第2話
別の日の休日真琴は、友人の香織と待ち合わせをしていた。
今日は、流石に薄めの青いブラウスに髪が納めやすく上に膨らんだ帽子をかぶっていた。
「やっほ~、山岸さんこっちこっち」
木製のテーブルに赤いソファの喫茶店に先に座っていた真琴が入り口から入ってきた香織を呼んだ。
「真琴ちゃん、先に来てたんだ」
そう言って、正面に座るとテーブルの上に置いてある季節限定もののケーキが眼に入ってそれを頼んだ。
「先日はありがとね、おかげで助かったわよ」
「すっごいお洒落で、安くて、美味しくて良いとこだったでしょ」
「うんうん、だけどあそこ凄く狭くてこう肩をすぼめないと当たっちゃいそうで…」
「それが良いんじゃない!」
急に香織の語気が強くなって、真琴が苦笑した。
「ねぇねぇ、相手だれよ」
「幼馴染のアイツよ、こうthe凡って感じの」
「うっそ、あれの何処が良いのよ?」
「ほらお互い知りすぎてるから、なーんにも取り繕う事もないしかえって楽だし?」
「成程ねぇ~、それであんた達いつから付き合ってんのよ?」
「親友としてなら、幼稚園より前からね。恋人にジョブチェンしたのはアンタにご飯所聞いた十分前よ」
「最近じゃない…、んで何処まで行ったのよ?」
「いや、ご飯食べて、ご飯の写真とってあいつの部屋で適当に喋ってそれで帰ったけど?」
それを聞いた途端に、左手で顔を覆いながらオーバーにあぁ…となる香織。
「変わってない!ジョブチェンジしたのに過ごし方が何にも変わってない!!」
バンバンと机を叩く香織、それを窘める真琴。
「私は満足してるけど?いつもの方が、疲れないし」
更に、真琴の前で十四連勤から解放されたOLの様な表情になってる香織に止めの一言を言って香織が「あんたに、こう甘ったるいのを期待した私がバカだったわ」
店員が、横に来て真琴の前にアイスコーヒーを。香織の前に、季節もののケーキを置いた。
「ごゆっくりどうぞ」
それだけ言うと店員が、下がっていき。店員が離れた事を確認してから香織が疲れ切ったような顔で言った。
「だって、私はそういうの何にも知らないから香織に聞いたんじゃない。何処に行くもんなのか、何処なら楽しめそうかとか」
香織もそれを聞いて、やつれた顔をしながらも体をゆっくりと起こした。
「そういえばそうよね、私としたことが失敬失敬」
そうね…、次は二人で水族館とかどう?
なんて、香織が言った瞬間真琴が真顔になった。
「某流行り病のせいで近場の水族館は閉館になったから、行くなら自動的に新幹線のらなきゃダメなんだけど?」
香織と真琴が、二人で深々と溜息をついて頭を抱えた。
「「そんな、お金ないわよねぇ」」
香織が、じゃぁ映画館は?と尋ねる。
「うちの近くの映画館、ちっさい所で日替わりで映画やってるけど次の休日の映画は相撲取りがライバルに勝つまで猛練習して最後投げ飛ばすような奴じゃなかったっけ?」
再び、香織と真琴の二人は深く深く息を吸った。
「私が彼氏に相撲の映画見たい♪とか言って誘って、それで二人で楽しめると思う?」
ワザと前半部分可愛く真琴が言って、香織がうぇっと舌を出した。
「勘弁して下さい、案件よそれ。あのオタクが彼氏ならヒーローや魔法少女の方がまだましだわ」
「あぁ、見える。私が、ものすごくつまらなそうに夕日をバックに歩いてる未来が」
はぁ~と、二人で盛大に溜息を吐いた。
「んで、あと近場で何かあるかっていうとショッピングモールとかゲームセンターな訳だけど」
「ゲームセンター、実質出禁になっちゃったし」
その言葉に、香織がぎょっとした表情を真琴に向けた。
「アンタ、何やったのよ」
「ほら、夏になるとこう勘違いした男がナンパしてくるじゃない」
「アンタは見てくれだけは、女の私から見てもそこそこいいものね」
「それで、ナンパした男をこう蹴り飛ばしたのだけど。そん時に飛んでったナンパ男がキックの威力を測るようなあれのスポンジの所に思いっきりヒットして」
うんうんと相槌をうつ、香織。
「幸い店員がそのナンパしてた男の所業を見てたから、機械の修理費とかは全部ナンパ男にいったんだけどね。キック威力を測定する機械のランキングが、未だに私がナンパ男を蹴り飛ばしてナンパ男の背中が当たってでた数字が一位なのよ」
目が点になって、口が◇になる香織。
「アンタ、それは…」
「てなわけで、私はあのゲーセンに一人では入れなくなったのでした☆彡」
可愛くおどける様なしぐさをしながら真琴が言って、香織が机を叩きながら笑った。
「こんな田舎じゃ、私の事知らない時点で外から来た奴でしょ。ナンパするならもう少し遊んでるなびきそうな子を選びなさいよね」
「言えてる~、アンタ昔っから暇つぶしに格闘技やって。県大会に出場したんだって図にのってた男を正拳突き一発でノシてたりしてたもんね。それも、ガードの上から殴って両手ごと粉砕骨折にしたんだっけ?」
向こうが試合を挑んできて、正式な試合の場だったから何事も無かったが。
「あの程度で、図にのるから良くないのよ。その後、両手が使えないまま登下校するのを見ながら指さして毎日負け犬君お加減は如何ですかってからかって遊んでたのよねぇ」
その度に、あの男に虐められてた連中も一緒になってからかって。いい思い出だわ。
「それを、いい思い出とか言ってる時点でずれてるって自覚を持ちなさい」
ぴしゃりと香織が言って、真琴は肩を竦めた。
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