#15 ヒキニート、こっそりと買い出しに行く

 おじさんと交わしたウイスキーは苦かったけど。

 初めて飲んだ感想は――美味しかった


 ◆


「おい。おいってのーくまちゃー~~ん!」


「ぁ、ったまが……っつぅ」


 俺は頭を押さえながらおじさんについて行く。

 部屋の地下への階段から呼ばれたから、俺もゆっくりと足を進ませた。

「あー~~はいはい。待ってくれよ、おじさん」

 俺はお酒を呑んでから、おじさんに部屋から連れ出されてしまった。部屋のキリちゃんさんやおっさんを放り捨ててだ。


「い、ったい……どこに行くんだよ。それに、社内車がないと、どこにも行け――」


 目を擦りながら、俺が前を見ると。小さな何かが、行き来する空間が広がっていた。思いもしない光景に、俺の目を冴えてしまう。頭痛すらも、忘れてしまう。それほどまでに、ここは異様な空間だ。

 SF映画やファンタジー映画なんかでよく見る乗り物。

 

「わ、ワイヤーかなんか?」


「違うよーそれは社内機密なんだよねーごめんねー教えられないんだー」


 おじさんが、俺の腰を叩いて言った。

 言われた俺も、それ以上おじさんに追及出来るはずもない。

「ん。分かった」

 少し腹が立ったけど。

 今はそれでもいいやって思う。


「《骨壺ジェットアソート》て言うのーこの乗り物はw トトって愛称だぞ」


「そ、ぅでスカ」


 まだ対等じゃないんだ。俺はおじさんと経験値もLvもないもんな俺なんか、会社の情報量から格が違うんだ。


(我慢しなきゃ。我慢、ガマン――)


 でもいつか。知らないことを教えてもらえるようになるんだ。

 それまでの辛抱だ。


「じゃあ乗って! 乗っちゃって!」

「ぉ、わわわっっ! っちょ! 押さないで!」


 俺の腰を押して、蓋の空いた中に追いやっていく。中は割りと広かった。おじさんが入り終えると蓋が締まった。プシュ! と音を鳴らして。どう動くかも分からないままの俺に、何の事前報告も説明もなく。外が回転し始めて、勢いよく出発をした。

 俺とおじさんの身体に、何の重圧も負担もないまま。


「わぁーこれもきちんと動くとかーすっごー~~い!」


 にこにこと言うおじさんに。

 俺もつられて笑ってしまう。


「やっと笑ったな。くまちゃん」


「! くまちゃんじゃないしっ」

「まぁーまぁーこれからくまちゃんがおじさんと行くのは《武器専科アプリキット》だよ」

「アプリキット? 何かさぁ? 課金をしなきゃいけないような感じだね。俺、ぺーぺーだからこっちの通貨もクソもないんだけど?」

 おじさんに俺は聞き返した。

 すると。

「そうそう。課金する場所なんだよねー」

 薄いあごひげを指先でなぞった。

「俺が行っても、見るだけでも楽しいのかもしれないけど、欲しくなっちゃうもんなぁ~~んンん~~」

 俺は笑うおじさんに言った。

 買えるようになってから行きたい場所だ。まだ、その場所は俺なんんかには早いのではないかとすら思う。

「つい今日さっき、着の身着のまま追い出されたんだし」

 おじさんは俺から視線を反らして、前を見据えていた。

 そして。


「あ。通り過ぎちゃうー」


 足をぱた、と動かすとだ。急激に目まぐるしく背景が揺れた。

 だけど、中に居る俺達には何の揺れも、衝撃もなかった。

 

「すげ……」


 思わず驚きの声を上げる俺に。

「さ。着いたぞ、たくま」

 おじさんが俺の名前を呼んだ。

 間違わずにだ。


 それに、俺が驚いていたのが分かったのか。

 おじさんも苦笑したのが分かる。


「! くまちゃん。さ。行くよ」


 プッシュ! と開くとおじさんが出て行った。


 また、俺をくまちゃんって呼んだおじさんに。

 俺も、

「くまちゃんじゃないしw」

 笑いながらついて行った。


 俺もトトから出ると、衝撃に目を丸くしてしまう。

 ここは日本の山中のはずだ。

 叔父さんに半ば強引に連れ込まれたのは間違いないんだ。


 なのに。

 どうして。


「っと! どうしたのーくまちゃん~~」


 俺は咄嗟に、おじさんの腕を掴んでしまう。

 言葉も出せないほどに、俺は驚いている。


 どうしてこの場所には、異世界が広がっているんだよ。


「くまちゃん。取りあえずは進もうな? とっとと帰らないと、バレたらめたくそに叱られちまうってぇー」


 おじさんの言葉に俺も頷いて、腕をおじさんに絡めながら進むことにした。

「ここは……どこなんですか?」

 俺も短く、おじさんに聞くことにした。

 たとえ無視や、はぐらかされてもいいんだ。

 ただ、言いたかっただけだから。


「《ワールドルーツ》の本社だよー」


「ほん、っしゃ!?」

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