#17 指輪と拳
「群青の末っ子ともあろうものが! 迷子たぁ~~! っぶ!っはっはっは!」
笑うのは日本人研究者であり《
《
俺とおじさんは個室に入って蟻島さんと喋っていた。おじさんに声をかけてくれた従業員の人は。そのまま職場に行ってしまったから。誰も、この場所におじさんがいることを知らない。
「兆時さんー笑い過ぎだよーオレも傷ついちゃうんだよー?」
「ははは! ぅんなん笑うに決まってんだろぉう? じーさんや親父さんの奴にも話したい気分だぜ!」
その言葉にはおじさんの顔も強張った。
「ゃ、あのぅ、そ、そそそそ、それは、ちょっと」
しどろもどろと顔を反らして、出されていた珈琲を口にする。
「っそ、それは。あのー冗談でもー言うのはーはい。勘弁してくださいー」
そんなおじさんに兆時さんは意地悪い笑顔で聞き返すんだ。
「ま。んでぇ? 何が欲しくてこっちに来たよ? あっちにだって《
葉巻を咥えながら蟻島さんがおじさんに葉巻を渡すも。
おじさんは手を横に振った。
「んで。そいつは《P通貨》はあんの? ツケは無理だぜークレカも不可なのは、手前も承知のはずだよな、竜二君。ま。どうせ手前の《P通貨》での決算だろう? たんまりあるもんなぁ」
喜々として、淡々と言いながら葉巻を吹かした。
少し煙の臭いが気持ち悪い。
「竜二君のご希望の《
「乙女さん!? どうして??」
そこに騒々しくも喜々として来たのは。
牌さんだった。
「?? ぉ、乙女だぁ?? んなのどこに――……あァ」
そう目を丸くさせて蟻島さんがおじさんを見て頷いた。
思わず俺も本人に言ってしまう。
「牌さん。あれ? 仕事のはずじゃあ」
「あなたには関係がないですよね」
俺に言われたのが癪に触れたようで、堅い口調で言い返されてしまう。
「あっれーパインちゃん。仕事じゃねぇのー? あ! 抜けて来ちゃった?!」
おじさんが牌さんにまた、両手の人差し指を向けた。
「イケない子だねぇーもーおじさんチクっちゃうぞぉーあべこちゃんにー」
牌さんは眼鏡を指先で上げると。
「それは構わいませんが、あまり報告されるのは嫌ですね。それで? この子供に何を買ってあげるつもりなんですか? 乙女さんはっ」
牌さんの言葉におじさんも、首を傾げてへらついた。
あ、この顔は考えていないってやつか。
牌さんも、やれやれと眼鏡を指先で上げる仕種をする。
「分かりました。僕も考えてましょう。で。その後でっ……じっくりと呑みに付き合ってもらいますからね! いいですね?? 乙女さんっ」
「いいよ? オレはねー焼酎派よー」
「じゃあ、美味しい焼酎を探さないといけないな」
頬を赤く染めて満面の笑顔で言う牌さん。
よっぽど話しを聞きたいんだな。
そんで俺は装備を驕って貰った。
まずは、《約束の指輪》ってのだ。
おじさんが薬指を嵌めているのと、ほぼ同じモデルのゴールド。
それをおじさんが右の親指を嵌めた。フリーサイズだからどの指にも嵌められる逸品だ。普通じゃないところは、指の大きさによって指輪自身がサイズを変えられるところらしい。
「え? 薬指でよくない? お揃いだしさ」
俺の言葉に少し場が凍ったような感じだったけど。牌さんに至っては、眼鏡をめっちゃ上げてたけど。
何か可笑しなこと言ったのかな、俺ってば。
「うん。いいぜ? くまちゃんが、そう言うんならな」
おじさんが、俺の薬指に指輪を嵌めると。
牌さんが何でか机を殴り出したのは怖かった。
もういっそのこと用事が出来たとかで帰ってくれないかなとさえ思ってしまった。
「《守護よ。成せ》」
おじさんが指輪に口づけをした。すると赤い魔法陣が浮き上がって、花火のように大きく鳴り響いた。俺は驚いたが、おじさんは気にしていない。他の指輪を交わした人ともしたときに済ませてしまった驚きだろう。おじさんは満面の笑顔で俺に言う。
「ほら。実は俺も薬指に、お揃いのを嵌めてやったぜ」
「あれ? ほんとに嵌めたんだ」
「えぇーくまちゃん、そりゃあねぇんじゃねぇのー」
そして、次いで。
《英雄の拳》って軍手っぽいやつ。
「これでくまちゃんの攻撃力があがるよーでも、ヤリ過ぎたら筋肉痛になるからねー」
放り投げられた軍手を俺は受け取った。これが、これからの俺の相棒の
おじさんからの就職祝い。
こんなに嬉しくて頑張らなきゃって思えることなんか初めてだ!
「おじさん。有難う! 俺、仕事をいっぱい頑張るよ!」
「いや。はりきって頑張り過ぎんじゃねぇ、たくま」
「え」
俺はおじさんの顔を見た。
「オレがいる」
「うん!」
とは言ったが。頑張らさせてもらいます!
お荷物なんかになって足を引っ張ることはしたくないからさ!
(実績はやっぱり経験と知識だろうなぁ。はぁ。勉強苦手なんだよなぁ)
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