第20話「美人秘書」
─ マチョキンホーム ──
ここは勇夫が社長を務める不動産屋、マチョキンホーム。ここの従業員は、社長の勇夫と営業の
皆スポーツ好きという、体育会系が集まった会社である。勇夫が面接の時に、スポーツ好きだけを狙って採用したのかは定かではない。
この日は月曜日。毎朝行われる朝礼が終わり、皆が仕事にとりかかった。
「
勇夫の問い掛けに、タブレットを素早く操作する秘書の
「社長の今日のご予定は……五件ですね。──午前中に三件の内見、午後からはハウスメーカーの重役と会食、それと……怪我で入院されているマンション・コンドイ・コーナのオーナーの御見舞となっております」
──会食までの仕事は外せんな。ん〜、コンドイ・コーナのオーナーの見舞いは別日でもいいだろ。
結論を出した勇夫は、
「
「かしこまりました。では、他はご予定通りに」
「ああ、それで頼む」
秘書の
美人秘書と囁かれる事に、誰もが納得する人物であった。
❑ ❑ ❑
勇夫は順調に仕事を進め、午後から始まったハウスメーカーの重役との会食が終わると、
勇夫は流れる景色を車窓から眺めながら、
「
勇夫のその問い掛けに答える
「ええ。
「良い心がけだ! 実はな、昨日からジムに通い出したんだ」
ハンドルを操る
「社長らしくないですね?」
「はっはっはっ!
「何か事情がおありなんでしょうか?」
勇夫が一呼吸置き話す。
「家の隣に引っ越してきた若い夫婦と仲良くなってな。歓迎会と称して一緒に飯を食べた時に、その若夫婦の奥さんがジムのインストラクターをしていることが分かったんだ。その日に俺が保有するマシンを見てくれて、使い方の指導をしてもらったんだが……目から鱗が落ちたよ。素人とプロの差を実感した瞬間だった。その出来事が切っ掛けで、もっと体がデカくなるならジムに通うのも悪くないと思った次第だ」
勇夫の話に耳を傾けていた
「──そうですか、それは社長らしい考え方ですね」
「今日は今からそのジムへ向かう。
「かしこまりました」
信号が青に変わり、踏んでいたペダルを隣のアクセルペダルに踏み変え、勇夫の指示に従ってジムに向かって車を走らせる
二十分程車を走らせた所で。
「そこを右に曲がった所だ」
「あの交差点ですね」
勇夫の言葉に右にウインカーを出した
「あの一階がガラス張りの建物ですね?」
「ああ、そうだ……おっ! 綾音先生がお出迎えしてくれているじゃないか!」
勇夫の少し興奮した声を聞いて、
──声色が変わった……社長のテンションが上がったわ……。ジムのインストラクターがお出迎えなんて可怪しくない? これは怪しいわね。私も、その先生とやらにご挨拶しとかないと……ね。
「社長、私もその先生にご挨拶させて頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。俺が紹介する」
「宜しくお願い致します」
「あっ! 勇夫さん!」
勇夫を見つけた綾音が手を振っている。それを見た勇夫が手を振り返す。
勇夫と一緒に歩いている
──何、あの女は? 勇夫さんが乗ってた車の運転手でしょ? 何で勇夫さんと一緒に歩いてるの?
勇夫が女性を連れて来たことが気に入らない綾音が、わざと勇夫に駆け寄り腕を引っ張った。
「待ってましたよ! 今日も頑張りましょうね!」
「ああ! 張り切って行こうか! ──綾音ちゃん、先に紹介しとく。この女性はうちの会社の秘書をやってもらってる
「ご紹介に預かりました、社長秘書の
綾音が幾分ホッとした表情を浮かべ。
「あっ……秘書の方だったんですね。初めまして、私はこのジムでインストラクターをやってます、滝野綾音です。宜しいお願い致します!」
頭も下げず、勇夫の腕を掴んだままで挨拶をする綾音を見て
──礼節を
心の中とは裏腹に、姿勢を正し口角を上げて返答する
「此方こそ宜しくお願い致します」
「社長、私はこれで失礼します」
「ああ、ご苦労だった」
車を発進させた
──さ〜て、相手が社長婦人じゃないのなら、遠慮することないわね。取り敢えず……小娘の情報を集めて、ジムの内情をスパイを使って偵察しようかしら。二度と社長に近づこうなんて思えなくしてやるわ。ウフフッ。
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