#25 ヒキニート実家に帰る⑧

(これって。また――ヤバい展開パターンじゃないのかなぁ!)


 【34:19:31】


 俺は時計を見た。

 喋っていたせいか、時間が経っている。

 焦っているからなのか俺の息も荒くなってしまう。

 迫り来るであろう背後の彼らを想像する。

 かなり、頭の中が混乱パニックになっていた。

 自覚があるから困る。

 でも、俺が困ったところで、問題は片付かないのも事実だ。


「よかったな! たくま!」


「?! っな、何が?? おじさん!」

「今回は化け物が出ないようだぞ!」


「さっきみたいな奴のこと? 化け物って」


 そういや、さっきも何か出て来て。

 おじさんが何かやって強制なんちゃらをしたっけ。


「……俺を強制退場リストラしないでね。おじさんっ」


「それりゃあ。くまちゃんの頑張り次第だぜー」


 おじさんが俺に笑いながら言う。

 まだ、笑ってくれるなら。

 まだ、大丈夫なんだ。


「うん! 分かってるって!」


「その意気。その意気ー」

 おじさんは俺の頭を撫ぜた。

 嬉しい反面、子供扱いされているという感じだけど。

 全然、イヤなんかじゃない。親父にもされたことなんかないから憧れていたんだよな。撫でられるのを。くすぐったくて、堪らなく嬉しいとさえ思う始末だ。年甲斐もなく。


 今は、それどころなんかじゃない。


「っと。おじさん……時間がないよ」


 【29:19:07】


「もう。29分だよ!」


 俺はおじさんに今の時間を言った。

 おじさんも、

「後方ーあのさー~~」

 辺りに漂う後方さんに声を掛けた。

 

「任務に失敗なんかしちゃったら、お前達も帰れなくなるでしょーだからさーどう? おじさんと組まない?」


「『組む? 俺とあンたが?? っぷ! っはっはっは!』」


 後方さんが、またアバを解いた。

 口許には煙草が咥えられたままだった。

 どうなってんの、煙草それって。

 勤務中の火気厳禁の倉庫内で吸うとかだめじゃないの?

 勤務態度最低最悪ってもんだよ。呆れちゃうな。

 始末書になってしまえばいいのに。


子供そっちに嫉妬されねぇ? 刺されそうじゃね?」

「しないよ! する訳ないだろう! なんなんだよっ、腹立つなぁ!」

 俺も後方さんを思いっきり睨んで吠えてしまった。流石にいいように言われて、勘違いをされたら堪ったものじゃないし。俺の否定の言葉もなんのそのと、後方さんが声を弾ませておじさんに聞く。


「俺と浮気をする気ね」

「浮気じゃねぇよ。気色悪い言い方すんな。ぅんなのいいからー乗るの乗らねぇのか? どーなんだって話しをオレはしてんだけど? もっしもーっし!」


 後方さんが後ろを見た。

 きっと、律さんと翡翠さんを伺っているんだろう。


「ま。たまにゃあ――裏切るってのも粋かもな。ちょっと、そーゆーのにも憧れていたしねぇ?」


 そう言うと後方さんがまた靄に変わったんだ。

 さらに俺達を包み込んで回転すると。


 辺りの空気と、光景が変わっていく。


「ひょえぇええ!」


 情けない言葉しか俺の口からは出ない。

 さながら遊園地の絶叫アトラクションのようなことが、身に起こっているとだけ言っておこうか。


 ◆


 トン! と。


 足が地面に着くと。


「ぉあっ!」

 

 今いる倉庫は木々が覆い茂っていた。諸々と、そのほかの倉庫にも細工というか、仕様というべきか、ただの何もない倉庫ではない。RPGのように障害物が必ず置かれていて、そこに化け物を放っている。とおじさんが教えてくれた。

 中央でもあるはずの棚の域には木々なんかは何もない。商品確保地に従業員が来た時点で、化け物は来ない仕組みになっている。も、何からも襲われることもない安心感が見舞われた。どんな手段にしろ。無事であれば勝ちであり、夜の酒場にいって仲間に迎え入れられるくらいに誇らしいことだ。

 俺は誇っていいのだろうか。五体満足なのはおじさんや後方さんのおかげで、何一つもしちゃいない。

 俺は後方さんの見上げた。

「『いいじゃない。どんな手段を使ったってダメだなんて規則なんかない。ははは! 今日も煙草ぅんめぇー!』」

 そんな俺に肩におじさんの手が乗っかった。


「さ。商品確保だ」


「! うん!」


 おじさんの後ろに俺もついて行った。

(後方さん、アバったままだな)

 後方さんはアバ化を解かない。

 それに俺は違和感を覚えた。


「?」


「くまちゃんー時間は?」

「‼」


 【27:44:19】


「27分っ」


 俺は慌てた。言うべき言葉も上擦ってしまった。

 だって、このままじゃあ。

 間に合わない。


 いや。

 俺が怖いのは。


(リストラ、されちまう)


 ガシャン! と音が聞えた。

 音の鳴る方へと顔を向けると。


 鎧武者の翡翠さんが居た。


 ぞわ。


 ぞわぞわぞわぞわわわ――……


「っく、っもぉおおっ!」


 小さな蜘蛛の大群を引き連れて。


 【26:21:10】


 ただ一体。

 巨大な女郎蜘蛛姿のアバっている――ほむほむ隊長さん


「『ボクに渡してもらおうかな』」


 俺の全身は汗が滝になっている。

 本当に蜘蛛はダメなんだって!

 でも、ここで倒れるなんことは出来ないっ。


「そ、それは出来ません! 勝ちは譲れない!」


「そうそう! 言っちゃってぇ!」

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