第16話 泣きじゃくり事件

「何? 2人揃って」


 不審そうな目を向けてくる。


「いや、佐那がサンタコスとか」


「どんなのだろーなーって」


「私には似合わないとでも言いたいわけ?」


「似合うと思いますはい」


「逆に似合わないわけないって」


 圧力を掛けられた俺達は、早口になってそう答える。

 似合うのは確定事項だが、色気があるかは別の話。


 真城みたいにたわわなモノがあるなら、エロサンタになって集客間違いなしなのだが、佐那はその……お世辞にも言えない程に小さい。

 本人の前では死んでも言えないが、色気という言葉から程遠い胸部をしている。


 まぁ、大きければいいってものではないが、男子からしたら大きくて損はない。

 少数は、小さい方が好きという人種もいるが、俺は大多数の方に傾いてしまう。やはり、自分に持ってないものに人は惹かれるものだ。


「んじゃ、俺そろそろバイト行くわ」


「俺も帰るわ。空き教室居たらあいつが来るかもしれないし」


「真城かー。随分と気に入られてるな」


「こっちも好きで気に入られるわけじゃねーよ」


「いいじゃんか。美少女に好かれるのは男だったら大歓迎だろ」


「訳アリじゃなかったならな」


「予想に反していい子だったしね。実真と一緒に居た時に話したけど」


「ほぉ。例の泣きじゃくり事件のやつ」


 智親には、あの日の夜にすべて報告済みだ。名前まで付けられているし、これまた佐那をイジるネタになってしまったが。


「べ、別に大泣きしないから!」


「嘘だー。俺、実真から聞いたぞ?」


「実真ぁぁぁ!」


「冤罪だ。俺は誇張して話したりはしてないぞ」


「てかなんで話したの! 本人がいないところで勝手に!」


「報連相は大事だからな」


「使う場面が違う!」


 今にも中身の入っているペットボトルを投げてきそうな佐那。


「どうせバレるんだったらいつ言っても変らないだろ」


「なんでバレる前提なの!」


「実真先輩~‼ 今から遊びに行きましょ‼」


 佐那の怒鳴る声に覆いかぶさるように、教室のドアの方から声が聞こえる。

 俺の事を先輩を付けて呼ぶ後輩なんて、一人しかない。


「お、事件の主要人物がタイミングよく来たな」


「なっ……! いつもいつもこうゆう時に限って――」


 智親のにこやかな目と、佐那の鋭い目がドアの前で両手を腰について仁王立ちをする真城に向く。


「空気、ちょっとは読んでくれよ」


 俺も、軽く頭を抱えて呟いた。



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