#5 恐れていた危機

 【28:01:48】


「『はわわー~~大幅に遅れているのです! あべこ隊長ちゃん!』」


 猿の姿をしているのは、確か。

「『そんなに言われなくたって分かってる! もえる!』」

 そうだ、船橋萌るさんだ。第一印象からほんわかしていて可愛かったのを、俺は覚えていた。


 ◇◆


『!? 堤班長さん? こんなところでどうかしたんですか??』


 おっさんの姿を見た誰もが、身体を硬直させていた。そんなに、そんななのかよ。おっさんは。本当に、肩書きの強い男なんだな、と俺はびっくりだし、人は見かけによらないのなとも思った。


『あァ~~元気かい。社蓄の諸君、おはようさん』


 手をひらひらとさせると、全員が会釈をして扉へと入って行った。


『その人達は新しい人材ですか? 和井隊長さんの代わりですか?』

『あべこ君は察しがいいなぁ。うん、そう。取りあえず、今回の予備スペアねェ』


『正直に言わせて頂きますが。使えなさそうですね』


 あべこさんって言われた女の人は目が鋭くて。少し怖くて、俺の身体も硬直してしまった。言われてしまったおじさんは、にこやかに微笑みながらあべこさんに言い返した。


『それをどうにかするのがー君の仕事じゃなーい、の?』


 両人差し指をあべこさんへ差せる勇気に、あんたは無敵だと分かった。どうして、そんなに堂々と話せるのか。なんか俺との設定スキルが違うような感じだ。あべこさんは無表情のまま、口をへの字にさせて。ばっちん! とおじさんの指をあべこさんも手で強く弾いた。


『った! 暴力反対だよー』


『手を出したのが君島あべこちゃんね。今、指を弾かれたのがぁ~~ぇ、っと――』

『群青竜二だよぉ』


 おじさんの名前を忘れたおっさんに俺も言うんだ。

 本当におじさんには眼中はないようだ。

 それはそれで、あり得ないと舌打ちをした。


『そうそう。群青竜二君で《乙女》ってあだ名でね、名前を教えてくれたのは、恵比寿たくま君ね』


『ぉ、っとめ?! っちょ!』


 そこから。

 垂れ目で髪を後ろに束ねた杵塚エイジさん。

 つり目で眠そうで左右を短く刈り上げた本間たけるさん。

 大きな目で長い髪を三つ編みに前に垂らす船橋萌るさん。


 切れ長な目に緑と、黄色と鮮やかな髪を、鶏冠状に固めている牌文明さん。


 社員の名前を、簡単に教えてもらった早々に。

 おっさんに背中を押されてしまう。力強いし、抵抗も出来ないまんま。


『じゃあ。あべこ隊長ちゃん、商品の方よろしくね。新人さんの生存もね』


『お荷物になったら置いてきてもいいですか? 新人これ


 ◆◇


 ガン! と赤いボタンをあべこさんが押して入ると。

 状況下で、あろうことか皆さん。


(誰が誰だか! 分かんないっっ‼)


 人間の姿だったのに、エルフに、銀の鎧の騎士や、兎にスライムや、猿とかになっている。様々な様子に、どこから何を聞けばいいのか、言えばいいのかと、訳が分からなかった。


(いや。確か騎士があべこさんで…猿が萌るさんで)


 俺は頭がこんがらって、頭を抱え込んでいるとおじさんが俺の肩に手を置いて、優しく揉みやがった、案外と気持ちいい力加減に息も出てしまう。


「リラックスーリラックスだよーくまちゃん」


「俺はあんたと違って頭が堅いだよ!」

 軽々しくも簡単に言い放つおじさんに俺はムカ腹だ。怒って言い返す俺におじさんも首を傾げて苦笑を向けて来る始末だ。

「若いのにねぇ。でもーそれがくまちゃんの可愛いとこだよなー」

 可愛いおじさんに俺は可愛いと言われてしまった。

 なんてことだ。ちょっとショックだ。俺は可愛くなくていい!

「ちっとも嬉しくなんかないし! 乙女なあんたに言われたくないね! 二度といわないでね! 言ったら、くまちゃんて呼んでも、もう、返事なんかしないかんね!」


「ぉ、と――ぉおう……っは、はははー参ったなぁー」


 頭を掻きながらはにかみながら、

「……何をどうするかは知らないけどよー隊長さん? 時間は大丈夫そうなのか?」

 おじさんは強い口調で聞いた。


 【21:02:51】


「『もうすぐそこよ! 乙女の分際で! 牛男、そいつの口を閉じさせなさい!』」


 あべこさんの剣幕に、

「ぇええっ! 無茶ぶりすんのやめてください! おじさんはいつもこういう感じなんです! 人のいうことも聞かないような乙女な人なんですから!」

 俺も怯みながらおじさんを見た。

 なのに、おじさんはあべこさんの背中を超え。

 視線は前を見据えていた。


(おじさん?)


 俺はおじさんの横顔を見てる。

 おじさんの視線に誰も気づく様子もなかった。俺だけが気づいたに違いないと思った。声をかける雰囲気でもない、視線もおじさんから離すことも出来ない。


「『着きました! 商品棚なのです! 早く確保を――ぅあっっ』」


 猿のもえるさんが飛び跳ねていると。

 その身体を掴み上げる手があった。

 明らかに化け物の手が獲物だ、とばかりに萌るさんを捕獲したんだ。


「『萌る――ッッ‼』」


 あべこさんが悲痛な声を上げた。

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