#21 ヒキニート実家に帰る④

 何も考えていなかった兄弟。

 俺がびっくりしたのもつかの間で。

 

 ◇◆


『父ちゃんにちょっとシフトの確認するねぇ』

『やっ! 兄さんっ、ちょっと待って! 本当に待ってって!』

『うっせぇーばぁああっかぁ!』

『ぎぎぎ!』

『ぉお、おじさん! ここは翡翠さんにお任せしましょう! 商品確保のためですよ! ねっ!』


 ◆◇


 翡翠さんが親父さんに連絡したようだった。

 多分、そうしないと人では確保出来なかったとは思う。

 俺は蜘蛛の倉庫車内から、そのやり取りを見ていることしか出来なかった。

 おじさんは本当に嫌そうに、不貞腐れて頬を膨らませているけど、仲がいいのか悪いのか。

 おじさん、さっき、その親父さんに頼って行ったじゃんか。


「いつか話してくれたらいいなぁ」


 ◆


「はい。確保をしましたっよっとぉ」


 倉庫前に呼び出された2人の従業員。

 1人は大きな目に、鼻のそばかすが特徴的で。

 色素の薄い前髪をバンドで上にしていて左右の毛がぴょんと跳ねていた。

 猫の耳のようになっている――律ほむらさん。

 名前は可愛いけど、24歳の男の人だ。


 後の1人はおじさんよか垂れ目で、フチなしの細い眼鏡をかけている。

 薄い髪を全部後ろに上げている。

 口には煙草が咥えられていて、白い煙が上がっていた。

 今いる面子の最年少となる19歳の青年――後方未来コウホウサキさん。


「ぅっわ! 似てない! ぇえー~~ちっとも群青さんに似てない! いや? 連れ子婚ですか!」


 律さんの第一声がこれね。

 俺をおじさんの息子かと勘違いをされていらっしゃる様子だった。こんなに大きな俺が連れ子婚だったんなら、母親は何歳なんだって話しで、おじさんはすっごい性癖ってことになっちゃうだろう! 考えたって分かるだろうがっ。


「噂はかねがね聞いています。初めまして、後方未来っス。ほむほむさん、お連れの方は息子さんとかじゃないですよ」


 後方さんの第一声がこれだ。

 手を伸ばしてがっちりと結ぶんで、

「その髪型。お似合いっスね~~リボンが可愛いっス」

 おじさんの髪の毛に手を伸ばしたのが見えた。

 咄嗟に俺は前に出て塞いでしまう。なんで、そんな真似をしてしまったのか。俺自身でも、首を傾げてしまったのだ。

 

「――……っと! ぁ、あのぅ~~ぇへ?」


 俺自身もびっくりの案件。

 後方さんも同じだったよな。本当にごめんなさい!

 塞がれ止まってしまった手を握って下すと、

「あンたは。どんな従業員なの? 何年目だよ?」

 俺に、そう質問をしてきた。

 言い淀む俺に律さんが、

「未来殿。止すでござるよ」

わぁ~~ったよ。ほむほむ隊長さん

 短くそう言ったんだけど、言い方が時代劇口調なんだけど。

 俺の表情を見ると律さんが苦笑いした。


「ああ。すまん。時代劇が好きでさ……たまに、こぅやって出ちゃうんだよね」


 少し癖と個性のあるこのメンツで、俺達は商品確保に向かうことになった。それでも必要な隊員数に達してはいない。だけど、人材不足の波。仕方がないのか、いいのか分からないまま、倉庫の門が開けられるんだ。


 ◆


 各、それぞれの倉庫前には赤いボタンの台がある。

 倉庫内に行くときは、それを押してから中へと入ってアバって、商品確保に向かう。らしい。


「中の時間と外の時間を遮断するシステムなんだ」


 おじさんが俺に説明をしてくれたんだけど。

 俺の頭には小難しいものだった。


「しゃ、だん……デスカ」


「要は某少年漫画のような精神とアレな間ってことなんだー」


 何、そんな漫画俺は読んだことはないけどメジャーなのか。

 よく分かんないものを例えで言われても。

 それこそ理解不能だよっ!


「時間はくっきり60分。その間、倉庫内で対峙した《化け物》を駆逐してぇ、商品を確保してからの《P通貨》及び《Δ硬貨コイン》の獲得でーただ、気をつけなきゃいけないのは」

「オイラがこの馬鹿に説明をしょうじゃないかぁ」


 おじさんに変わって、今度は翡翠さんが言う。

 

「倉庫内で致命傷の場合は外に出たら完全回復だけどねぇ。死亡した場合は……永遠に眠ったままに、植物人間になっちまうんだよねぇ。ネットゲーム以上の興奮と課金で、高い給料と配当が約束される。架空じゃない現実に身体を張った体力と装備勝負の職場。そんな地獄にようこそぉ~~恵比寿君w」


 正直、翡翠さんの言葉が一番、重かった。

 倉庫の仮想RPGみたいなノリは本物で、死ねば=《死》のままで一切の慈悲もないまま眠り続ける。たかだが、一つの《商品確保》をミスっただけでだ。甚大じゃない規模の《事件》じゃないか。他の仲間は、その場にいた仲間は傷ついて倒れた隊員に何を思うだろうか。被害者家族たちは何を思うだろうか。


 商品確保が命を対価に行う生業とは――どうかしている。


 ◆


 バクバク。


 バクバクバク――……


 【60:00:00】


 バッコン‼ と律さんが赤いボタンを押した


「――律ほむら隊! いざ、出陣でござる!」


「ほむほむさー~~ん。口調、口調!」

「! むっ」


 ◇◆


『はい。恵比寿君は今回の役割は《ワルツダンサー》ねぇ』


 ◆◇


 そう翡翠さんから渡されたナース愛用の懐中時計に似たもの。

 逆向きから分かる時計だ。

 ただ、これは数字がデジタル式。


 ガ。


 ガガガガ――……ッッッッ‼


 開いていく倉庫の扉。

 今回、商品確保に向かうのは《パステル46色セット》


 だから、俺たちは倉庫は《文具エリア》にいる。


「行っくよぉ。手前らぁ!」


 そう腕を宙に伸ばして翡翠さんが言う。

 

「「「おう‼」」」


 律さんと後方さん、おじさんが声を合せて宙に腕を上げた。

 よく分からない俺は、三人を翡翠さんを見ることしか出来ない。


 すると、どうだ。

 全員の身体が光って――《変態アバ化》した。

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