第5話


「そんな訳で、母さん。真琴がバーベキューやりたいらしいんで庭貸して欲しいんだけど」


そんな事を言った瞬間、和弥の母親が親指を倉庫に向けてびっとやった。



「和弥ちゃん、だいぶ前の時の様にペール缶に網をのせるなんてだっさいのはお母さん許しませんよ。ちゃんと、折り畳み式のバーベキュー台と炭が倉庫にあるからそれ使いなさい。後、折り畳みのバックの形に収まるアルミテーブルとか椅子も倉庫あるはずよ」



(なんで、キャンプに行かない我が家の倉庫にそんなものがもう用意されてるんだよ)


「あの時は、お母さん恥ずかしかったわ~」



そんな事を言いながら顔に手を当てる、自分の母親を見ながらじと眼になる。




「ごめんください~、和弥君いる?」



「おっ、来たな」



そう言って、和弥はサンダルを乱暴に履くと自宅の倉庫へ歩いていく。



「庭で待っててくれよ、色々倉庫から出して準備するわ」



「おっけー、まってる」



そういって、真琴が両手に一杯の野菜やら肉やらの入った袋を見せる様に掲げた。



「さてと、俺も道具を組み立てないとな」



組み立てた後は、自分は台所にこもってリクエストのショートケーキの仕上げをしなきゃな!


ある程度のスポンジケーキ等は昨日のうちに用意しておいて、後は仕上げて出すだけの状態にしてある材料達を思い浮かべながら笑った。


と思ったのだが、和弥が庭に出て倉庫の扉を開けるが何も入ってなかった。




「おぃぃぃぃぃぃ!」




思わず大声をだして後ろを見ると、真琴が何食わぬ顔で炭をセットして火種を投下する所だった。


「和弥~、準備はばっちりだからケーキ宜しくね♪」


元気よくトングを持った手を振りながら、そんな事を宣う。



「お、おぅ……」



(何で、真琴がうちのバーベキューセットの場所知ってんだよ)




「まっいっか、そんなら俺は台所でケーキを形にして切って冷蔵庫にいれとかなきゃな」


そういって、台所に引っ込む。



景気よく、炭がいい塩梅になる頃を見計らって。真琴は、今日の日の為に真琴の母親が秘密兵器と称して持たせてくれた肉塊を良い感じにきっていく。


「外側についてるのは、丁寧に拭きとってね」って言われたから、それは丁寧に拭いたのだけど。



その暴力的な香りに、真琴のお腹が鳴った。



「これ、もしかして。熟成肉?」



その余りの香りに、和弥が台所からダッシュして飛んできた。



「この香りだけで、幸せで溺れそうなのは!」





その様子に、思わず真琴が苦笑しながら視線を網の上に戻す。



焼いている自身も、余りのいい香りに深呼吸したい気持ちでいっぱいになるが我慢しながら野菜と共に焼いていく。



(なるほど、これは確かに兵器だわ)



真琴は農家の娘で、当然野菜や肉なんかには人一倍厳しい。

その真琴の眼から見ても、一口で戻らせませんオーラを放っている。



旬の野菜に負けていない、それどころか香りだけでタレの味を塗りつぶしそうな。



「和弥~、ケーキは?」



途端に、一生懸命香りを堪能していた和弥があっみたいな顔をした。




「もしかして、これが気になって集中できないとか?」


真琴がトングで焼けているお肉を指して、和弥が頷いた。



「うん、お肉撤収します。和弥のは、うちの畑で取れた美味しいお野菜だけという事で」


真琴が、網の上にのっていたお肉をトングで挟もうとしたのを和弥が慌てて止める。


「お肉、カムバック!」


「私の、ショートケーキは?」


真琴が、ジト目でわざとらしく唇を尖らせながら言った。



「今直ぐ、クリーム塗ってきます!」


そういって、再び台所に消えていく和弥の背中を目線で追いながら呟いた。



「うちの、畑のお野菜が肉なんかに負けるわけないじゃない…」



そういって、じっくりとっくり網の隅っこを上手く使い焼きながら。



「和弥は、昔っからお肉好きだからせっかく先に焼いたのにバカ」



そういって、用意していた皿に移しては粗熱を取って食べやすく切った。



「全く母さんも母さんよ、秘密兵器って効きすぎよね」

慣れてるはずの私でさえ、香りでお腹が鳴る様なものを持たせちゃってさ。



パチパチと、炭がはじける音がして。



「懐かしいなぁ、こういうの」



ふと、空を見上げたら赤い夕焼けに変わりかけた空が眼に映る。



昔は、この後二人で花火とかやったっけ。



そうして、昔の思い出を幾つも思い浮かべながらも手は動かしていく。



気がつくと、和弥が台所からケーキを持ってきた。



「さてと、食べようぜ。久しぶりの、庭先バーベキュー」


「そうね、良い感じに余熱調理で火が通ってるはずよ」



二人して、笑顔。



「相変わらず、和弥の作るケーキは甘さ控えめで美味しいわ」


真琴がそういって、和弥の方を見て変な顔になった。



「ほいひゅはよひゃひゃ(そいつはよかった)」



「和弥さ、口につめ過ぎ。あっ!そういえば」


「どうしたよ?」


「私は、カレーを作る筈だったんじゃ」


「美味けりゃいいだろ、どっちだってさ」



それもそうかと、二人で笑った。

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