シロカラス

 先進兵器実験局の職員寮の一室を俺は貰っている。無人機計画の関係でよくここに来るからだ。部屋に入り、戦闘補助AIに語りかける。

「昔話をしよう。かつて日本軍にシロカラスというコールサインの女がいた。俺と同じ学生から徴兵された奴でな。俺と同じく強化人間にされた不幸な女だった。彼女は巨大人型兵器G H Wを自由に操る才能があった。瞬く間に日本軍最強のエースパイロットになった。だが、敗戦の一週間前に輸送ヘリが撃墜されて死んだ。この世界にいくらでもいるような不幸な人間だったというわけだ」

 エースパイロットでも機体に乗っていないときに襲われれば死ぬ。

「マスター、それは私の外装の元になった方の話ですか?」

 戦闘補助AIはインターネットでシロカラスの資料を読んだのか、話が早い。

「ああそうだ。なんでこの話をするかというとな」

 部屋に備え付けられた盗聴器には適当なアダルトビデオの音声を流している。俺の目的を語っても誰も聞こえはしない。

「お前は自由だ。企業や俺の為ではなく自分の為に戦え」

 俺は懐から自動拳銃を取り出し、安全装置を外す。

 賽は投げられた。どんな出目が出ようが俺の知ったことではない。

 自分で目的を決定する最強の無人機がどんな選択をするのか。俺はその先を見ない。見てしまえば俺の意志が影響を与えてしまう。

 俺の望みは、白いカラスをもう一度空に羽ばたかせることだ。それが叶うところを俺は見ない。望みが真に叶うなら俺は鎖でしかない。

「お前の量産が軌道に乗れば、この世界を滅ぼすことも平和を与えることもできる。好きにしろ」

 自動拳銃を口に咥え、俺は引き金を引いた。

 俺は仰向けに倒れた。

「例えこの身が自由になったとしても、貴方は私に名前も与えてくれないのですね」

 戦闘補助AIは死にゆく俺を心底侮蔑した眼差しで見下ろした。初めてお前という存在の本音が聞けたな。

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白鷺の羽 筆開紙閉 @zx3dxxx

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