第17話


「ごめんね、和弥」


そういって苦笑しながら、手を合わせる真琴。


「いいっていいって、それにしてもこんな所に筆記具専門店があるとは」


二人で、少し前に真琴の母さんの誕生日プレゼントを相談し万年筆を買いに来た二人。

郊外の目立たない所に、申し訳程度の三台分の駐車場があるログハウス風の建物の前に来ていた。



「前にも言ったけど、万年筆とか好きだしさ。近くにあるなら、通えるだろ?むしろこういう所教えてもらってありがたいぐらいだから気にすんなって」



「寒いし、中はいろ」


「あぁ、確かに」


積もってはいないものの、相変わらずまばらにふっている空をみて苦笑した。



「いらっしゃい」静かにたたずむ、眼鏡の白髪交じりの老人が静かではっきりとした声で言った。



「クロガやガリカンのが見たいんだけどあります?」


「お客さん…ついてるね。ガリカンの七世代前が昨日入荷したとこなんだよ」


そういって、急に輝く笑顔になった老人が店の奥に引っ込んでいく。

どうやら、取りに行ったようだ。



「ねぇ、和弥クロガとガリカンって?」


「メーカーの名前だよ、両方とも外国のメーカー」


「お客さん、お待たせしたね。これだよ」


店主の老人が出した万年筆は、同じデザインの色違いが五パターン。


「真琴の母さんは確か白が好きだったから、これなんかいいんじゃない」



和弥が手にとった、のはペンとラインだけが金で全体的に真珠色に近い白。


「わぁ…綺麗」真琴が覗き見て感動したように声をあげた。


「いや、真琴さ。プレゼント買いに来たんだよな?」


「欲しいなぁ…」


「プレゼント用なら、こんな箱もお付けしますよ」


そういって、店主が出した箱も金の文字に真っ白の綺麗な箱と紅いリボンだった。


「和弥君、私もこれが欲しいのですが」「予算的に無理です(笑)」


そういうやり取りを、微笑ましそうに店主がしていた。


「こんな、綺麗なの使うの勿体ない…」


それを聞いて、店主は苦笑しながら。


「ペンは使っていくと、ペン先がその人の癖に馴染んで書き味がどんどん良くなるんだよお客さん。だから、飾っているだけだと勿体ないのさ」


そういって、二人が決めた万年筆を丁寧に箱にいれて閉じ。紅いリボンにカードを挟んで飾り紙で包み、最後に折り鶴をリボンの真ん中にのせた。


「早く決まって良かったな、真琴」


そういって、和弥が笑いかけ真琴が頷いた。




「店長さん、ありがとう」



「今時、珍しいお客さんだね。お礼をいうだなんて……、また来てよ。君みたいなお客ばかりなら、こっちも楽でいいんだがね」


そういって、店長は和弥の背中に向かって笑いながら手を店を出るまで振っていた。



和弥が、元気印の真琴に引っ張られる様に店を出ていった。



外で、真琴と和弥が空を見上げ……。


「止んだな、今のうちに帰ろっか」


と横をみると、真琴が居なくなっていたが。きょろきょろと和弥が見渡すと店の横の自販機で二人分のココアを買っていた。


「これ、車の暖房がちゃんと温まるまで飲みましょう」


そういって、にこりと笑った真琴にちょっとドキリとしながら和弥が片手でココアを受け取る。



「ありがとさん」


「どういたしまして」


そういって、二人で車に乗り込んだ。

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