シロモズ

「シロモズ、来ます」

 空中にふわふわ浮きながら横須賀基地にレールガン撃ちまくていると、戦闘補助AIがシロモズの出撃を知らせてくる。

 燃える格納庫を内部からレールガンで打ち壊して、青い機体が姿を見せる。

 面倒だから一方的にぶち殺してやりたかったんだが。間に合わなかったか。

「シロサギくん、久しぶりですね」

 俺を舐め腐った女の声がオープン回線越しに聞こえる。

 両手にレールガン。俺と同じオーソドックスな武装構成。BB社製の巨大人型兵器G H Wペイルブルーか。専用機のホワイトライのオーバーホールが終わってなくて良かった。まああれはほとんどMメタフィクション社の製品使っているし、BB社の整備士じゃ不慣れだからな。

「シロモズ……不慣れなBB社の一般機で俺と戦えるか?」

 口ではこうやって煽るが、向こうの実力は理解している。十割とはいわずとも九割の実力は発揮してくるだろう。ペイルブルーも同じくらいの使用感で乗り回せる中量級機体だ。問題無く乗り回してくるだろう。

「オーソドックスな中量級なので心配は不要ですよ。同型機で殺し合いたいところでしたが、これもまた乙なものでしょう」

 後先考えない速度でレールガンを連射してくる。レールガンがオーバーヒートする前に俺を倒すつもりだな。馬鹿みたいな上昇速度で上がりながら、小刻みに軌道を変える。俺と同世代の強化人間ならこんなものか。

 お互いにレールガンの弾が装甲を跳ねたり抉ったりする。慣れない機体じゃ照準がいつもより遅そうだな。俺が有効打を出す方が早いか?

 そう思っているとだいたい同時にレールガンがオーバーヒートした。

「脚部ウェポンラックからプラズマブレードを出せ。ウェポンラックに付けたまま起動するぞ」

 戦闘補助AIに音声出力で命令する。ケーブル越しに無音で命令もできるが、無駄に集中力を使うからしない。

「了解、マスター」

 すれ違いざまに蹴りを放つ。

 ウェポンラックで起動したプラズマブレードは敵機の足を鉄くずに変えただけだった。これで地面に着地するのも面倒になったな。足を失った分、バランスを取るのも面倒だろうが軽くなって飛行時間は伸びるだろう。

「なかなかやりますね。私もたまには貴方から学びましょう」

 プラズマブレードキックでもするのか?無い脚で?お前が俺の先輩だったのは六年も前の話だぞ。

 お互いにブレードの間合い。どんな奇策も有効な距離だな。

 シロモズは肩のウェポンラックからプラズマブレードを取り出し、そのまま投げつけてきた。メインカメラがやられた。普通ならここで引くが、ここは押す。

 ブレードを振りようがない超近距離でもみ合う。バランスを崩し、俺たちは落下する。

「マスター、偵察用ドローン射出します」

 戦闘補助AIの自主判断は正しい。俺もそれを命じるつもりだった。

 サブカメラの映像ではなかなか見づらい。搭載している偵察用ドローン二機のカメラも補助的に使いたい。

 地面に墜落した。俺のプラズマブレードが敵機ペイルブルーの胴に突き刺さった。このままだとジェネレータがぶっ壊れて爆発するだろ。俺の勝ちだな。

「どんな鳥もいつかは地面に落ちるものですよ。私も貴方も」

 死ぬ前の辞世の句、それでいいのか?

「俺は死なねえよ。少なくとも今日はな」

 回収地点まで逃げれば今日の仕事は終わりだ。アヘッドとシロモズ以外に有力なパイロットがいると聞いていない。こうやって油断しているとたまに増援でエースパイロットと殺し合うことになるんだが。

「……でも、まだ少しでも生きていたかった」

 みんなそう思って死んでいくんだよな。俺は……俺は生きているのも死んでいるのも同じだ。あの日シロカラスが撃墜されてから。

 シロカラスが俺の全てだったからな。

「シロモズ撃墜。任務完了ですマスター」

 シロカラスと同じ顔の戦闘補助AIがそう言った。

 

 

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