#27 ヒキニート実家に帰る⑩

 おじさんと翡翠さんが睨み合う。


 律さんと後方さんが睨み合う。


「本っっっっ当に! どいつもこいつもなんなんだよっ!」


 俺ははぶられている。

 どうせ、俺は新人ペーペーさ。

 話したところで話しにならないってのは、俺にだって理解は出来るよ。

 でも。あのね! 

 理解する時間や、頭の中を整理する時間とかだって。

 くれたっていいんじゃないのかよ。


「俺なんかが、身の程を知れっての? そりゃあ、そうだけどさぁあ!」


 自分で言った言葉に、俺自身が傷ついてしまう。

 こういうときに実績や、功績が俺なんかとは違うってことを見せしめられる。


 今後、色んな展開で俺は歯痒い思いをしておじさん達を見上げるんだ。

 でも、いつかは。


「! そだ! えぇと!」


 俺は《英雄の拳》をめくって軍手の甲を押した。

 唯一、恐らく俺の言葉を聞いてくれるかもしんない人物が。

 1人だけいる。きっと、あの人なら。


「オペレーターの人! 聞こえてますか?! 恵比寿たくまです!」


 必死に言う俺だったけど何の応答も返事もない。

 心臓音がバクバクと聞えてくる。

 これで、何もなかったらどうしたらいいのか。


 ――あーた。何よ、商品確保が遅いんでないの? 全く役立たずの新人だわね。


「!? ぉ、オペレーターさんンんっっっっ」


 安堵に俺は涙声になってしまった。

 向こうのオペレーターさんも、俺の泣き声に無言になってしまって。

 誰かと話しているのか聞こえる。

 少し、ざわついているようだ。


「助けて下さい! 助けて下さいぃいい!」


 ――あーたの仕事は何? 言ってみな。


「? ぉ、俺の仕事は商品の確保をすること……」


 ――僕の仕事はあーたを導くことしか出来ないの。他の従業員コマンドランナーが役に立たないようなら。あーたが頑張る他ないでしょうに。職場放棄は許さないわよ、いいわね。恵比寿。しっかりさない! あーたは社畜なの! 給料泥棒になんかなってはいけないのよっ。


「うん。――うん! お姉さん、名前は何て言うんですか??」


 俺はオペレーターさんに名前を聞いた。

 すると、また他の人と話すのが聞えてくる。


「ぇえと。聞いたらダメなの? ごめんなさいっ」


 ――蓬田よ。さぁ! 教えてあげたんだから! さっさと《パステル46色》の商品確保に向かいなさい! 時間は金成りよ! あーた!


「うん! ……で、パステル46色はどの辺りにあるのかナビをしてもらってもいいですか?」


 とっても大きなオペレーターさんの、蓬田さんがドでかいため息を漏らした。

 それに俺も、ちょっとショックなんだけども。

 今は、いいや。


 【22:51:09】


 ◆


「『あ。恵比寿君が何かをしょうとしてんな』」


 後方が律に言う。

 だが、

「『良い。どうせ、今回の商品確保は群青の兄弟で。《P通貨》も彼らのモノでござる』」

 律は鼻先で一蹴させた。


「『あの者は所詮。《殉職者ケアチャーヂャー》になる者でござる』」


 目を細める律に後方は頭を軽く振った。


「『あンたは人の見る目もなくなっちまったみてぇだなァ』」


「『お主は昔から何も変わらぬでござるな。人を愛するという戯言を好む』」

「『っふ、っは! 戯言結構だねぇ! 来いよぉうっ!』」


 蜘蛛達が一斉に後方へと飛びかかった。

 見計らったかのように、後方の靄が火花を散らせた。


 バチ!


 バッチバッチ‼ と閃光を放ち黒煙を上げる。


 蜘蛛達が焼き焦げた。

 律も後方の靄から身体を離した。

 ニヤつく後方に律も怒りの顔色を浮かべて訊く。


「お主。本気で拙者とり合う気でござるか!」


 蜘蛛の上半身を人にさせ後方に確認をした。

 表情が真剣そのもので、笑みもなく無表情だ。


「『んな気なんざねぇよ。俺ぁさぁ~~こう見えて平和主義なんでねw』」


 へらっと肩をすくめると後方は姿を消した。

 律も表情を和らげて肩を竦めた。彼を追う気なんてさらさらとないという態度だ。


「平和主義でござるか。お主はいつも、自己犠牲をしたがる真似には困ったものでござるな」


 身体を翻した律は、群青兄弟へと足を奔らせた。


 ◆


「『兄ちゃんは別に竜二君に害をなそうとか思っていないし。むしろ――まぁ、いいや。あぁ。帰りたい』」


 投げやりな翡翠に竜二も眉間に眉間にしわを寄せた。

「はぁ~~兄さんは本当に性質が悪いんだよー」

 頭を掻きながらわざとらしく息を吐いた。

 倉庫内が大きく揺らぐ。何かが来る振動が宙に伝わり、肌に障り感じ取ってしまう。


「化け物を呼び寄せるんだからさぁ‼」


「『ま。そぅじゃなかったら、オイラも隊長になれたんだけどねぇー出世も見込めないのってさぁ。やっぱり……ま。いっかぁ。うん、いいやぁ!』」


 がっしゃん、と腰に手を当てて宙を仰いだ。

 彼にだって彼の事情があって。

《ワールドルーツ》内部では知らない従業員はいない。

 もちろんのこと、竜二も身内の事情は知っている。


 体臭フェロモンが人外のみに好まれる。

 しかも、汗をかきやすい体質でもあって勤務時間や出勤も限られていて、だ。行きたいという衝動と、血肉のざわめきに眩暈に襲われた。窮屈で苦痛でしかない日常生活。


 今回の勤務は《無断出勤》だった。


 父親である竜之助には「倉庫の中には竜二だけが入る」と嘘を吐いた。小さくも重大な大嘘だが竜之助は疑いもせずに了承をした。しかし、竜之助とて用心をして使わせたのが――律と後方の2人であった。何かあった場合の保険。

 何かが起こっても処理を行えると信頼をしているからだ。

 息子との態度は雲泥の差だが、悪い方向に走らせることが息子たちは天才だと、頭をフル回転させた結果の選考した従業員。

 結果として。


 それは功を奏した。


「『さぁー《聖獣》の能力を見せてくれよぉおぅううっ!』」 

 

 大目玉は覚悟の上で翡翠は声を大きく荒げた。

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