第7話
しばらく、車の中で二人で雑談しながら走っていく。
もうそろそろ、三時を回って来たかなと言う頃になって目的地に到着した。
「ねぇ、和弥君。私、嫌な予感がするの」
「偶然だな、俺もだ」
二人の前には、ポニー歩かせる少し広めの広場。
樹の柵をお洒落に、しかし頑丈に組んである場所の横の駐車場に車を止めて最初に言った会話がこれだった。
そして、二人で車を降りて予感は確信に変わる。
また張り紙がしてあって、昨日の日付でポニー広場は歴史に幕を閉じたらしかった。
二人して、張り紙の前で虚無の子犬の様な表情になり。
深い深いため息をついて、もう一度車に戻って来て二人とも席に座ると今度は真琴が言った。
「後一日位、頑張って営業しなさいよ!」
「気持ちは判るけど、そりゃ色々無理だよ」
「息抜きしようなんて、言わなきゃよかった。ごめんね」
「いや、あのまま俺の部屋に居てもあれだし。これで、良かったのかもよ?」
何とも言えない表情で、二人で笑いあう。
「そういえばさ、一つ思い出した事があるのだけど」
「何だよ改まって、薄気味悪いぞ」
「家さ、馬居た」
「は?」
「家さ、牧場や農家を多角的にやってるわよね。牛も、鶏も、馬も、羊も居たはずなのを今思い出したのだけど」
「おぃぃぃぃ?!それじゃ何か、わざわざ遠出して、お前の手作りサンドイッチ食って。二人で、シャッターの前で虚無の表情しつつ。ドライブ、その最後にお前の実家がやってる牧場で馬に乗れる事を思い出して何とも言えない気持ちで俺達帰る感じですか」
「うん、ごめん」
「聞かなきゃ良かった、俺も忘れてたし」
「うん、ごめん」
二人して、苦笑しながら。
「帰るか」
「そうね、帰りましょうか」
赤焼けた空を二人で見て、ハンドブレーキをおろそうとした和弥の手の上にそっと真琴が手をのせ言った。
「帰りも、安全運転宜しくね」
「そうだな、急いだ所で俺達の休日はいつも通りだ」
真琴はさっきハンドブレーキの上で重なった手をさり気なく撫でながら、和弥は運転しながらどこか顔は照れていて。
(何もない事が、こんなにいい事だとは思わなかったわ)
(何もない事が、こんなにいい事だったとは思わなかったよ)
走る車の中、二人は無言で何処か嬉しそうに思った。
ただ、意味も無くラジオだけが流れていく。
何故か、ラジオから流れてくる曲が古い曲。
軽快な曲が、どこか気分を和らげていく。
「そういやさ、今度どうするよ。こんだけ行く所が無くなってると、正直困っちゃうよなぁ」
「そうねぇ、今度また私の友達に聞いてみましょうか」
「また、狭すぎる場所とか紹介されたりな」
「それか、入りにくい雰囲気の所とかね」
走り出した車の中で、こうした話をしていると。
とても、楽しい気持ちになった。
「何だろう、過ごし方としては悪くねぇな」
「過ごし方としては、悪く無いわね」
空の色が変わりゆく中で、景色だけが流れていく…。
「私、サンドイッチ作って良かったわ」
「そうだな、それが無かったら俺達は本当に車のってマヌケ面さらしただけだもんな」
そういえば、マヌケ面で思い出したのだけど。
と真琴が唐突に思い出した。
「私達小学校の時さ、雨の日の水たまりで泥がはねられるのが妙に楽しくて」
「あー、あんときゃ俺も真琴も母ちゃんズに大目玉だったなぁ」
「和弥はパンツ一枚で水たまりの近くに立ってオーライオーライって叫んでたわよね」
「真琴もそれを指さして笑ってたよな、途中から真琴の方が面白がって水たまりをスコップで広げてた記憶があるんだが」
「あんときは二人で拳骨貰って痛かったわよね~、流石に今はやらないけど」
「今、やったら通報もんだろが。真琴んちの私有地だからギリセーフなだけで、道に穴なんか掘ってたら流石にダメだって」
「うん、埋めなさいって笑顔で圧かけられたわよ。和弥のとこのおばさんは、優しくていいわよね~」
和弥は思わず苦笑いした、だって優しいのは真琴に対してだけで和弥には特に優しいわけではないのだから。
車を走らせるうち、赤焼けが徐々に星空になっていく。
「ねぇ、和弥」
「なんだよ」
「一日は、早いわね」
「楽しい時間だけは、過ぎてくのが早いんだよ。あんまり早く過ぎると、今の俺達みたいに図体だけでかくなってくけど」
そういって、二人車の中で笑った。
「図体だけでかくなってるのは、和弥だけでしょ」
「そりゃないぜ」
二人の何気ない休日はこうして、また一日過ぎていく。
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