#11 生還のヒキニート

 【03:12:09】


 俺は軍手の甲を押して、時間を確認をした。おじさんが言う《30分》というタイムアップまで。

 残り3分ちょっととなっていた。【00:00:00】になったら来た道が閉ざされて。

 叔父さんや、親父のいる世界には――日本には、戻れないってことになる。


 《殉職者ケアチャーヂャー


 おじさんの言葉を思い出してしまった。俺の身体が、震え出してしまう。果物のキュウイ1パックなんかの為に――ここで死んでしまうのかって思った。俺が入れられたウエストポーチは、動いている様子も感じられないから。余計にどうなっているのかがさえ。俺にはよく分からない。ただ、考えるだけ無駄だとも思ったから、俺は身体を横たえた。おじさんなら大丈夫。俺っていうお荷物がなくなったんだから本来の力でやり遂げるはずだ。

 疑問もなんか色々と、次に会ったら聞くんだ。

 おじさんは一体全体と、何者なのかって!


「おじさん。本当に頼んだかんねっ!」


 もう他に言うことも、言えることもないよ。


 ◆


 キキキ――……


 鯨ヶ浜がネズミの社内車を駐車場に停めた。

 そこが二人の職場でもある――《事務室》


 ばん。


 ばばん! とドアを閉めて。堤も渋々と歩いて行く。途中で鯨ヶ浜も自動販売機に寄って、大量の飲み物を購入した。それらをバッグに放り込んでいるために、手荷物の煩わしさもない。

「20年って本当に長いブランクだよねェ」

「そんなこと。群青の末っ子も承知の上でしょう」


「《聖獣》の発動は出来るだろうけど。問題なのは一番、必要なアレじゃない?」


 群青竜二には群青家から受け継いだ《聖獣》

 それ以外の能力があった。


 二つ名を――《重王》


 群青家で、彼しか使えない能力ものだ。


「人間はやる気になれば何とかなるもんでしょう。堤班長さん


 鯨ヶ浜が堤の肩を殴る。さらには彼の背中を押しながら事務室へと押し込んでいく。堤も、抵抗することなく諦め半分に従っていた。したいようにさせてしまう。


「さ。社蓄らしく働きましょうね、堤室長」


 そんなときだった。

 丁度いいタイミングで、内線が鳴り響いた。


「あら。内線だねェ、キリちゃあんw」


 背中を押す鯨ヶ浜へと視線を向けて。へらっと笑って指を示す堤に舌打ちをすると電話へと足早に向かい受話器を勢いよく受け取り怒鳴り声に近い声で応えた。

「鯨ヶ浜室長補佐だがっ」

 思いもしない苛立ちに口を開いてしまったのだが。

「はい、そうですか。堤室長にも聞かせたいので、もう一度」とボタンを押して、堤にも聞こえるようにスピーカーにした。


 ――……アベコ=キミジマの隊において大量の《強制退場リストラ》が行われた模様です。


「「――……」」


 鯨ヶ浜と堤が見合った。堤はほくそくみ、煙草を灰皿へと押し消した。そして肩にかかった髪を、頭部で一つにまとめ、目を細めて身体を翻すとコートかけから黒い服を掴み取った。

 一方の鯨ヶ浜も、

「初日からかよ! 群青の末っ子の野郎は‼」

 歯を剥き出しに獰猛な表情へと変わった。

 そして、彼も頭部にまとめていた髪をくるんとお団子にした。

「あ! 全くっ、あんたってひ――」と一緒に行こうとした鯨ヶ浜にくるりんとほくそくむ。

「過保護なんじゃないの? 室長補佐の方は、残って仕事をして頂戴よ」

 堤が笑いを押し殺した声で鯨ヶ浜に言うと、言われた鯨ヶ浜も唇を吐き出した。

「嫌味ですか? 全く、大人げないったらないっ」

「癪に障ったったかな? ごめんねェ?」

「本当に最低だ。あんたって奴はっっ」

 吐き捨てる様子に鯨ヶ浜に、

「そんなところに魅力を感じるでしょう? キリちゃん」

 堤が肩を殴った。


「んな言い合いするつもりはないですよ。今は――」


 殴り返すこともなく背中を向ける鯨ヶ浜に。堤は肩を竦めて、深いため息を吐いて、髪を掻きむしった。


「本当に参っちゃうよねェ。本当に」


「そればっかりじゃないですか。あんた」


 ◆


「わっ!」


 気がついたら目の前に地面があって、避けることなんか出来る訳もなく、俺は顔面から挨拶をしてしまった。

「っづぅうう‼」

 あまりの痛さに俺は顔を抑えた。指の隙間から見える場所は。一番最初の始まりの廊下だ。同時に、俺はおじさんを探しに顔を上げた瞬間、俺の頭が何かとぶつかった。


「ぉ、おじさん!」


 ガッチン! と激痛と倒れれたのは杵塚さんだった。

 当たったのは杵塚さんの顎だったようだ。


「ってぇー~~急に起きるなよなァ」


 顎を抑える目を細めて俺を見上げた。

 そして。


「自分のおじさんはあっち! あべこさんにどやされてるっスよ」


 廊下を囲う姿が、一方的に言う声が聞えた。

 俺は慌てて駆けた。


(助けてくれたのに! 助けられた方じゃねぇかよ! あんた達は!)

「っちょっと! おじさんを苛めないでくれっ‼」


 囲う従業員を割って中に入ると。

 俺は目を伺った。


「伝説の《獣王》なら早く言ってくんないかなぁ?? というか、とっとと《変態アバ》りなさいよっっっ! アタシを試したの?!」

「オレにだってっ、その、ブランクが」

 君島さんが顔を真っ赤にさせているし。

「てか、無理じゃないですかー? 乙女さんにはブランクもあった訳ですし」

 本間さんが呆れた顔つきで肩を竦めてるし。

「あぅうう~~ポイント-欲しかったですぅ~~あぅ~~」

 船橋さんも、よく分かんないことを言って肩を落としているし。


「今回のPは貰えていなんだよねぇ。ほら、オレ達は入ったばっかのほっかほっかな《新人ペーぺー》だからさぁーちょっとー残念だったかな? あははは!」

 

 廊下に腰を据えるおじさんが笑いながら。残念といった声を漏らしているんだけど、また、俺は目を疑う光景に見舞われた。だって、本当におかしいんだもん。


「ぉ、おじさん。その、姿は――」


 おじさんの姿がおじさんではなくなっていた。中学生にような体格で、《作業着バックアップ》に着られているかのように、ぶかぶかで、だらしなくなっていた。


「ん? ああ! たくまー間に合ったぞぉうw」


 両手の人差し指を俺に差した。

 それに俺も苛立った。


「たくまじゃないよ! くまちゃんだよっ!」

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