第16話 家飲み
夕食の後は、やっと涼しくなってきた室内で寛いで、その間に成ちゃんは食器や鍋の片付けをしてくれた。
一人じゃないと、やってもらえるのはいいな。
でも、恋人ができて同棲したりしても、家事を分担してやろうとしてくれる保証なんてないんだよね。
男性と女性の間にある固定観念的な役割分担がいいかどうかは、人それぞれだけど、真剣に付き合って将来を考えるってなると、互いの感覚も合わないと難しい。
女性って不公平だとか考えてしまうので、私は結婚には向かないという自覚はある。
「どうしたの?」
片付けを終えた成ちゃんに声を掛けられて、意識を目の前に立つ成ちゃんに戻す。
「ちょっと考え事してただけ。片づけ有り難う」
「わたしが押しかけたんだから、これくらいするよ」
「じゃあ、うちに泊まりに来た件をそろそろ話す?」
「……お酒飲みながらにしない?」
帰り道にコンビニに寄った際に、折角だからちょっと飲もうか、とアルコールを買って帰った。酔う前に話を聞いた方がいいかな、と提案したけど成ちゃんの返事は逆だった。
成ちゃんは話は聞いて欲しいけど、素面で話すのは恥ずかしいのかな。
それなら先にシャワーを浴びてから飲もうと、交代でバスルームに入る。
「成ちゃん、足細い。背は私の方が高いけど、足は成ちゃんの方が長そう」
成ちゃんは、私が貸したTシャツとショートパンツ姿になってバスルームから姿を現す。半分以上素肌が曝されていて、きめ細かな肌は触れたら心地いいんだろうかと思ってしまう。
「そんなことないよ。骨が少ないからひょろっと見えてるだけじゃない?」
私の隣で足を伸ばして座った成ちゃんと、足の長さを比べてみる。
目で見えるほどの大差はないけど、予想通りやっぱり成ちゃんの方が足が長い。まあ、私はどう頑張ったってごく普通の日本人体型だってことは分かってるけど、やっぱり羨ましさはある。
「成ちゃんって、海外の血が入ってるとか?」
「そんな話聞いたことないけど。だったら、もっと背が高くなれたんじゃないかな」
確かに、私も成ちゃんも標準的な日本人女性の身長だった。
「背が高い方がよかった?」
「気にしたことない。別にスポーツやってるわけでも、モデルになりたかったわけでもないからね」
成ちゃんの返事に納得して、飲みの準備に入る。つまみになりそうなものと冷やしておいた缶を冷蔵庫から取り出して、目の前のローテーブルに並べた。
「じゃあ、とりあえずお疲れ様、かな」
「一週間お疲れ様、明梨」
缶を突き合わせて乾杯をしてから、缶を口元に運ぶ。冷たい液体が喉を通ると、急激に体の熱が奪われるようで心地いい。
「お風呂上がりの一口って最高だよね」
「クーラーの効いた部屋で、よく冷えたアルコールって、ぜいたくだよね」
「このために一週間働いたって感じがする」
「明梨って、そんなにアルコール飲む方だっけ?」
「スーパーで特売の酎ハイのセットを買って、ちまちま飲むくらいかな。毎日飲み出すといろいろやばいから。成ちゃんは?」
「わたしは家ではまず飲まないかな。飲むのは外でにしてる」
成ちゃんはお酒には強いので、家でも飲んでるいるのだろうと勝手に思い込んでいたから、成ちゃんの答えは意外だった。飲みに行くのだって、毎日ってことはないだろうし、それで強いって体質??
「じゃあ、今日は無理に付き合わせた?」
「それは大丈夫。一人で飲みたくないだけだから」
お酒の好きな人って、お酒そのものが純粋に好きなタイプと飲みの場が好きなタイプがある。成ちゃんは後者のようだった。
でも、
「成ちゃんって、一匹狼っぽいところあるのに、淋しがり屋だよね」
その言葉で成ちゃんの缶を持つ手が止まる。これ、言っちゃいけないことだった??
「……わたしは皆で盛り上がるのは苦手なんだけど、一人も淋しいんだよね」
「それは、そんな感じがする。成ちゃんってしっかりしてそうなのに、時々心配になるんだよね」
成ちゃんには、どう言葉にするのか迷うけど、危うさみたいなものが垣間見える時がある。しっかり者に見える成ちゃんのそれが素なのかもしれないけど、大丈夫かなって私はつい気になってしまう。
「いつも明梨を頼っちゃってごめんね」
「別にいいよ。私は恋人がいるわけでもなし、夢中になる趣味があるわけでもなし、仕事している時以外は暇人だから。同期のよしみってことで気にしないで」
「明梨と同期で良かった」
「私も成ちゃんと同期で良かったよ。でないと、SEなんて無理ですって今頃会社辞めてた」
これは冗談じゃない。成ちゃんに新人の頃に助けて貰えたのは大きいし、何だかんだと同じ女性が同期にいるっていうのが心強かった。
「わたしは大したことしてないよ」
「じゃあ、私も大したことしてないよ」
二人で顔を見合わせて笑い合う。私も成ちゃんも、互いが他の人よりちょっとだけ近い、そんな関係だ。
だから、少しだけフォローし合える、かな。
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