1話目 逃亡

「ガハッ!」


 大きく酸素を取り込んだことで、苦しみから解放された。

 未だに朦朧とする意識の中あたりを見回すと、どうやらここは実験室の様な部屋だ。


 俺と同じように手術台?に乗せられた人が複数いる。だが、どうやら意識があるのは俺だけの様だ。・・・いや、命があるのがかもしれない。


 漂ってくる血の匂いや、大きい声を出したのに誰も来ないところを見るとここは遺体安置所であろうか。注意を払いながら台から降りると、足が・・・大分いかつい。自分の足とは思えないほどごつごつしている!腕も!


「なんじゃこりゃぁ・・・」


 急激に意識が覚醒する。が、自分の体のあまりの変化に現実味がなかった。なかったが、今はそれどころではない気がする。ここはあまりにも危険な空気。暗い室内なのに、机の上の書類に書かれた文字がハッキリと見える。

 

 魔族文字


 驚きと共に町で噂されていたことを思い出した。なんでも最近この町の近くで人攫いが多発しているらしく、それには魔族が関与しているらしい。何名かは無残な死体で見つかり、生贄もしくは実験に使われているのではないかとの話だった。


(俺実験されてるじゃねぇか!何とか生き延びた?でもこの腕と足、生き延びたと言っていいんだろうか。)


 そんな事を思いながらこっそりと部屋の外を確認する。外は明るいが、誰も居ない。遠くで談笑が聞こえる。お昼休憩なのかもしれない。今がチャンスだと思い、心臓をバクバクさせながらこっそりと施設を抜け出した。


 カモフラージュ重視なのか周りに壁などはなく、自然に溶け込むように施設は建てられていた。隙間を見つけてそそくさと出る。奴らも死体の数など数えていないだろう。(希望的観測)


 街にこのことを伝えたいが、今自分がどんな状況なのか解っていない。知己である門兵のカルロスにだけ伝え、一度身を隠そう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る