Track.4 ヘンタイ彼女、暴走する。

「おはようございます、先輩」


「体調はどうですか?」


「へえ、それはよかったです」


「先輩、私は先輩を許しません」


「どうして? そんなの決まってるじゃないですか」


「先輩には私じゃない大切な人がいるからですよ」


「おかしいなと思ってたんです。サイズの合わないTシャツ、かわいらしい食器」


「そして、これです」


「このアクセサリー、どうしたんですか?」


「すいません。洗濯ものを干してたら、見つけちゃって」


「物色してません。ただあまりに整頓されたスペースがあったので覗きました」


「ほっぺに手を伸ばさないでください。もちもちしないでください」


「私は怒ってるので」


「先輩。もし、このアクセサリーが箱に入ってたら、私は浮かれてたかもしれません」


「私のためのプレゼントかなって」


「でも、開封済みでした」


「誰かが忘れていったんじゃないですか?」


「私の知らない誰かが」


「言い訳なんて聞きたくありません」


「だから、先輩。私はあなたを許さない」


「聞きたくないです。聞かせないでください」


「これ以上、私を煽らないでください」


「先輩――」


//SE ベッドがきしむ音


「何って、ベッドに上がっただけですよ」


「私、悪い子なんで」


「先輩に大切な人がいても、私は先輩と別れるつもりなんてありませんからね」


「本当は先輩の気持ちを尊重するべきなんでしょうけど」


「あーあ、さっき私あれだけいいこと言ったのに。先輩と一緒に笑って泣いて、歩いていきたいって」


「でも、私結局わがままなダメな子ですね」


「ねえ、先輩。この気持ちはヤキモチなんてかわいいものじゃありませんよ」


「私、先輩を無理やりにでも手に入れます」


「ほら、こうして――」


//SE ベッドがきしむ音

//演技依頼 耳元で囁く


「何するか、わかりますよね」


「さあ、先輩の服を脱がせていきましょうか?」


「ふふ、何ですかその顔。怖いですか?」


「そんな先輩も可愛いです」


「さあ、先輩、はじめましょうか」


//SE ベッドがきしむ音

//SE 服がこすれる音

//演技依頼 耳元から離れる


「わっ!? え、あ、先輩!?」


「な、なんで抱きしめるんですか!」


「私が何しようとしてるかわかってるんですか!?」


「そ、そんなぎゅっとしないでください。わ、わりと息が、息が苦しいです!」


「先輩……なんで……。私、無理矢理先輩のこと……」


「いやいや、むしろおっけーなんて言わないでくださいよ。状況分かってるんですか」


「な、何笑ってるんです!? 私は、私は!」


「ペンダント、ですか? はい、こちらに」


「大切な人が着けてたものでしょう?」


「首を横に振ってもダメです」


「や、やめてください。私に着けようとしないでください!」


「人のものなんて嫌です!」


「何が違うんですか」


「私のためだったらどうして箱に入ってないんですか!?」


「ん?」


「あ、もう一回言ってもらえます?」


「シミュレーションですか」


「おうちデートした時にどうやったらスマートにかっこよく私にペンダントを渡せるか」


「なるほど?」


「目を閉じて。すこしだけじっとして。もういいよ。ほら、似合ってる」


「みたいなことをやりたかったんですか? その練習をしてたってことですか?」


「そこのペットボトルに向かって」


「あ、いえいえ、引いてませんよ。引いてないです」


「じゃあ、服と食器は?」


「私のための服も食器も揃えるって……」


「先輩、どれだけ私とおうちデートしたかったんですか!?」


「なんですか、それ」


「はっ、わ、私気づいたんですが……」


「先輩も大概ヘンタイなのでは!?」


「ぎゃー! デコピンやだー!」


「先輩、その、信じていいですよね?」


「それだけ顔真っ赤にして、泣きそうな表情で顔おおって恥ずかしがってる先輩を疑うのもどうかと思いますけど」


「信じ、ますよ?」


「信じますからね……!」


「う、あ……な、泣いてないです!」


「泣いてなんか……泣いてますー!」


「だってだって、先輩が起きるまで私がどれだけもんもんしたと思ってるんですかー!」


「先輩のこと大好きなのに、すっごく黒いのが胸に広がって」


「怖かった。自分ってこんな人間なんだなって……」


「ごめんなさい」


「こんな私でもいいですか?」


「もう、そんな笑顔見せないでくださいよ。さっきまであんなに悩んでたのに黒いの全部飛んでいっちゃいました」


「先輩には勝てません……」


「ん?」


「え、それって……」


「わ、わかりました。目、閉じればいいんですよね」


「ん、先輩くすぐったいです」


「もう、練習の成果を見せてください。確かにペンダントって着けるのコツがいりますが」


「もう、いいですか?」


「じゃあ、目、開けますよ」


「……そ、その。どうでしょう?」


「ありがとうございます」


「はい。とっても素敵です」


「ピンク色、いいなぁ……」


「自分では選ばない色です」


「え、先輩の中の私のイメージってこんな感じなんですか!?」


「か、かわいすぎませんかね?」


「な!? 確かに頭の中はピンク色かもしれませんがー!」


「よしよししないでください。髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃいますから――」


「あの、先輩、怒らないんですか?」


「だって、私先輩にひどいこと言ったし……」


「その、あの……えっちなことをしようと……」


「うわあああ! 私はえっちな悪い子です!」


「怒られる覚悟はできております……。どうぞお叱りください」


「それもまたご褒美です」


「ウソです、ごめんなさい。先輩に怒られるのはちょっと辛いでしゅ……」


「ええー。先輩、心が広すぎますよー」


「いやいや、スポーツドリンクぐらい言ってくれたら取ります」


「そんな罰、罰じゃないですからね、もう」


「体温計だって言われなくても取りますー。もうもうもう」


「はい、計ってください」


//SE 体温計の音


「あ、熱下がってる!」


「良かったー」


「ダメですー、まだ安静にしてください」


「まあ、それくらいだったら……。ただし、靴下をはいて上着を着ること!」


「寝起きは冷えますからね」


「分かりました。じゃあ、お隣失礼いたします」


//SE 服がこすれる音


「ふふ、あったかい」


//演技依頼 耳元で囁く


「たくさんいちゃいちゃさせてくださいね」


//演技依頼 耳元から離れる

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