4話 Game Master【生命の主】






「結局学校に来ちまった……休ませてくれよぉ〜!」

「そういうわけにはいかないでしょ?落第寸前のアンタが何かの手違いで欠席扱いになったら困るのよ。」

「は、はぁ……」



もしこの場に速人が居たなら、「なぜお前が困るんだ?」といった類の、いわゆる皮肉を言い放っただろう。


それをしない威———悪く言えばバカ、よく言えば正直な好漢。


そんな2人は下駄箱に辿り着いたところに、ある青年が声をかける。



「おはようございます。葉夕さん、タケルさん!」

「楓!」



少年、もとい中性的な雰囲気を醸し出すのは丹室楓(にむろ かえで)。


幼少期から威や葉夕たちと関わりのある……有体に言えば彼らのマスコット。ある意味で彼もまたアイドル的とも言えるだろうか。



「楓ちゃーん♪」

「うわっ、くっつかないで葉夕さん!」

「相変わらず毎日かわいい〜♡」



有数のスタイルが良さを持つJKの胸に顔を埋められる少年という、グッとくる情景。


この楓という少年は、「少年」の名の通り15歳高校一年生であるのに関わらず、身長が男子でありながら約150cm……?。


速人とほぼ同じ187cmほどの威はもちろんだが、167cmほどある葉夕にも子供扱いされる身長差。そして声変わりも疑問的な高い声を持つまさしく……



「そういうのショタコンって言うんだぜ葉夕。」

「うっさいわね脳筋筋肉バカ。」

「黙れー!」



論戦にもならぬアホ同士の言い争いに困惑しながら胸に埋められる楓。争いを遮るように2人に話を持ちかける。


「そういえば速人さんに結女さんは?一緒じゃなかったんですか?」

「速人は先に学校に来てたはずだが、結女は………」

「ここですよ楓くん。」



遅れて生徒玄関から現れた結女。少し慌てたように彼らのもとにやってくる。


「さっきの事故処理でできた人だかりを見てたらちょっと遅れちゃって……ところで、今日は休校が決定したそうですよ?」

「「「え、本当!?」」」

「この辺り一体の電子機器が一斉にショートたり建物への被害も甚大で、復旧に思った以上にかかるみたいで……」


「休校」の2文字に思わずガッツポーズをする威。そしてそれを微妙な面持ちで見る葉夕と楓。


「じゃあ早速帰ろっと!!」


勢いよく玄関を飛び出して校門へ向かおうとする威に、結女は止めるように話す。


「帰るのはいいですけど、外は人だかりと警察官だらけでそれどころじゃないと思いますけど。」

「そんなの関係ね『大アリじゃよ。』



年老いた男の神妙な声が響く。



「「???」」


不思議な面持ちで見る葉夕と楓。威は疑問をそのまま白髭の老人にぶつけてみる。


「誰だアンタ。」

「お前を『ゲーム』に招待した男じゃよ。」

「え……」


威が察しようとしたその瞬間、その老人はパンと手を叩く。


すると、その場全ての空間が歪み……滝の流れる、虹かかる幻想へと転送される。


その人間ならざる御技にその場にいる者達は圧巻される…


そして老人は曲げていた腰をシャキッとして、皺をなくすと共に、名乗りをあげる。



「我が名はイルトーリ。今は天極星一ということにしている。」

「天極……!」



速人と葉夕の祖父で、今まで4人に援助してきた存在。


そして『あの手紙』の差出人である………というのはこの場にいる人物では、威と結女しか知らない。


威は鋭い目つきでイルトールなる老体に問う。


「アンタに聞きたいことは山ほどあるが……まず。アンタ本当に人間なのか?」

「お前達の定義では違うかもしれないが……私は『神』ではない、人間だ。」

「じゃあにこの武器をくれた連中の仲間ってことなんだな?」

「その大鎌……!」


人間の等身サイズある大鎌に楓は、感嘆の声を上げる。


この時点でのやりとりに疑問だらけになる葉夕と楓の様子を察したイルトーリ。



「どうやら先に記憶の共有をした方が話が早そうだ。」



指パッチンとともに……楓と葉夕の脳内に威が経験している「とある記憶」が流れ込んだ。

記憶の流入というショックに、当人たる2人はかがみ込んでしまう。



「何したんだ!!」

「お前の持つ記憶を共有させただけだ、威。」

「あ……?」

「まぁいい。それよりこれを受け取れ。」



イルトーリは威以外の3人に青白く輝く、シリウスカードを投げ渡す。



「シリウスカード……それも記憶にあるはずだが。」

「これが自分だけの神器になるんでしたっけ?」

「自分だけの……」


不思議そうにシリウスカードを眺めている2人。すると……


2人の後方にいた結女が、『自らの手』で神器……勾玉のネックレスへと変える。



「結女ちゃんそれどうやったの!?」

「さぁ?なりたい自分でも想像すれば変化するんじゃないですか?」

「「はぁ……」」

「さて……」



結女の手にあった、名を『カーリーガメン』とする勾玉のネックレスは、彼女の意思に応じるが如く、蛇のように這いずって彼女の首へと巻きつく。


その自由に操る様を見て、葉夕と楓は結女に言われたように想像する……と。



「できた……!」

「僕もです———これは金槌ですか……?」

「神槌ニルパー……そしてそっちはアンクミルリングというものだ。」



イルトーリが指差すのは、葉夕のカードが変化した、エジプト十字のマークの指輪。


この場にいる全ての人物に神器が渡された時点で、彼は事情を話し始める。



「ここにいる者に頼みたいこと……君たちにはアルファオメガゲームに参加し、この世界の危機を救ってほしい。」

「あのメ…とか何とかいう奴が言っていたが、世界の危機ってどういう事だ!?あと命を狙われているとか何とか……」

「「「………」」」



馬鹿キャラのテンプレのような間違いをしながらも、自分たちが置かれた状況の説明要求を叫ぶ威。


それに対してイルトーリ。



「アルファオメガゲームはこの世を救済する神を決めるパワーゲーム。勝ち残った者にはこの世を思うがままに動かす力が与えられる。そしてそれは……今、現主神の男が立ち上げた秘密結社が保持している。」

「秘密結社って、そんなのドラマの中の話じゃないの……?」

「皆そのように思っているのは、彼らの持つ世界を自在に動かす力と彼らが仕掛けるメディアコントロールの努力の賜物。今や、世界中の富と権力は、この秘密結社をへと集約されている。」


信じられない葉夕に、イルトーリはさらに陰謀論じみた話を上乗せ。


そして彼が放つ、次の一言が場を凍らせる。



「葉夕、結女。お前たちは見たはずだ。速人が殺した不審者……そしてお前たちを殺そうとする運命的な力を。」

「!!!」

「………」



暗殺とは殺害自体がバレずに行うことこそ最も至高。確かに先ほど起こったことは、現実とは思いたくないほどに理想的な暗殺だった。


その現場を身近に見ていた彼女たち。そして何より、速人が起こしたかに見えたとんでもない威力の衝撃波がイルトーリの言葉の信ぴょう性を持たせている。



「………それで、私たちに何をしてほしいって言うんですか?」

「—————」


結女は少し面倒さを滲ませながら、イルトーリに聞く。


「1つは彼らから自分の身を守ること。そして………





衝撃が世界を揺らした。



—————※—————




「うっ……」



眠っていた速人は目覚める。

そこに、異空間から現世に転移させられた楓が彼の前に姿を現す。


「速人さん大丈夫ですか!?」

「あぁ、ちょっと目眩でもたれかかってただけだ。」


昏睡時間はおよそ3分程度といったところ。肉体分裂と再融合の後遺症はない。


それどころか速人にはその時の記憶はないのだから、後遺症があったら、それはおかしい話だ。



「そういえば学校は……あぁ、か。」

「?」

「学校はしばらく閉鎖、そしてお前らも神器とともにアルファオメガゲームに参加———ってことでいいか?」

「!?!?!?」


楓は、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。完全に心を読まれた……そういうに違わなかった。


速人は困惑を悟ったかのように、語り始める。


「突然の話。ほんの少しの先の未来予測がこっちの目で見れるようになってさ。」

「蒼い瞳……」


指差した右にある、蒼い瞳……それは、欧米人のようなそれよりはるかに妖しい。

もともとの瞳自体が、双子の妹たる葉夕と同様に、フクロウの如く美しい金色の瞳。

それがより神秘的に見える。



「それに………———っッッ!!」

「速人さん?」

「なんか来るな。毒の気配がする。」



速人の次の言葉の瞬間、とてつもないスピードで飛んでくる矢自身が、掻き分けた轟音でその存在を知らせてくる。


このままでは速人の首元あたりを貫くだろうか……と思ったその瞬間。



バシュッ!!



「矢が斬られた…!?」

「もうちょっと早いと思ったんだがな……カラドソラス。」


矢を殺し、主人の元へと帰ってくる黄金の柄を持つ両刃の剣……勝利の剣 カラドソラス。


異色とも言える、速人の持つ二つ目の神器。



「さて……どうやら、本当に狙われているらしいな。」

「速人さん———」

「さ、帰るぞ。チビカエ。」

「むぅ……」



速人は楓の頭をポンポンと撫で、不満そうな彼の顔に屈託のない笑顔を見せた。


その光景を陰から見る者が。



「彼らが———いやバカな……」






—————※—————




「くそっ。やはり迎撃されたか……当たれば終わりであったが———!!」


速人に向けられた矢を放った男は、悔しさを憚らない。


背後から黒ずくめのフードを着た付き人が報告に来る。



「セテン様。『サンヘドリン』の皆さまがお集まりになっております。」

「ああ。だが今日の謁見は行わぬ。気分が悪い!!」

「———それと……タクスィス卿が報告に参りまして……『失敗した』と。」

「やはりそうか———」



セテン様と呼ばれる彼は、不毛の大地のような赤く長い髪をたくし上げ、頭を掻きむしる。



「そうそう都合よくはいかぬか———」

「いかが致しますか?」

「シェルバ卿とサヴォア卿に伝えよ。その者たちを殺せ。最悪、この世界の人類の大半が死滅しようともな。」

「はっ…!」



怪物は認知した。いやむしろ最初から存在を恐れて今まで生きてきたのだ……自らを完全に滅ぼしうる救世主を。

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アルファオメガ・ゲーム @Iwa_on_1000

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