#20 ヒニキート実家に帰る③
「くっそたれがァ! そんな面白そうな
「お仕事なのぉう? 姉ちゃん」
「そうだよ! ちっくしょうぅうう!」
「残っっっっ念だねぇ」
俺達が盛り上がる中で。
横にいた竜子さんが顔を抑えて宙を仰いでいた。
本当に心底、悔しいとかそういうレベルじゃないものが竜子さんの周りに渦巻いていた。
「次! 次はアタシとだ! いいな! 竜二っ」
「ぁっはっはっはっ! 嫌でぇえすっ」
◆
おじさんと翡翠さんと俺は本社から《ワールドルーツ》日本支部に戻って来た。
「兄さん。お客がご希望されてる商品は、一体何なんだよっ!」
「えぇと? 待って、待ってぇ……ぇえと」
翡翠さんはファイル型デバイス片手にスライドさせていた。
何枚も、何枚も頁をめくっている。
「ぇえっと……多分、これ? だと思うなぁ」
「多分じゃダメだろうって!」
(確かにダメだよね)
おじさんは翡翠さんからデバイスを奪うと。
凄い手さばきでタップとスライドのターン。
「今から行くのはっ、《パステル46色セット》の商品回収だっっっっ‼」
おじさんは翡翠さんの胸元にデバイスを押し付けた。
翡翠さんも受け取って確認をした。
「よく分かったなぁ。ここんところは相変わらず手際もよく要領もいいし早いよ。手前は」
「誉めてんの? それ!」
「ぅんにゃ。出来て当然のことだしねぇ。誉められたかったのかなぁ、竜二君は」
「はぁあ??」
ぶるぶる、と震え出すおじさん。
さっきまでのほんわか雰囲気をもなくて、苦虫を噛んだような表情だ。
姿も万全の元の容姿。
左の長い髪には赤いリボンが揺れる。
「ぉ、おじさん。ちょっと落ち着こう? な??」
俺はおじさんの腕を掴んだ。
すると、おじさんも、
「! ぁ、あぁーそうだねーうんうん」
ようやくにこやかに笑った。
でもぎこちないとは思う。心配をする俺によりにもよって翡翠さんが意地悪く言う。
「たくまちゃんさぁ。お荷物なんかになんないでよぉ」
冷ややかな翡翠さんに俺も息を飲んだ。
「っわ、分かってますっっっっ!」
確かに、お荷物になるなんか御免だよ!
言われるまでもないよっ。
◆
通常の隊は6人体制で行くのか常識だ。
確か、あべこさんがそう言っていた気がする。
「あのー~~すいませんが。本気ですかぁ~~??」
思わず俺は手を挙げて聞いてしまう。
これが聞かずにいられるかってんだよ。
「ああ。群青がいれば部隊なんか要らないんだっつぅの。オイラや竜二の2人でちょくちょく、やらされていたこともあっしなぁ。人手不足が深刻だった時代に。まぁ、今も大差変わらねぇかぁー人手不足と人材不足なんて問題なんかはw」
「でも、ヤバかったよなぁ。あの小学生だったと――」
首を傾げて言うおじさんと俺を乗せた倉庫車の蜘蛛が奔って行く。
左右の六本の足がカタカタと鳴る。
(俺、蜘蛛ダメだから、ちょっとした拷問なんですけどォ!)
この
「てかさぁ。それでもオレ達だけっての出動って……ヤバくねぇかー? 兄さん」
「? 竜二ぃ、兄ちゃんの分かりやすく言ってもらえると嬉しいなぁ」
翡翠さんは理解が出来ない、と本気で眉間にしわを寄せていた。
「ぇえと……確か、ほら。会社の規則で《単独での行動及び隊長クラスを同行しない場合、罰則並び《P通貨》《Δ:
ぴし。
そんな音が鳴ったような気がする。
おかまいなしにおじさんは言葉を続けた。
「オレさー《Δ硬貨》が欲しいんだよ、兄さん」
俺は聞いたことのない言葉に首を捻った。
(デルタ……コイン??)
でも、翡翠さんの表情は違った。
竜子さんみたいな、生易しいほどじゃないくらいに鬼のような形相だ。
「手前はその為にっ、戻って来やがったのかァ!」
「うん」
おじさんもあっけらかんと肩を揺らして笑う。
ついには翡翠さんも、表情を無気力なものに戻った。
髪を掻きむしって、小さくぼやくのが聞こえる。
「あーもーめんどくさい。もー帰りたい、……もういい。帰ろう。うん、商品確保は他の隊に……」
「あっはっはっはっは! 兄さんが誘っておいてーそれはないよねー」
末っ子のおじさんに負けてしまったのか。
翡翠さんも、帰りたいと駄々をごね始めた。
そりゃあないだろう。
仕事放棄なんざ、もってのほかだぞ!
「あの~~それで隊長はどうするの? 人事とか、……それ以前に隊長枠の従業員の確保は、可能なんですか、ね? 今の、この状況で」
「「‼」」
俺の言葉におじさんと翡翠さんの人差し指がくっついた。
ああ、こりゃあ間違いなく兄弟だ。
何も考えていないんだ。
(どうする気なんだろう、……商品確保)
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