第14話
「そんな訳で、池田おじさん。今日は、よろしくお願いします」
そういって、ぺこりと頭を下げる真琴。
「お嬢さん、そんなバカ丁寧にせんでくだせぇ」
そういって、にかっと色黒の顔を輝かせて厩務員の池田が笑った。
「それにしても、今日はどの子にのせてもらえるの?」
「それがなぁ、お嬢さん。凄く言いにくいですがタパが他の馬威嚇しまくっててなぁ、すまねぇがタパにのってやってくんねぇだべか。奥様からは、大人しい子をって言われとるんだが。すまねぇだ」
そういって、歩いて案内した先では葦毛の立派な競走馬がリンと立っていた。
「タパって先日、重賞を取った馬じゃない」
「タパは、中々背中に乗せなくてじゃじゃ馬なんだべが。お嬢さんといつも騎手頼んでる早苗さんだけは背にのせるっちゅーか。それ以外を、背にのせる事をとことん拒否しとるっちゅーか…」
「なぁ、真琴。それ、俺も拒否られて振り落とされる未来が見えるんだが」
真琴はあーうんと考えて、まぁ何とかなるでしょうと笑った。
真琴はタパの鼻や首辺りを摩りながら、私も一緒に乗るから和弥を背中にのせてあげてね~と優しく語り掛ける。
「その馬、人の言葉が判るとか?」
和弥がその様子を見ながら尋ねると、タパがぶるぶると返事をする様に唸ると脚を畳んだ。
「ほぉ~、やっぱお嬢さんの言う事は大人しく聞くだべかぁ」
「いう事聞くって、マジで日本語通じてるとか賢すぎだろ」
二人のその台詞に、一瞬だけタパが首をそっちに向けるが直ぐに前を向く。
「さっ、タパの気が変わらない内に乗りましょ」
先にひょいっと、乗ると和弥を手で引っ張って和弥も続けて背に乗った。
「ゆっくりお願いね~、私の彼ビビりだから」
また、タパがぶるると返事をしてゆっくりと立ち上がる。
「ビビりなのは合ってるが、釈然としねぇ…」
かぽかぽと牧場内をゆったりとタパが歩き、タパの背に揺られて二人で笑った。
「にしても、まさかこんないい馬に乗せてもらえるとは思わなかったな」
と和弥がぼやけば、真琴はむしろ苦笑して溜息をついた。
「この子は我儘だから、私がのらなかったらトレーニングで手を抜いたりゲートで暴れたりするわ。勝った時には、早苗さんか池田さんか私が花輪を頭に飾ってあげるまでテコでも動かなかったりね。そのかわり、ダートも芝も悪天候もものともしない上短距離も長距離もどんな距離でも速くて強いわよ?誰がのっても、ちゃんと走ればどんな強豪が相手でも三馬身以上つけて勝つわ」
それを聞いて、和弥が飽きれた様に言った。
「そりゃつまり、ちゃんと走らない事が結構あるってことじゃねぇか」
タパがぶるると一瞬だけ頭を背中の方に向けるが、真琴が首を右手で軽くタップすると再び前を向いてゆっくり歩きだす。
「そうなのよ、特に早苗さんに頼めなかった時は高確率でゲートからも出ないわ」
肩を竦める真琴に、和弥がなんとも言えない顔になった。
「うわぁ、そりゃ関係者みんな苦労してるだろうだろうな」
その様子を思い浮かべて、思わず心の中で手を合わせた。
「でもね、こうして頼めば乗せてくれたりするし憎めないのよね」
そういって、足で真琴がトンとやると歩く速度を徐々にあげていく。
「後で、一緒に洗ってあげましょ。和弥も動いた後にお風呂に入りたいとかあるでしょう?この子も一緒よ」
馬が、ぶるると返事をする様に答える。
「ちなみに、この子はトイレを掃除する棒付きのタワシでそっと洗ってあげると喜びます」
和弥が、それを聞いてぇ~という顔になる。
「馬用のブラシじゃなくて、トイレ洗う用のあれかよ…」
「そうそう、新品じゃなくて使い古されてよれよれのへにゃへにゃになったやつでね」
結局、二人でしばらく馬にのって楽しんだ後。
タパを二人で、洗ってブラッシングした。
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