第15話

「ねぇ、和弥。これどう思う?」



そういって、真琴が和弥に見せて来たのはガラスペンのカタログだった。



「どう?とは」


「ほら、もうすぐうちの母さんの誕生日だからガラスペンでもプレゼントしようと思ったんだけど。私こう言うのよく知らなくて、どれも可愛いし綺麗だし」



真琴が読んでいたカタログをひょいと和弥が取り上げると、ページをめくりながら言った。


「うーん、見た目の好みは真琴の方が知ってるから俺には何とも言えないなぁ。ペンと軸の間にボールがあるものは持ちやすいと思うよ。シャーペンとかの、グリップみたいなもんだね。だけど、ボールがあるとデザインでちょっと不利になったりするんだよ」



例えば、これとかコレとかこれなんかそうだねとページを開いては、真琴に見える様に一つ一つ指を指しながら答えた。


「外だけガラスペンで、万年筆のインクが使える様なものもあるけどメジャーじゃないから特注になるだろうし。今からだと間に合わないと思うから、選ぶならこの辺じゃない?」


そういって、また幾つかのペンの写真にしるしをつけた。


「なるほど?」


そういって、おどける様に肩を竦めた真琴をみて溜息をつく。


「聞いたのは、真琴だろ。印付けたやつから店員さんに聞いてみたらいいんじゃない?」


「そうね~、そうするわ。ありがと、しかし何でそんな詳しいのよ」


「そりゃ、こういういい文房具って憧れあるんだよ。高くて、買えないだけでさ」



そういうと、和弥は苦笑した。



「といっても、私もそんないいもの買える程裕福って訳でもないわよ?ただ年に一度の事だし、これぐらいだったらいいかなって思えたから」



「さいですか、しかしそのカタログ見て思ったけど。高くない奴もあんだな、勉強になるよ」


それよりもと体をのりだして、真琴が和弥に尋ねた。



「和弥は、おばさんに何を贈るの?うちの母さんと誕生日一緒でしょう?」


「うちは、いつも鉢植えだけど?」



真琴が、ん?と首を傾ける。



「鉢植えって、いつも玄関に並んでる奴?毎回季節になるとなんかの花が置いてあるから綺麗だなって思ってたけど。てか、和弥の母さんの連絡アプリの写真も大体その鉢植えに咲いてる花よね」



「ほら、花束とかでもらっても迷惑だったり邪魔だったりするだろ?だから花が丁度良く咲く奴を贈ってる。今年は確か、パンジー・ビオラ。ちなみに、花言葉は信頼だったかな」



その時、真琴がのりだしたまま和弥の両肩を軽く叩く。


「私には、そういうの贈ってもらった記憶がないのですが?」


「お前はいつも、食い物の方が喜んでくれるだろ……」


軽いため息を吐いて、叩かれていた手をそっとどかす。



「そういえば、毎年めっちゃ腕を振るっていつも以上のご馳走を作ってくれてた気もするぅ」


悔しそうに、がっくりと肩を落とした。



「毎年、違うプレゼント考えるの面倒なんだよ。考えずになんか贈って喜ばれるならそれ贈るだろ?」



真琴は表情だけで、百面相をしていたが和弥は取り合わず肩を竦めた。


「花は枯れるし、食い物は残らない。気持ちだけ残って、それでいいじゃん」


「それも、そうね」


そういって、二人で何とも言えない表情で笑った。


(私も残るモノが欲しいんですけど)

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