第9話

夜の遊園地。私たちにとっては新鮮で特別な時間だ。幼なじみだった私たちは子どもの頃から何度か遊園地に行ったことはあるけど、子どもだからかそんなに長くはいさせてはくれなかったんだよね。二人きりの時はもちろんだしお母さんたちと一緒の時でさえ長くはいられなかった。

でも今は違う。私もツカサも自立した社会人だ。門限なんて存在しないし同行している保護者もいない。


「綺麗だね」

「うん……」

「あたしの顔見ながら言うなっての。ベタだし話聞いてないでしょ?」

「へへへ」


夜になって空はすっかり暗くなったけど、その代わり遊園地のあちらこちらが光始めた。

私はベンチでツカサの肩に寄りかかって頭を乗せた。

これまでは何度か経験してきた時間。でもこれからは、幼いころからずっと一緒だった私たちでさえ経験したことのない、未知の領域だ。


「ね。もう一回観覧車行こうよ」

「また? でもそっか。観覧車なら良い眺めが見れそう」

「そういうことっ。ほら行くよっ」


ツカサの腕を抱いて歩く。経験したことのないって考えるとドキドキが止まらない。腕をしっかりと胸に抱いているから私がドキドキしていることは、もうバレているだろうね。

今すぐキスしたいけど……ううん。まだ取っておこう。あぁ。ツカサの顔、まともに見れなくなってきたな。


「ふふっ」

「え? どうしたの?」

「セナ、かわいい」

「うぐぅっ……」

「そんな声出さないの。セナらしいけどね」


彼女からの正面からの愛情だ。ずるいよぉ。私だって、ツカサのかわいいところたくさん見たいのにぃ……胸でもつっついてやろうか。

でもそうすると、絶対夜に何倍にも返ってくるだろうなぁ。それでも愛する女の子の愛情を全部受け止めるのが彼女だけどね!


「ほら、着いたわよ」

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