第18話 集計作業

今日こそ私が床で寝ようと思っていたのに、成ちゃんに引っ張られて、今日も狭いシングルベッドで2人で眠った。


成ちゃんに「いいでしょ」って言われると断りきれなくて、成ちゃんが私の腕に腕を巻き付けてきたのを振り切れなかった。


「男の人にこんなことしたら襲われるからね」


「それくらい分かってます。明梨なら大丈夫でしょう?」


「実は私は男性も女性もどっちもOKかもしれないよ?」


「そうだったとしても、明梨は同期のわたしとなんて面倒事は避けるタイプじゃない?」


「確かに。同じ会社の人と付き合ったら、別れた後が面倒そうだから嫌だな」


「明梨が気にするのはそこなの? 付き合う前から別れた後のことを考えなくていいのに」


「私は成ちゃんみたいに人を好きになる情熱が全然足りないんだよね。だから、好きで居続けられる自信がない、かな」


成ちゃんには、私みたいな考えは理解できないかもしれない。


興味深そうに成ちゃんの直視があって、それに気づきながら横目のまま視線を合わせることはしない。


「……だから明梨の傍は居心地がいいのかも。明梨はわたしを気にしてくれるけど、深く詮索しないでしょう?」


納得したような成ちゃんの声は、何故か嬉しげだった。


「人の恋路になんて踏み込むものじゃないでしょう?」


「明梨が誰かに夢中になっている所、見てみたいな」


「期待されても、そんな日は来ないよ」


感情に自分を委ねるのは、高ぶっている時はいいけど、落ち込むととことん落ちるになる。それを面倒事にしか捉えられない私が、心を奪われるような恋愛をすることはないだろう。


「そんなのその時になってみないと分からないものでしょ。わたしだって、あの人を好きになるまでは、恋愛なんて人生に必要ないって思っていたんだから」


つまり、新人の頃の成ちゃんはそう思っていたってことだろう。成ちゃんの思い人は、そんな成ちゃんの考えをひっくり返すくらい魅力的な存在なんだろう。


「そんな運命的な出会いは、誰でも起きるわけじゃないから。ほら、もう寝るよ」


アルコールが入っていることもあってか、瞼が自然と閉じて行く。何度か自分の意思で開いたけど、もう意識が保てそうになくて、成ちゃんに声を掛けると私は意識を手放した。





週明けの火曜日は、久々に旅行委員の集合日だった。


半月前に行き先と参加有無のアンケートメールを社内に送っていて、その集計と目的地の決定までが今日のゴールだった。


打ち合わせ時間の少し前から、成ちゃんと私で手分けをしてメールの集計を始める。


成ちゃんと隣席になったので、旅行委員の作業はしやすくなった。


「これで、終わり。結果どうだった?」


サブフォルダに振り分けていた回答メールを順番に私が読み上げて、成ちゃんが集計表に書き込んで行く。


アンケートの回答率は7割くらい。まだ正式な出欠確認じゃないので、返って来た分を集計するだけでいいと大木さんには言われている。


成ちゃんのモニターを覗き込むと、候補地の下に集計した数字が表示されている。


4つの候補を出した中で、もう少し希望がばらけるかな、と思ったけど、人気は一つのプランに集中した。


「やっぱりここが一番人気なんだ。料理は一番良さそうだったよね」


「海が見えるお風呂もあったしね」


本決定は4人揃ってからだけど、他のプランとかなり差があるので、この結果に従おうになるだろう。


「参加者の方はどう?」


「今で41人。未回答の人がいるけど、そういう人はほぼ不参加だって言ってたから、多少増減あるかもくらいじゃないかな」


成ちゃんの言葉に、去年の自分の行動を振り返ってみて納得は行った。


「確かに、去年までは社員旅行なんて興味なかったから、アンケートにも返信しなかったな……」


「だから、来る人ってかなり固定化してるんだよね」


「ごめん」


任意とはいえ、何となく後ろめたさがあって、成ちゃんに謝る。


「今年は参加だから、いいよ」


「うん。流石に旅行委員だから行かないはないよ。女性で参加するのは後は誰?」


「戸叶さんだけ。子供がいると参加できないって人が多いから、いつも女子部屋は1つだよ」


戸叶さんと成ちゃんと私だけっていうのは、少し淋しいけど、戸叶さんなら最近話もするようになったので、そこまで緊張することはないだろう。


「今までってもしかして、成ちゃんと戸叶さんだけだった?」


「他の人がいる年もあったよ。斎藤さんとか」


斎藤さんは2グループの女性で、私たちより少し上くらいかな。独身かどうかまでは知らない。


「もしかして、成ちゃん、戸叶さんの介抱するために、ずっと参加していたの?」


戸叶さんはお酒が好きで、でもお酒に呑まれてしまう人だ。流石に男性ばかりの社員旅行でそれは危険だろう。成ちゃんが社員旅行に皆勤賞って違和感あったけど、手のかかる先輩のためならあり得そうだった。


私の言葉に成ちゃんは口を一の字に引いたままだ。


あたり?


「同室なら放っておけないのはあったけど、わたしが毎年社員旅行に行くのは、こっちの観光地に詳しくないから、だから」


「成ちゃんの実家、西の方だよね、確か」


鳥取か島根かそのあたりだった記憶はある。


「そう。出不精だからバスに座ればあちこち巡れるっていいでしょ?」


「そういう考え方もできるね。それならもう少し涼しくなったら味覚狩りツアーとか一緒に行く?」


私も出不精だけど、1人で行くのは億劫でも成ちゃんと2人でなら行ってもいい気がした。


「どこに?」


「それはまだノープラン。ぶどうでも梨でも栗でも、私はなんでもいいから、成ちゃんの希望があれば言って」


「良さそうな場所なら行ってもいいけど」


「じゃあ、明日からお昼に候補地探ししよう」

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