第29話「綾音と勇夫の失敗」
お昼ごはんを、浩司と真琴、美香と雅人、秀人とその彼女の沙織が偶然隣の席だったので六人で騒がしく食べ終わると店を出た。
「こ、浩司さん! お願いがあるんですが……」
店の前で皆で輪になった時に、秀人が浩司に向かって話し出す。
「何だよお願いって?」
「あ、あの〜、連絡先の交換……お願いします!」
「あっ! ズルいッスよ秀人さん! お、俺もお願いしまっす!」
秀人に続き雅人まで浩司に頭を下げた。
「付き合って下さいみたいに言うなよ……」
その浩司の言葉に、女性二人が笑い出した。
「確かにそう聞こえなくもないわね。──でも、男が男に惚れるって、本当にあるんだ〜。なんか妬けるな、私の時より必死じゃない?」
秀人の彼女は控えめに笑っていたが、美香は雅人の腕を握って顔を覗き込みそう言って笑った。
浩司が渋々連絡先の交換に応じると、その場で皆と別れた浩司と真琴。浩司は真琴に色んな乗り物を見せてあげようと思い、真琴の手を引いて遊園地を二人で回っていた。
「こ〜くん、あれちゅご〜い!」
「本当だ! あれはジェットコースターっていうんだよ」
「じぇとこす?」
言うまでもなく、真琴の可愛さにメロメロになった浩司が真琴をギュッと抱きしめていると、変なうめき声が聞こえてくる。
(ぬぅおーーーー!!)
「な、なんだ?」
その変な声に辺りを見回す浩司。その時、浩司のスマホから着信音が響いた。
「おっ、誰だろ? まさか、さっきの奴らじゃないだろうな?」
そう疑いながらスマホをポケットから取り出すと、画面に目をやる。
「あれ、綾音だ」
浩司が電話に応答する。
「はい、もしもし」
─『あっ、浩司? 今何してるの?』
「えっ? 何で?」
─『何でって、訊いちゃ駄目なの?』
「駄目じゃないけど、こんな電話初めてだから気になってさ」
綾音の声が途絶える。
「綾音?」
─『あっ、ごめんね。今外にいるんでしょ?』
その瞬間、右手で真琴と手を繋ぎ左手でスマホを持ち左耳に当てて電話をしていた浩司の両耳から遊園地内に流れる放送が聞こえてきた。
(本日は、当遊園地にお越し頂きありがとうございます。まもなく本日のイベント、ピエロのパンさんによる大道芸が始まりますので、中央広場へお越し下さいませ)
この時、浩司は思った。
──あれ? 今スマホからも園内の放送が聞こえたよな? なんでだ?
当然の疑問に、綾音に尋ねる浩司。
「綾音は、今どこにいるんだ?」
─『えっ!? や、や〜ね、仕事だからジムに決まってるじゃない。い、いや、今は、外よ。浩司に電話しようと思って、外に出て来たの』
「いつもはジムの中から掛けてくるのに?」
─『えっと……あっ、お客様が呼んでるから、切るね。バイバイ』
一方的に電話を切る綾音に、不信感を募らせる浩司。
「仕事? だよな。でも、さっき美香ちゃんに会った。あの時は有休を取って遊びに来てるんだろうくらいにしか思わなかったけど……。さっき電話で聞こえたのは絶対に園内放送。って事は、綾音は今ここにいる?」
辺りを見渡す浩司だが遊園地は広い。もしここに綾音がいるとすれば、浩司の姿を見掛けて電話をしてきたという事になる。
──僕が
浩司は真琴の手を握り、尚且つ目を離さないようにしながら色々と考えていると、またスマホが鳴った。
「はい」
─『
「香織さん、どうしたんですか?」
─『そっちで何かあった? 今ね、勇夫から電話があって、どこに居るんだって訊かれて。浩司君も一緒かって』
「やっぱり……」
─『えっ? やっぱりってどういう事?』
浩司が今あった電話の事、それに対して自分が思った事を香織に話した。
─『実は、私もあの二人は怪しいと思ってたの。勇夫は綾音ちゃんのジムに通う前は、筋トレといっても週にニ〜三回しかやらなかったのよ。なのに、最近はしょっちゅうジムに行ってるし、帰りも遅いし……』
「えっ? 勇夫さんも帰りが遅いんですか? 綾音も遅いんですよね。綾音は変なヤツがいるから、帰る時間をずらしてるって言うんですけど……そういう事だったのか」
──『それと……勇夫からの電話でも、
「それはもうあの二人が一緒に遊園地にいると言っているのと同じじゃないですか! 仲が良いとかじゃない、綾音と勇夫さんは浮気をしてたんだ……」
─『私も、
「──そう……ですね。怪しんで確認の電話とかしたら、向こうと同じになっちゃいますもんね。香織さんがそう言うなら……分かりました。連絡ありがとうございます。──あっ、
─『うん、ありがとう
──綾音と勇夫さんが……。そう思って考えてみると、怪しい事が多々ある気がするな。香織さんが言うように、訊いても言う筈がないし。決定的な証拠が出るまでは、知らん顔してたほうがいいのか? でも、もしそうなら僕達が引っ越して来たせいだよな? 決定的な証拠が出たら、香織さんに顔向け出来ない……。はぁ〜、しんどいな……。
この後浩司は、真琴が眠たそうにしだしたので、家に帰る事にした。
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