第3話「隣家の家族」
浩司が伸ばした手でインターホンを押した。
ピンポーン♪
暫くすると女性の声がスピーカーから聞こえてくる。
『は〜い、どちら様ですか?』
「あっ、す、すいません。隣に引っ越してきました滝野と言いますが」
『あ〜、ちょっと待っててもらえます?』
「あ、はい」
言われたままに待つ二人。
「今日は何回も挨拶してるのに、また緊張してきた……」
浩司がそう口にすると、綾音も同調する。
「私もよ……」
綾音が口を閉じた直後に、玄関のドアが開いた。
「すいませ〜ん。あら? 若い夫婦さんですね〜、ってベランダからお互いに見合ってるよね?」
出てきたのは、長い髪の女性。前髪を作っておらず、横に流して耳に掛けている。トレーナーに短パン姿のスレンダーな色白美人。豊満な胸に目をやった浩司の頬が少し赤くなった。
出てきた女性はベランダに居た人と同じだったが、近くで見るとまた一段と綺麗だった。彩音が見ても綺麗だと思う人だったので、綾音は横にいる浩司が見惚れているだろうと直感した。
浩司の、鼻の下が伸びただらしのない顔を想像して綾音は思った。
──
ドンッ
「いてっ!」
綾音が浩司の背中を叩くと、浩司は一瞬綾音の方を向いた。綾音に叩かれて、この女性に見惚れていた自分に気付いたのか、浩司は咳払いをして挨拶を始める。
「あの、隣に引っ越してきました……えっと、僕が
浩司がそう言い終えてから深々と頭を下げたのを見て、彩音も一緒に頭を下げた。
「うわ〜〜ん!!」
すると、突然奥の方から子供の泣き声が聞こえてきた。その声に気を遣った浩司が口を開き、もう一度さっきの半分程頭を下げた。
「あっ、お子さんがいらっしゃるんですね? 長居しても悪いので、これで失礼します」
帰ろうとする二人を制止する女性。
「待って、子供は大丈夫だから。まだ私の名前も言ってないのに、帰っちゃ駄目よ」
色気たっぷりで話す女性。
その女性の後から、浅黒い肌に整髪料で固められた短髪、筋骨隆々で整った顔をした男性が子供を抱っこして現れた。
「こんばんは! いや、初めまして……かな?」
シャツの上からでも分かる筋肉質な体付き。子供を抱いている腕がムキムキだ。
その男性を見た綾音は思った。
──凄い筋肉……。どこのジムに通ってるのかしら? それに凄くイケメンじゃない!
男性が二人に挨拶した後に、家族の紹介を始めた。
隣の家のこの家族は、夫の
浩司と綾音がもう一度頭を下げ、浩司が
「あ〜、引っ越し蕎麦ね。美味しそうなお蕎麦をありがとうございます! 若いのに引っ越しの挨拶なんて偉いわ。これから宜しくね!」
「会っても挨拶一つしないヤツもいるのに、本当に偉いな君達は。──力仕事なら何でも言ってくれればいい。俺の筋肉で片付けてやるぞ」
浩司と綾音が笑い、綾音が口を開いた。
「何かとご迷惑をお掛けすると思いますが、宜しくお願い致します」
「あっ、致します!」
綾音が頭を下げたので、慌てて頭を下げながら浩司は思った。
──若いを連発してたけど、歳は左程変わらないんだけどなぁ。女性からすると、三つ四つは大きな差なのかな? それよりも、真琴君かぁ……可愛いなぁ。
「う゛〜ん!」
❑ ❑ ❑
近隣に挨拶を終えた二人は自分達の家に帰り、自分達用に残していた蕎麦を食べている。
「お〜、この蕎麦美味しいなぁ」
「うん、美味しいね。お隣さんも良い人そうだし、ここに家を建てて良かったかも」
浩司に相槌を打ちながら綾音は思った。
──とくにあの御主人はイケてたわ。
「そうだよな。仲良く出来るならしたいよな。──よし、明日から頑張らないと」
そう言って蕎麦を頬張りながら浩司は思う。
──八木さんか……奥さんは綺麗だし、旦那さんはムキムキだけど……。真琴君と遊びたいなぁ。どうやって仲良くなればいいかな? 玩具でも買っていこうか? いきなりそれは変かな?
二人は
ベッドに入ると綾音が話し出した。
「
「僕の仕事部屋のやつ? ダンボール箱を整理してたら出てきたから、懐かしくて貼っちゃったよ」
「なんてグループ名だっけ?」
「伝説のロックバンドCOMB & DUCKTAIL 略して『C&DT』」
綾音が思い出したように笑った。
「そうだったわね。リーゼントが売りのロックバンド……格好良かったわ。──それと、デスクの上のあのバイクのプラモデル。あれって、暴走族が乗るバイクでしょ? ずっと気になってたんだけど、どうしてあのプラモデルを大事にしてるの?」
「ははっ、確かに暴走族仕様だよな。──あれは、大親友の形見なんだ。ヤンチャなヤツでさ、
綾音が天井を見つめて考えている。
「ヤンチャな、
綾音の答えに浩司が上半身を起して、身振り手振りで話し出した。
「そうそう! その総長と僕は大親友だったんだよ。その
浩司は、当時を思い出しながら楽しそうに話を紡いだ。
「凄くいい奴でさ、『弱きを助け強きをくじく、これが俺のモットーだ!』なんてことを真顔で言うヤツなんだよな。面白くて、優しくて、そして強かった。──ある日、イジメられてた子を
浩司の話は終わったが、綾音は何も相 槌を打たない。
「あれ?
「ん〜ん、そんな話を聞いて寝れないわよ。
浩司は綾音に返事をするでもなく綾音に覆いかぶさると、胸に手を回した。
「──あん」
「久しぶりに
浩司はそう言いながら、綾音のパジャマのボタンを外し、下着を付けていない胸を触る。
「ん、あん……もう〜
「げっ……。そんなこと言うお口は塞がなきゃ」
浩司が綾音の口を自分の唇で塞いだ。
「んんっ……あっ……
「僕も大好きだよ……
「はぁん! いきなりそんなとこ触っちゃ駄目よ。──あっ!
浩司は目が点になっている。
「い、今そんなこと訊く? 今日は引っ越しだったからやってないけど……」
「じゃあ、筋トレやってからね。それまでお・あ・ず・け!」
「えーー!?」
就寝する筈の時間は大幅に過ぎ、夜は更けていく……。
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