、綺麗に産んであげたのに」
「父さん似じゃない事だけは、感謝してる」
「中身は、あの人似よ絶対。だから、私はほっとけないし両方愛してる」
「母さんは、苦労しそうね」
「苦労とは思ってないけど、心労は毎日かもしれないわ」
そういって、二人でまた笑った。
「じゃ、うちにあった服の大半ってリサイクル品なの?」
「貴女が外で自分で買ったもの以外、全部私のお手製に決まってるじゃない」
「母さん、無駄にスペックが高いって言われない?」
「あの、まるでダメ夫の家庭を支える女が低スぺで務まるもんですか」
それで、良く別れようと思わなかったわねと真琴が苦笑した。
「仮に別れても、娘は可愛いから絶対ひきとっちゃうでしょう?んで中身があの人みたいな貴女の面倒をどうせ見るのなら一人も二人も大差ないわよ」
ぐふっと、胸のあたりを押さえてむせた。
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