第11話「香織の誘惑」
香織との電話を切った浩司が、アレでもないコレでもないと呟きながら、着ていく服を選考している。
「直ぐに行くって言ったのに、早くしないと嘘つきって言われちゃうな。──ん〜、あまり張り切った服も可怪しいか……よし、コレで行こう!」
結局、ジーンズに白のティーシャツと茶系の長袖のシャツを羽織った無難な服装に決めた浩司は、洗面所で軽く髪を整えて鍵とスマホを握り、玄関で靴を履いている。
「なんか、妙にドキドキするなぁ……。初めてデートに行く時ってこんな感じだった気がする。──このドキドキは、
浩司は独り言を呟きながら玄関のドアを開け、外に出て鍵を閉めた。
駆け足で八木家の玄関へ行くと、インターホンを鳴らす。
ピンポーン♪
『は〜い。あっ、
「はい!
『ふふっ、鍵、開いてるから入って来て。あっ、入ったら鍵閉めてくれる?』
「えっ? あ、はい分かりました」
浩司は言われた通りに玄関のドアを開けて中に入ると、間違いなくと鍵を閉めて思った。
──冗談のつもりで言ったのに、本当に鍵を開けて待っててくれたんだ……。何か嬉しいなぁ。
「お、お邪魔しま〜す」
脱いだ靴を揃えて胸の振動を感じながら中へと進んだ。ドアが開いて光が漏れている部屋を覗くと、そこはリビング。ソファに座る香織と真琴の姿が見えた。
「おはようございます」
浩司が顔を覗かせ挨拶をすると、香織と真琴が歓声を上げる。
「「
香織は真琴を抱っこしてソファに座っており、その真琴の右手を掴んで振っていた。
それを見た浩司が右手を小さく出してピースサインを作り、手首から上を軽く振る。
「いえ〜い」
香織が、自分が座るソファの横をポンポンと叩いたので、浩司はゆっくりと香織の隣に腰を下ろした。
「玄関の鍵が閉まる音がしてから、中々入って来ないから靴を履いたままジッと立ってるのかと思っちゃったわ。──いらっしゃい
「こ〜くん、こ〜くん」
香織と真琴に
「いや〜、香織さんの家に入るのは初めてだったので、緊張して足が中々進まなくて。──香織さんとは昨日会ったのに、何故か妙に緊張しちゃってて…。なんでだろ?」
「うそっ! 実は私もなの。なんでかな?」
浩司が真琴に目をやりに口を開く。
「勇夫さんは帰って来ないんですか?」
浩司の問い掛けに、香織が勇夫との電話内容を浩司に伝えた。
「なるほど。そう言えばそんなコースがあるって、
溜息を付いた香織が。
「もう筋肉の話はやめましょう。私達は私達で楽しく……ね」
と言って、色気のある表情でウインクすると、真横でその顔を見ている浩司が少し頬を赤らめ、話題を転換する。
「あ〜、お、お昼ご飯って何するんですか?」
その浩司の慌てぶりに、香織が微笑を浮かべた。
「ふふっ。──お昼よね……う〜ん、ご飯はあるんだけど……実は何もないのよねぇ。一緒に食べようなんて言っといて、ごめんね。──何にしようかな? 出前でも取る?」
お昼のメニューを考えている香織に、浩司が話し掛けた。
「香織さん、ウインナーと卵あります?」
「それくらいならあるけど……どうして?」
「じゃあ、昨日違う料理をご馳走するって約束したので、
香織が目を潤わせながら、感謝の表情で浩司を見た。
「本当に? すっっごく助かる。料理って結構大変なのよね。勇夫は家のことは全く手伝ってくれないから、全部一人でやらないといけなくて……。家事全般に
抱っこした真琴を揺らしながら話す香織に、浩司が相槌を打つ。
「いや、僕もそう思いますよ。男は仕事があるって偉そうに言う人がいるけど、会社には休みの日がありますもんね。でも、女の人は家事や育児に休みは無い。それに、香織さんが言うように給料も出ないから、僕も不公平だと思います。──だからって、僕が香織さんを開放してあげることは出来ないので、その不満は僕が受け取りましょう! じゃんじゃん吐き出して下さい。そうすれば、少しでも香織さんのストレス解消になるでしょ?」
浩司の横に座っている香織が、いきなり浩司の腕に自分の腕を回した。
「わっ!」
「
香織の豊満な胸が浩司の腕に当たり、浩司の心拍数は急上昇している。
浩司が自分の腕にしがみついている香織に目をやると、シャツの隙間から少し胸の谷間が見えた。
──み、見ちゃ駄目だろ! か、香織さん、柔らかいし、いい匂いするし、大胆だし、セクシー過ぎる!!
浩司の腕にしがみつく香織が、浩司の異変を感知した。
「あれ?
「そ、そりゃあドキドキくらいしますよ。香織さんみたいに綺麗な人にこんな事されたら……」
浩司は顔を真っ赤にし、香織の顔を直視出来ないでいる。
「
浩司が腕の感触に未練を残しながらも、勇気を振り絞ってその場に立つ。
「ぼ、僕はとっくにまいってますよ。──僕も男ですから、誘惑なんかされたら……襲っちゃうかもしれませんよ?」
浩司がそう言いながら、狼の真似をした。
「ふふっ、
香織がそういいながら、隣で狼の真似をして立っている浩司の腕を指で突いた。
いくら浩司が頑張っても香織の色気に適う筈もなく、どうしたものかと考えている。
──立ったのはいいけど、今度は上目遣いの香織さんがヤバいかも……。しっかりしろ浩司! 強引に話題を変えるんだ!
「さっ、ご飯ご飯! 香織さん、キッチン勝手に使ってもいいですか?」
香織の傍にいると理性が保てなくなると思った浩司は、声を大きく出しながらキッチンへ向かった。
「むむっ、逃げたな
「ごはん、まだ?」
❑ ❑ ❑
「お待たせしました〜」
八木家のリビングにあるテーブルに、浩司が作ったチャーハンが3人分並んでいる。もちろん、真琴の分は味を薄くして小さいお椀に冷ましたものを用意していた。
「わ〜、このチャーハン、パラパラしてて美味しそう。コレどうやって作ったの?」
香織が子供用の椅子に真琴を座らせ、自分も席に着いた。
浩司がコップにお茶を注ぎ終わると、自分も座りながら香織にレシピの説明をしだす。
「簡単ですよ。まず、ウインナーを適当な大きさに切って炒めるでしょ? そのウインナーを一度お皿に移しておいて、次に火にかけた中華鍋に多めの油をひいて溶き卵を流し込むんです。そしたら、直ぐにご飯を溶き卵の上に入れて、ご飯に卵を馴染ませながら軽く混ぜます。そこで、さっきのウインナーを投入して、塩と味の素を同量、醤油はお好みですけど……ご飯の色が変わるくらいは欲しいですね」
身振り手振りでレシピの説明を終えると、浩司は香織に目をやった。
「あれ? 香織さん? 話……長すぎました?」
香織が首を横に振ると。
「ん〜ん、ただ凄いなって。同じ男でも、こうも違うんだなって思ってね」
「勇夫さん……のことですか?」
香織がため息をついた。
「なんかね〜、もう長いこと遊びにも行ってないし、私と
そう言って寂げな表情で真琴を見つめる香織を、浩司が横から見つめている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます