#6 絶対絶望の倉庫内部

「なん、何なんだよ。これッ!」


「ぅんー~~巨大な手だねー」


 視たこともないものに驚いている俺にさ。

 にこやかに俺でも分かることを言う。だから、俺もおじさんに言い返してしまうのは、至って普通の当たり前の事案だろう。


「っそ、そこじゃねぇよっ!」


 苛立って言い返す俺に、おじさんは飄々と笑いながら受け答えをするんだ。余裕をかます態度が余計に、癪に触れてしまうのは、誰だって同じだろうが。


「そうだねーくまちゃん」

「くまちゃんじゃない! てか、化け物はどうすんの??」

 

 俺と同じでおかし異常な状況に陥ってしまったはずのおじさんなのに、年季の差なのか慌てる様子も、全くないから――恐ろしいとも思った。目も口端も、至って普通過ぎる。


「くまちゃん。ここでの倉庫の商品確保には退治も仕事の内、なんだよ」


 おじさんが両手の人差し指を俺へと差した。


「はぁ?? っな、なんだよ。それぇ」

「まぁーまぁー取りあえず。先輩従業員を見届けましょう」

「ぁ、うん……」


 視線を掴まった船橋さんへと向けた。腕の先をゆっくりと俺は見上げてみたんだ。

 するとどうだよ、信じられねぇよ!


「?! な、ない‼ っか、身体がっっ‼」


 薄暗い空間に浮かび上がって、船橋さんを掴む腕だけの存在だったから。


「『ぃ、ったぁあああぃいいッッ‼』」


「『もえるッッ‼』」


 あべこさんが飛び上がって剣を振りかざした。

 

 斬ッッ!


 斬斬ッッ‼


 斬られた箇所からは緑色の血が噴出する。だくだくと床へと零れ出していた。硫黄のような、糞のような臭さに鼻を摘まんだ。


「おおう! すっげー~~‼」


 あべこさんの攻撃に、俺も拳を強く握り締めた。

 

「すっげぇ~~‼」


 俺も喜々としてあべこさんの攻撃に、荒く息巻いていた。なのに、横にいるおじさんはどうだよ。しかめっ面に、口をへの字にさせているじゃないか。何がダメだってんだ。最高の戦いじゃあねえかって!


「何? おじさんはなんか気に入らないのかよ? あべこさんの激熱展開で圧勝確定演出じゃんか!」

「うん。だと、いいねー」


 腕を組みながら俺と同じものを見上げるおじさんの顔は険しいもので、重々しい空気を放っていて、横にいる俺も、心臓がバクバクだよ。嫌な予感なんか感じたくもない。勝てるっていう安心して見られる観客側でいたいのに。肌がざわつく。心臓の音が煩いってもんじゃない。汗も噴き出てしまう。

 握る拳にも汗が浮かんで気持ちが悪いったらない。

 言いたい言葉も言えなくなりそうで口に出来ない。


「『っく! 何よッッ‼ これは‼』」


「『あべこ隊長さん。参戦してもいいのかしら?』」

「『エイジ! いちいち確認する必要なんかない! 許可する!』」

「『あっざっまぁああすぅうう!』」


 口の悪いエルフの格好をした杵塚さんが。

 矢を一本放った。


「一本?! そんなんじゃあ足りないでしょう‼」


 俺は矢の攻撃に声を出してしまう。

 だが、次の瞬間。


 一本の矢が。

 枝分かれをしていくと。


 数百もの矢へと変貌を遂げた。


「『おいらの矢で一網打尽だかんね‼』」


 そして、幾千と数の成した矢はまたしても。

 一本の、巨大な光りの矢へと変わった。


「『エイジちゃん? 人質のことをお忘れでないですかっと!』」


 スライム状の本間さんが大きく身体を伸ばしに伸ばして。

 船橋さんを包み込もうとしたが。


「『のァっっ‼ 本当になんなんだよ! この化け物はッッ‼』」


 【18:09:38】


 船橋さんに纏えなかった本間さんの顔が、苦渋交じりに変わった。

「『くっそたれがッッ‼』」

 次いで、歯を剥き出しに吠えていた。


「『しょうがいないですね。一丁、やってみましょかッッ‼』」


 牌さんの兎が見る見ると大きくなっていくと。

 杵塚さんの放った矢を上へと弾き飛ばした。


「『っちょ! 牌っくぅー~~んッッ?!』」


 思いもしない牌さんの行動に杵塚さんも肩を落としてしまう。でも、それはそれでやった方がよかったんじゃないのかな。当たっていたりしたら。船橋さんは死んでいただろうし。


「待ってくれよ――てか。全員の人、太刀打ちが出来てない、じゃんか」


 俺は呆気に取られた言葉を漏らした。

 今いる隊で、手だけの化け物には、


「勝てない、……死んじゃうっ!」


 口にしてはいけない言葉が俺自身も惚けていて出てしまった。

 横にいるおじさんは何を思っているだろうか。


 誰か。


 助けて!


「死なないよ。くまちゃんも、みんなもね」


「ぉ、じさん?」

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