第16話

「あー寒」そういって、コタツの中に手をつっこんで顎をつける和弥。


「そういえば、もうすぐお正月よね?」と真琴が和弥に尋ねた。



「学生の時みたいな事は無くなったとはいえ、年取ったら年取ったで外でるのがしんどい」


「何、おっさんみたいな事言ってんのよ」



「真琴みたいに、外も中も年取らない奴には判んねぇよ」



そういって、二人でココアを飲んでは白い湯気がゆらりと天井に向かっていく。




「そういえば、学生の時さ。真琴は着物に簪で初もうで来たんだっけ、一瞬誰だか判らなかったけど」


真琴も顎に手を当てて、その時の事を思い出しながら言った。



「母さんが、我儘な子供が足にしがみついて玩具ねだるみたいにして着させられたあれね」


「眼福でしたけど、今年はやらないんで?」


「永遠に着たくないわよ、あんなしんどいの。私も、見る側だったらいいかもだけどね」


「真琴の母さんが、コナキジジイみたいに縋りついたって想像つかねー」


「あはは…、後にも先にもうちの母さんが泣き言言ったのはあの一回だけなんだけど」


「普段あれだけ、何でもやって顔色一つ買えない真琴の母ちゃんが?」


「そうよ、私が物心ついた時から溜息一つついたところを見たことが無い微笑み仮面の母さんが初めて泣き言言った内容が私の着物姿が見たいだったのよ」



「想像つかねぇ~」


「私だって、びっくりしたのよ」


「成程、真琴が妥協するわけだわ」


「友達全員にアンタ誰って言われるし、和弥にも何処の撮影ですか?とか真顔で言われた時はグーパンしようかと思ったわよ」


「自覚ねぇのかよ」


「?」


首を傾げる真琴に、思わずため息の和弥。


「そんな訳で今年は着ない予定だけど、一応うちの居間か玄関辺りに飾ってあるんじゃない?」


「さいですか」


「何よ、その残念そうな顔」


「べつにぃ~」


「あっ……雪」


窓の方を指さした真琴、和弥も背中の方の窓に向かって振り向いた。



「ホント、どうりで寒い筈だ」


「そういえば、どうして私だって判ったのよ」


「あぁ?着物着てどんなに姿が綺麗だってなぁ。着物と下駄で特撮の名乗りみたいなアクロバット決めてお前の友達の財布抜こうとした犯人を踏みながら取り押さえる様な奴はお前ぐらいだっての」



トランポリンとか特殊効果なしで、ちゃんと足を閉じて着物挟みながら飛んで着地決めちゃってさ。観光客からショーだと思われて、おひねりめっちゃもらってただろ。



「お年玉より多くて、そのおひねりで豪遊しました☆」


はぁ…と溜息をつく和弥、豪遊しか覚えていない真琴。



「雪がしんしんと…か」「そうねぇ、今年はそういう罰当たりが居ないといいわね」



そういって、二人で窓からふる雪を見てしみじみとそういった。

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