第11話

「んで、やってきました。裏山へ」


「まぁ、ここに関しちゃ文句言われる筋合いないしな」



そういって、二人で山にやってきた。



「人の土地に勝手に入ったら、何言われるか判ったもんじゃないもんね」


「何言ってんだ、真琴。この辺の山は、全部小野寺家のもんだろが」



「うちの…であって私のじゃないから」


あーという和弥がそんな顔をして、お互いの母親の顔を思い浮かべた。



「うちのおふくろがおせっかい焼きな様に、お前の母ちゃんは心配性だったな…」



(まぁ一人娘がこんなんじゃ、心配にもなるだろうけどさ)



「そうそう…、てなわけでちゃんと和弥と山行くって言って許可貰いました」



「俺は、保護者かよ…」



「どっちかいうと、ブレーキ?ほら、和弥と一緒なら無茶はしないでしょうっていう感じで」



「一人だと無茶すると思われてる訳ね…、まぁこいつを近くで見てりゃ普通の感覚してりゃ無茶にしか見えない訳だけど」



そういって、歩きながらしゃべっていると秋の紅い木々がそよいで歓迎しているようだった。



「にしても、相変わらず自然豊かだねぇ。最近はゲームも随分綺麗になったけど、まだまだこれには及ばない…か」



そういって、和弥は立ち止まって空を見上げる。



馬鹿でかい古めかしい網籠を二人で背負って、そんな事をのんびりと話していた。


「そういえば、隣町じゃクマが襲ってきて大変だってさ」


ニュースでそんな事やってたぞと和弥が真琴に言えば、真琴はにっこり笑って大丈夫よとだけ言った。



「何でそんな自信満々なんだよ」


「まぁ、和弥にならいっか。この山一帯私有地でしょ、だから当然の様にセキュリティでガチガチになってまして」



順路以外は罠や電流だらけになってて、私も実は順路以外安全な道を知らないのよね」



僅かに、喉を湿らそうと水筒を傾けていた和弥の鼻にお茶が入って痛みで鼻を抑えた。



「もしかして、イノシシやクマの肉とかのおすそ分けを割と近所や俺んちにしまくってるあれって…」



「そうよ、和弥が今言った通りうちの母さん心配性でしょ?だから色んな所に罠やなんか張り巡らせてるのよ。根岸さんと和弥以外には、私の友達に対しても厳しいのよね」



和弥が急にきょろきょろと見渡すと、確かに道以外に不自然な所が何か所か見つけられたので足元の木の実を投げてみたら空中でマル焦げになって落ちるのが見えて真っ青になった。


「こりゃ、真琴じゃなくても心配になる威力だろうよ…」



「最近は不法投棄やら不法に山のモノを持ってくバカタレが増えたからかなり過激に張り巡らせてるわって」



「ぃ~、俺もこれ一人で栗拾いしてたら気づける自信がねぇぞ」



「大丈夫よ、順路から外れるとああなってるけど順路に居れば普通の山だもの。それに、昔から和弥が栗しか拾わないって母さん知ってるから栗の樹の下だけは何にもないのよ」


「じゃぁ、柿とか林檎とかの樹なんかは…」


徐に真琴が足元に落ちていた木の実で柿の実を狙って当てて、柿がの実が地面に落ちるまでにワイヤーで切り刻まれた様になって地面に落ちるのが見えた。



「特定の樹以外は、大体あーなってるわね。私も最初見た時今和弥がしてる顔と同じ様な顔してたけど」



「心配症の度合いがエグイ!」



「その分、おじいちゃんやおばあちゃんが順路の手入れをやってくれてるおかげで順路は安全に山菜やキノコがふんだんにとれるようになってるわ」



頑張ったら美味しい山の幸が一杯よと笑う真琴と、何か言いたそうで微妙な顔をした和弥が山を登っていく。




「採れるものには、困らないけど精神的にしんどいな」


そんな風に、和弥の口だけが動いて声は出なかった。

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