5話目 生物遺伝魔導研究所(魔族)

 今日も思ったような実験結果は出なかった。本国からはどんな形にしろ結果を出さないとこれ以上予算が付かないと通達されている。


 それは結構なことだ!こんな場所での研究なんて早く終わりにしたい、と研究所の皆が思っていることだろう。


 ここは人間の国との境に位置する森の中。もっと言えば人間の国の領土内に秘密裏に建てられた研究所だ。元々は偵察の最前線基地だったようだが、新しく発足した作戦にちょうどいい場所だったようだ。


 魔導科学を使った生物の遺伝性質変化。ここはその研究を行う場所である。


 本来は本国の奥深い場所でやるような研究だが、実験体となる人間を調達するのが難しいという理由で最前線に持ってこられた。またここなら実験体が逃げ出そうが、被害を受けるのは人間国だ。軍事部からしたら一石二鳥らしい。こちらは命が係っているがな!いつ人間国の兵士に見つかってしまうかドキドキしながら研究をしている。


 今やっている実験は人間の遺伝性質を魔導により変化させ、こちらの思った通りの遺伝変化をした人間を町に戻す。そして戻った人間がその遺伝変化の影響を受けネズミ算式に遺伝汚染を起こしていくという遺伝汚染拡散実験だ。狙い通りにいけば、遺伝変化を起こした人間は夜な夜な異性に襲い掛かり、遺伝汚染された子をつくらせる。

 短時間で生まれ凶暴かつ、無尽蔵の性欲でどんどん増えていき人間国を中から瓦解させてしまおうという実験作戦だ。もちろん遺伝汚染は人間だけに限定することを忘れてはいない。我々魔族にも遺伝汚染が広がってしまうと大変だからな。


 人間国には思いつかないであろう作戦ではあるが、残念なことにまだ狙った形の遺伝変化を起こした実験体が現れない。何体かは興味深い変化を起こしたものもいるが、遺伝変化に耐え切れず全員が死んでしまった。あれはあれで面白かったのだが。


 今日も研究を終え、失敗した実験体を遺体安置所に運んだところであることが発覚した。死んだと思っていた面白い遺伝変化をした実験体が逃げ出していたらしい。あの状態で生きていたとは、なおさら面白い!


 しかし、死亡した時の記録を見ると人間とは思えぬ姿に変わっているので人の町に戻っても魔物として討伐されるだけであろう。よほど察しのいい話の分かるものがいれば別だが。


 研究所としては大した問題ではないとの結論を出し、今日の研究を終えるのであった。


 その夜、警戒魔法が放たれた。どうやら、人間国の騎士団がこちらに夜襲をかけてくるようだ。どうせ奴らの知能ではわからないだろうが、研究資料を残していくのもまずい。全員で火を放ち、急いで撤退する運びとなった。



 しかしなぜ、この高度に隠蔽された研究所の場所がばれたのだ・・・わからん。

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