#28 ヒキニート実家に帰る⑪
「!? あれ?? ぇ? ええ?? くまちゃん?? そういやくまちゃんはどこ??」
ようやく思い出したかのように、竜二が彼の名前を呼んだ。
それに翡翠も肩を竦めて、
「『あぁ。あの子供はさっき思いっきり拒否った人間を切り捨てて、商品確保に向かったよねぇ』」
淡々と竜二に言い返した。
「はぁ?! 拒否った?? 誰がだよっっ??」
竜二は眉間にしわを寄せて、翡翠に顔を向ける。
唾がかかる翡翠も眉間にしわがさらに寄ってしまう。
「『正直に言うよぉ――手前だっ! 馬ぁああっっっっ鹿!』」
手を銃にさせて竜二を差した。
竜二の顔から血の気が引いていく。
「っく、くまちゃん! くまちゃん! たくまっっっっ‼」
慌て始めた竜二の足下から律が這い上がって来た。
「『どうする? 戦う? 逃げる? それとも――どうしますか? ボクはどちらでも許可をしますよ』」
律の口調でゆっくりと聞く。
そんな彼らの視線に竜二も頭を掻きむしった。
ガタガタと身体が震えた。目の前も暗くなってしまう。
(逃げる? 戦う?? どうする、群青竜二‼)
目をつぶって、眉間にしわを寄せる彼の様子に翡翠もほくそくんだ。
そして、一歩前に出た。
「『あぁ。帰りたい。本当に面倒くさいったらないよねぇ』」
「?? ぇ、兄さん??」
「『でもさぁ。いいよねぇ、オイラも――群青の長男だ。父ちゃんのように、じいちゃんのようになりたかった!』」
変態化をいきなり解いた翡翠の行動は素早かった。
竜二の身体を身動きできないように羽交い絞めにしたかと思えば、
がぶぅうう!
「っだ!」
突然、翡翠は竜二のうなじを噛みついた。
あまりの激痛に竜二も翡翠から身体を離そうとするもがっちりと抱え込まれていた。離れる真似は叶わなかった。
「兄さん!? なんっで噛みつくんだよっっっっ」
うなじから流れる血の感覚と翡翠が舐める感覚。肌がざわついた。
「『兄ちゃんが《聖獣》を借りるねぇ!』」
「はぁ?!」
「『! お主、離れるでござる‼』」
「ぁ、ああ!」
バリバリバリ――……
「――兄さん。《聖獣化》が出来るんだ」
ゴリラの姿になった翡翠を見上げる竜二の腕を引っ張った。
「『この場は翡翠殿に任せても大丈夫でござる! お主は拙者らと商品確保でごっざー~~るぅ!』」
「ぁ、っでも! ちょっとーちょっと待ってよー」
「『兄心に甘えるでござるよ! あの者は強い、お主よりも資質も腕も抜群なのでござるよ!』」
吠える魔物はエノキのように白く畝っていて。
一体ではなかった。
果敢にも翡翠は立ち向かっていた。
ズク。
ズクズクズクズクズクズク。
痛むうなじを竜二も手で抑えた。
「うん。それは知ってるよーオレの兄さんだ。間違いないよ」
にこやかに竜二は腕を律から離させた。
「律君。状況の報告を!」
「『……――はい! まずですが……』」
◆
【21:29:07】
俺は後方さんと一緒に商品確保に向かった。
だけど明らかに時間がヤバい。
何がヤバいってさ。
何がどうなるのか俺には分からないってことだ。
どうしてこうなったんだ。
仕事って、社蓄ってこんなにも体力を消耗することなのか。
今まで、家から出なかったことや。
何の運動もしてこなかったことを恨むほかない。
「『恵比寿君よぉ。今まで生きてきた中で何が楽しかった?』」
突然、靄の中から後方さんが俺に聞いた。
戸惑いながら俺も、
「楽しかったこと、ですか? ――今、この場面かな。すっごく楽しい!」
正直に言った。
こんなにも楽しい、アトラクションのような場所があるだろうか。
頼もしいおじさん達もいる。
「『ああ。そうだよ、仕事は楽しくなきゃ、やってらんなくなっちまうよな』」
「? 急にどうしたんですか?? 後方さん」
「『いいや。未来は――決まった。カウントダウンだぜ、恵比寿君よォ』」
後方さんの言葉に俺は時計を見た。
【19:31:49】
時間は減ってはいるけど、慌てるような時間じゃないはずだ。
後方さん達にとってはだけど。
靄から後方さんが人間の姿に戻った。
口許には煙草が咥えられている。
「え? 後方さん。なんで解いたんですか?」
すぅ。
っふ、ぅうう~~……
「今回の――《P通貨》は無しだ」
「???? ぇ、それはど――」
ブルブル! と俺の軍手が大きく震えた。
「? 蓬田さん??」
俺も首を傾げながら押した。
――あーた達! 解散しなさい。今回の商品はキャンセル。キャンセルよ!
その言葉に。
俺は絶句してしまう。
「ぎゃ、ふん」
次いで。
傍にいたおじさんの声が聞えた。
「っち。無駄骨かよっ」
「だね。あまり、群青竜二の能力を拝むことが出来なくて残念だぜ」
「後方さん。もしも、今後、オレが声をかけたら、隊に入ってく――」
ガン! とおじさんの腰の骨を殴った。
「った! ってぇ~~」
「当然だぜ。不完全燃焼って堪んねぇぜ」
おじさんと後方さんとのやり取りを、俺は腕を組みながら見ていたら「来いよ。たくま」とおじさんが手で来いとひらひらとさせた。
「邪魔なんだろ。俺なんかさ、ペーペーだもんねっ!」
「おいおい、不貞腐れてんのかよ?? 可愛いぃなー」
「だったら何だって言うのさ」
パンパン。
手が鳴る音が聞えた。
「はいはい。帰るよぉ、子供達ぃ」
鳴らしたのは翡翠さんだ。
口許には血が滲んでいた。
どうしてだか俺には分からないけど。
《
俺の視線に気づいたのかな。
口許をおじさんが自身の《作業服》の袖口で拭った。
翡翠さんも、目を丸くさせたけど。
「どぅも。ありがとぉ。群青の末っ子ちゃん」
「ぅっせぇよ。馬ぁあああぁああぁ鹿っっっっ」
おじさんは翡翠さんに言いながらうなじを擦った。
よく見ると、そこには歯型と固まった血がある。
「お主ら。和気藹々もほどほどにするでござるよ」
蜘蛛から人間に変わった律さんが。
俺の時計を指差した。
【15:41:29】
「死に体のでござるか? 時間を過ぎれば路が変わり。ここの倉庫は時空封鎖に伴い、他の隊が来ない限り出られぬのでござるぞ」
「なち藤君はやっぱり
「年季でござるよ。生きて来た経験の差でもござろう」
よく分かんない会話だ。
律さんになち藤とか、どっちなんだ。
なち藤律ほむらさんなのか。
律ほむらなち藤さんなのか。
「あ。一応、《パステル46色》は必要っぽい」
辺りの空気が後方さんの言葉に。
止まってしまう。
「お主、嘘を申すでない。全く、困った奴でござるな。冗談も、今は、笑えぬでござるぞ」
強い口調で後方さんに聞く。
俺も、二人を見ている。
「俺を信じなさいってのよ。
【11:53:38】
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