Track.3 ヘンタイ彼女、寝かしつける。

「ごちそうさまでした」


「わぁ、ありがとうございます! おいしかったなら何よりです!」


「あ、先輩。お薬飲まないとですよ」


「何錠ですか? えーっと、成人は……」


「う、そうですよね。自分でできますよね」


「すいません……」


「だってだって、心配なんですもん。先輩に早くよくなって欲しいですもん」


「もんもんもん」


「もぅ、またよしよしするー」


「先輩?」


「いや、なんていうかしゃべり方がふにゃふにゃで可愛らしいというか」


「もしかして、おねむですか?」


「先輩、眠いとふわふわになっちゃう人なんですね……」


「か、可愛い! なんだこの可愛さは!」


「私をドキドキさせて心臓を握りつぶすつもりですか!?」


「はぁ……なんかポメラニアンとか、にゃんことかそういう可愛さ」


「吸っていいですか?」


「お腹をふんふんしてすんすんします!」


「駄目ですか。むー」


「あ、先輩。ここで寝ちゃダメです。風邪こじらせちゃいますよ」


「あー、ゴロンしないでください」


「はい、おっき。おっきです」


「仕方ないですね。私の筋力を見せつける時が来ましたか」


「いえ、全然。ぷにぷにです」


「ですが、先輩をベッドまで運ぶなんて余裕です。愛の力ですよ!」


「行くぞー! ふんッ!」


「ぐぬぬ……!」


「だ、駄目だ……。こんなにも先輩が好きなのに、なんでッ!」


「いや、ぷにぷにだから仕方ないんですけど」


「せんぱいせんぱーい! やっぱり自力で起きてくださいー!」


「おっきしてくださーい! 手は貸しますからー!」


「はい。じゃあおててをつないでー」


「よいしょー!」


「上手にできましたね」


「赤ちゃん扱いなんてしてませんよ」


「待って、そういうプレイがお好みですか?」


「調べます。勉強します。実行します」


「あ、違う?」


「えっと、とりあえずベッドに行きましょう。歩けますか?」


「良かった」


「はいはい、こっちですよー。もうちょっと、もうちょっとです」


「ファイトです、先輩!」


「はい、ベッドとうちゃーく」


//SE ベッドがきしむ音


「ああ、こら! 掛け布団の上に寝ころんじゃダメですー!」


「んーんー!」


「ちょっと身体浮かせてください!」


「掛け布団抜き取りますから。テーブルクロスを引き抜くように!」


//SE 布団がこすれる音


「んー、ぱっ!」


「あ、抜けた! 大成功!」


//SE 布団をかける音


「よいしょっと。これで、よしっ」


「先輩はちゃーんと寝てください」


「今さらですけど……私、来なかった方が良かったですかね」


「だって、うるさいし……」


「うぅ……先輩やさしい……」


「え、お願いですか。なんなりと」


「はい! もちろんです!」


「私はここにいますよ。帰ったりしません」


「え、あ、わかりました」


「私は先輩が寝ている間に、寝顔写真を撮りません。すんすんもしません。部屋の中をごそごそしたりもしません」


「うう……。こんな心配をさせてしまうなんで、恋人失格ですね……」


「反省しましゅ……」


「先輩?」


「むしろってなんですか? なんでそんなこと言うんですか?」


「先輩は私の自慢の恋人ですよ」


「釣り合わないだなんて」


「むぅ」


「そうですね。でも、確かにちょーっと気になることはありますね」


「先輩が自分の魅力に気づいていないことです」


「先輩は頑張り屋さんで、気遣いもできて、優しくて……」


「とっても素敵な人です」


「だから、そんなこと言わないで」


「私は誰よりも先輩が好きですよ」


「ええ、本当です。何にも代えることができない大切な人です」


「ウソなんてついてないですよ」


「ウソつくんだったらもっと可愛い女の子演じてます。ええ、本当に。こんなヘンタイじゃなく」


「え、私は」


「そのヘンタイであることに申し訳なさは感じてますけど、でも、こんな自分も好きですよ」


「だって、先輩が私のこと好きって言ってくれるから」


「ありのままの私でいいって先輩が教えてくれたんですよ?」


「だから、先輩がもっとかっこよくならなきゃとか、もっとすごくならなきゃなんて思わなくていいんです」


「というか、もうすでに百点満点中千点でかっこいいですし、すごいところなんてあげたらきりがないですよ」


「でもね、先輩。私は先輩の弱いところも見たいです」


「悲しい時はしょんぼりしてください。泣きたいときは泣いてください」


「私の前ではそうあってくれたら嬉しいです」


「ねえ、先輩。私、先輩といちゃいちゃしたいだけじゃないんですよ?」


「辛い時は支え合いたい」


「苦しい時はともにありたい」


「幸せな時は分かち合いたい」


「笑って泣いて一緒に生きていきたいんです」


「ちょっと重いですかね?」


「へへっ、よかった」


「先輩。私は先輩のことが好きです」


「でもそれは恋だけじゃなくて、人としても大好きなんです」


「私は先輩を見てます」


「だーいじょうぶ。先輩は先輩のままでとても魅力的なんです」


「だから、自分はダメだなんて言わないでくださいね? 後輩ちゃんとの約束です」


「指切りげんまんですよ? ウソついたら、すんすんすんすんすんすんすんすんしますからね?」


「いや、そんなに怖がらないでくださいよ!」


「すいません、おやすみの邪魔をして」


「そろそろ寝ますか?」


「わかりました」


「とーんとん。よしよし」


「先輩、いっぱい頑張ったんですね。だから、疲れちゃったんですよね」


「ゆっくり休んでください」


「とーんとん」


「とーんとん」


「大丈夫です。私はここにいます」


「とーんとん」


「素敵な夢を見られますように」


「おやすみなさい、先輩」

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