3話 Another side【もう1人の俺】





轟音と共に煌めいた閃光。


その白き光が静まり、目の前に映る世界が無一色から元通りに戻る———ということはなかった。



「何…コレ……」

「——————」



葉夕たちはただただ驚嘆、そして困惑するしかなかった。


自分たちに襲来していた車は少しの影を残して蒸発。

街路樹は見渡す限りが燃え盛っており、建物のガラスは無惨にも粉々に散っている。


まさに核爆弾でも落としたかのような、そんな被害だ。



俺はクルクルと宙を舞っていたヴァジュラをうまくキャッチして、ポケットにしまう。


そして何事もなかったように事を先に進めようとする。



「……さて、学校行くか。」

「!!——ちょ、待ちなさいよ!!」



葉夕は平然と学校に向かおうと、横断歩道を渡る俺を制止する。


————が。



「あぁ……?」

「っ!?」

「くどい。」



俺は驚き怯んだ葉夕の手を振り払って、そのまま学校へと向かった。


呆然としていた葉夕に、後ろから結女が声をかけた。



「見ました葉夕ちゃん?」

「うん……右目が水色に。オッドアイっていうんだっけ。」

「ええ。性格も随分荒っぽくなっちゃったみたいで————」



この時本来、誰もが抱いているはずの、結女の愛想のある表情が消え失せていたことにこの場にいた誰も気づくことはなかった。


それはまさに、玩具が人間の知らないところで動いているかのように。



「………」

「てか、どうすればいいんだろう?あちこちが燃えてるし———警察?消防?」



オロオロとする葉夕……


すると、上空から轟音と共に飛翔体が突っ込んできた。



「間に合ったぜ〜!!威サマのお通りだー!!」

「威!?!?」



大鎌を持って空から現れた威。そして地面の窪みができるほどの豪快な着地。


そのまま、大鎌をブンと振り回す———すると



ゴオオオオ!!



凄まじい突風が吹き荒れ、燃えていたものたちが一瞬にして鎮火される。



「ふぅ……しといた甲斐があったぜ。」

「練習?」

「ああ。この鎌の練習をな!」



鼻高に威が持つその大鎌……アルマス。


究極とも揶揄されるその鎌は風を司り、一振りで自在に暴風を引き起こす。

さらにその力は使用者にすら効力を及ぼしている……実際、風のように威はこの場所へと飛んできた。


いつもより数段と勇敢に見える威に葉夕は咽ぶような声を出す。



「アンタも……なの。」

「え?」

「…なんでもないわよ。」

「あっそう。」



速人と威。幼い頃からそばで接してきた男の子2人が突如として遠くへ……関係性が変わってしまう。


葉夕はそれをひしひしと感じ、そしてしてしまう。



あたりの惨状を見て威が結女に声をかける。



「ところで…これ、速人がやったのか?」

「ええ、そうです。」

「そうか……らしくないようで、アイツらしい———」



意味深な言葉が発せられた。





—————※—————




「ぐっ……はぁ———」



ぐちゃぐちゃに散らばりそうだ。


今の俺を表現する———何も精神的に追い詰められた末の「それ」ではない。


本当にしてしまいそうな……



「くそっ…何が———」



ガシャン!


学校と外を隔てるフェンスへと倒れ込んだ。



そして———





俺の視界は暗転した。





〜〜〜〜〜




天極速人……彼は———






2人に分かれた。





物理法則的にありえない。いや、世界中飛び回ってもこのような事象が起こるのは神話の中で見られるくらいだ。


だが実際に起きている。




1人はフェンスに倒れ込んだ、黒髪褐色眼の美男。


もう1人は……



「おい、起きろ弱虫。」

「うっ———」



白髪碧眼にして白いジャケットの男は、もう一方の自分ヤツを荒々しく揺さぶる。


目を開けた黒髪の速人は動揺と困惑が隠せない。



「あ、あなた一体…一体誰ですか?」

「ったく、俺が聞きてぇよ。」



白い速人は舌打ちしながらも、状況をこの黒い速人に伝える。



「1つ言えるのは、元々1人だった天極速人人間がどういうわけか、お前に分裂したってことだ。」

「分裂ですか———まぁ、そうですよね。」

「あ?知ってたのか?」

「いえ、『私たちの見た目』と『以前の私たち天極速人』を見比べたら、そうなるだろうなと。」



速人の髪色はグレーっぽい色だ。そして先ほど、瞳は茶褐色と碧のオッドアイだった。


その事実から推論すれば、分裂した2つの姿である……そう考えるのはいかにも正解に思える。


だがそれより大事な疑問が目の前にある。



「なぜ分裂したのか……それが遺憾ですね。」

「さぁな。」



そんな疑問知ったこっちゃない。そう言わんとばかりに、白い速人は手持ちの三鈷 インドゥノスを投げて弄ぶ。


その様子に黒い速人は苦言を呈す。



「それを遊び半分で振り回すのはやめた方がいい。先ほどの被害から見て、まだ僕らには制御できない可能性がある。」

「黙れビビり。これは俺のモン……どうしようが俺の勝手だ。」

「君の勝手で周りを傷つけることになったら、君はその責任を取れるのか?そんな無責任な行為はやるべきじゃない。」

「……」



不気味な沈黙が訪れる……インドゥノスを弄ぶのをやめた白い速人。


睨むように黒い自分を見る。



……刀は不意に抜かれた。



「!!!///——グハッ!!!!」



パチっと乾いた音が響くと同時に、黒い速人はフェンスへと吹き飛ぶ。



「雑魚が…さっきから能書きだけの抗弁を。力の扱いに関しちゃ、は天性のそれを持ってる。このくらいの調整は訳ねぇんだよ。当然1もだ。それをテメェがお得意の知恵で邪魔するからあんなモンになったんだろうがよ……!」



鼻で笑う白き者。意識が沈みかける黒い速人は力を振り絞って、その屁理屈に真っ向から言い返す。



「嘘、だ……君は、『僕』が止めなきゃ、あの辺り一体を……更地にするつもりだった。周りの人だけじゃなく…葉夕や結女も……」

「あぁ——そういや、そうだったな。には是非とも消えてもらいたかったんだが……ま、今回は許してやるが——次は邪魔すんなよ。」

「邪魔するさ——邪魔しなきゃ……ならないんだ———」

「ふん…甘ちゃんが。」



互いに睨み合ったまま……彼らは————あるべき姿へと戻る。






————※————




ウー!ウー!



騒々しいサイレンが、中央道路へと鳴り響く。


先ほど速人が放った雷霆は、想像以上の被害を及ぼしていた。


消火こそ先ほど威が行っていたが、それ以外——建物への被害や交通混乱、重篤な電波障害……当然、警察がパトカーを数台引き連れての事情聴取と交通整理は行われて然るべき。



そして、この男……新條透は、捜査一課の新米警部補として、その事情聴取の最前線に立っていた。



「この痕跡……」

「おーい!」

「あ、野口警部。」



雷が直撃した車をじっと見ていた新條に、直属の上司たる警部 野口悟郎が進捗を聞きにくる。



「いやーひっでぇ被害だ。窓は最低でも100枚、その他電線が切れたり電波障害やらで、インフラ自体が一時的に止まってる。こりゃ後遺症も出そうだ。」

「そうですか……」



顔に暗い陰を落とす新條。


すると、1人の老人が野口警部の肩を叩く。



「野口警部、これは一体なんの騒ぎじゃ?」

「おぉひげ爺。それがでっけぇ雷が落ちたみたいで……」



彼は———通称 ひげ爺。この辺りをよく利用する、長い白髭が特徴の好々爺。


野口警部をはじめ、このお爺さんを知らない人はあまりいない。



「そうかそうか。全く、自然っちゅうのは恐ろしいモンじゃのう……いつもワシらの想像を超える。」

「全くですな……!」

「————本当に雷が原因なんでしょうか?」

「「?」」



新條が放った一言。

その言葉に野口警部とひげ爺は疑問を態度に表す。



「この雷が直撃したとされる車……火災ではなく、半分以上が融けて、蒸発している。雷で鉄鋼が蒸発するなんて前代未聞です。」

「確かに言われてみれば———」

「それに野口さん。雷による停電やは起こっても、近くに通信施設もないのに重度の電波障害まで起こることも聞いたことがありません……理論上として考えうる自然災害とは明らかに一線を画しています。」



新條の考えを聞いたひげ爺は彼の伝えたい全てを、一言にして呟く。



「核エネルギー……か。」

「察しがいいですね。」

「これでも長年かけて、無数の経験と教養を身につけてきたんじゃよ。」

「流石です……私の考えを理解するのなんて警察内でも1人いるかどうか———」



新條はひげ爺の思考に感銘を受ける。そして独り言を呟く。



「この事件……どうもただの自然災害では片付けられないがありそうです。」

「————」




--------


αΩゲームルール


風鎌アルマス

一振りで心地よい風から災害級の突風まで、あらゆる嵐を引き起こす鎌。風を斬撃に変えたり、風の如く高速移動も可能。

しかしその神髄は別にある。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る