Track.2 ヘンタイ彼女、料理する。

「先輩、何食べたいですか?」


「そうですか! では卵雑炊にします!」


「だって、買ってきたの卵雑炊の材料ですもーん」


「それに、先輩の家の台所でそんな凝った料理は出来ません!」


「もぅ、また作ってきてあげるので、今は我慢してください」


「ああ、大丈夫ですよ。ご飯もレトルト買ってきましたから」


「だって、ご飯炊いてる間にお腹すいちゃうじゃないですかー」


「ふふぅ、私は賢いのです! 褒めて褒めて!」


「へへぇ、照れちゃいますー。先輩は褒め上手ですね!」


「さて、先輩。ボールとか、持ってますか?」


「ふむふむ。では、深めのお皿を使いましょう」


「あ、先輩はゆっくりしててください。私がしますので」


「もう、先輩はこんな時でも後輩思いなんですから」


「はっ……!それともまさか、えっちぃ本隠してたりするんですか? 食器棚に! えっちぃ本を!」


「見せてください! 今後の参考にします!」


「そっか、入っていないんですね……。残念です」


「確かに食器棚だとせっかくのむふふな本が濡れちゃいますよね! 参考になりました。さすがです、先輩」


「え、嬉しくない? はぁ、そうですか……」


「器取りますね」


//SE 食器棚を触る音


「先輩、案外食器たくさん持ってますね。しかも、かわいい……」


「何焦ってるんですか?」


「かわいい食器いいじゃないですか!」


「意外ですが、そんな先輩も大好きですよ! ギャップが素敵すぎてぺろぺろしたいです!」


「あ、はい。自重します」


「お鍋はこれを使わせてもらいますねー」


//SE 鞄から物を取り出す音


「で、白だしと醤油も持ってきたから……。あとはこのとっておきを……」


「え、あ、これはですねー」


「とっておきです!」


「毒なんかじゃないですよ! ちょっととっておきなだけで!」


「その、あれです! カメです!」


「私、嘘ついてないもーん! カメはカメだもーん」


「ぎゃー! ほっぺもちもちするなー!」


「むにゅぅぅ」


「わかりましたー! 言いますよー!」


「すっぽんです! すっぽんを粉状にした健康食品です!」


「ほらー、カメじゃないですか! 私嘘つきじゃないですー」


「はい、すっぽんは元気が出るんです! ちょっとえっちな!」


「そうです。ちょっとえっちな元気が出ます」


「後ろの効能読みましょうか?」


「え、正座?」


「は、はい」


//SE 正座をする間に服がこすれる音


「はい。私はうら若き乙女です……」


「ここは先輩のおうちです……」


「はい」


「はい」


「ハンセイシマシタ」


「ぎゃあ! またほっぺもちもち!」


「先輩のももちもちしてやるー!」


「もちもちさせてくださいよー!」


「ケチだー!」


//SE 腹の鳴る音


「あ、先輩またお腹鳴りましたね」


「そうですね。無為な争いはやめましょう」


「ってことで先輩。すっぽんパウダー返してください」


「結構高かったんですよー! 先輩のけーちけーち!」


「もう!」


「仕方ないので料理に移ります」


「今さらですが、先輩は寝てきてください」


「先輩にできることは休むことです! お手伝いはいりません!」


「むぅ……じゃあ、お箸の準備を」


「大切な使命ですよ。お願いします」


「さて。ポットでお湯沸かしてー」


「ご飯はもうちょっと後にしようかな。冷めちゃうと嫌だし」


「で、これはこう」


「あ、そっか。コンロひとつしかないから――」


「うーん? そうですか?」


「まあ、確かに料理は慣れてますが」


「ふふ、先輩のそういうところ好きですよ」


「そう、私何でもできるほど天才じゃないんです。自分で言うのもなんですが、頑張ってきたんです」


「それを先輩はちゃーんと見てくれた。完璧を装っていた私の化けの皮をはがしちゃったんです」


「それがどれほど嬉しかったか」


「そしたら、私先輩がどんどん好きになって、気持ちが抑えきれなくなって、なんかにおい嗅ぎたいな、すんすんしたいな、ぺろぺろしたいなってなって……」


「どうしてこうなった」


「いえ、私も分からないんです。私ってこんな人間だったのか、こんなヘンタイだったのかと一時は本気で悩みました」


「ええ、悩んだんです」


「でも、先輩の前では偽りたくなかった」


「だから、先輩の前ではオープンヘンタイになろうと決めたのです!」


「ふふぅ。これはみんなが知らない先輩だけのプレミアな後輩ちゃんですよ」


//演技依頼 耳元で囁く


「先輩、プレミア特典です。私、先輩にだったら何でも教えてあげます」


「寝る前に何をしてるか。どんなシャンプーを使っているか。今日着てる下着のことまで」


//演技依頼 耳元から離れる


「体重は教えません! 先輩のバーカ!」


「あ、そろそろお湯湧きそうですね。お料理再開です」


「え、なんですか! この後輩ちゃんの何が知りたいんですか!」


「えー。看病のお礼なんていりませんよ。私がしたくてしてるだけですから」


「でも、そうですね……。先輩の寝顔写真が――」


「拒否早すぎますー!」


「じゃあ、じゃあ。その……」


「風邪治ったら、デートしてください……」


「なんで笑うんですかー!」


「ヘンタイだけど乙女なんです、私も! これでも一応!」


「もうもう!」


「そんな先輩にはカット野菜山盛りだー! うさぎのようにもっしゃもっしゃ食べてください!」


「卵雑炊はお預けです!」


「そんな悲しそうな顔しないでくださいよ。もうちょっとでできますから!」


「じゃあ、食器の用意しましょうか」


「ふふ、なんだか同棲カップルみたいですね」


「先輩、もうちょっと動揺してくれてもいいじゃないですか」


「ドキッとしませんでした?」


「え。そんな、私自分で言ったんですよ」


「顔真っ赤なんてそんなわけ……そんなわけ……」


「あ、ちょっと料理に専念します。失礼します」


「うぅ、先輩のばーか」

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