白鷺の羽
上面
アヘッド
夢を見た。俺の陰茎が勃起するという夢だ。
俺はこれが夢ということを認識していた。性交するよりも先に改造手術で脳が壊れてしまって、俺は勃起しない。俺は童貞だ。
「システム
俺の背後で戦闘補助AIが音声出力した。夢から目を覚ます。操縦が戦闘補助AIから俺に戻される。巡航中の僅か二三十分で寝てしまうとは思わなかった。これが原因で死んだら爆笑するしかない。
操縦が俺の手動に戻るということはここが戦場になるということだ。
横須賀に雪が降っているのが見える。立ち並ぶ真新しいビルが黒い墓標のように見える。俺の眼下で生活する者どもはここが今から戦場になることも知らずに、今日と同じ明日が来ると思っている。これから一体どれだけの人間が死ぬか。俺には関係ないが。
昔の俺は日本軍の兵士で、横須賀の基地に配属されていたこともあった。今の俺はただ一人の傭兵としてここに居る。
日本は六年前に敗戦した。世界を支配する十二企業群の一つ、
では、ブリーフィングを思い出そう。今回の仕事はBB社極東方面軍司令官シロモズの暗殺だ。依頼主は
依頼主は今回の仕事に俺以外の人員を投入しない。俺一人で殺してこいというわけだ。辛いねえ。BB社最強の強化人間だぞ、奴は。
今の日本はBB社の傀儡政権が立っていて入国が面倒になっている。
機体に乗ったまま日本に渡るわけにもいかないから、俺、戦闘補助AI、機体、武器弾薬を全部別ルートで日本に運んで関東に乗り込んだわけだ。全部一纏めだったら簡単に持ち込めなかったが、分けて運べば持ち込みも簡単。こうやって敵地に潜り込めるフッドワークの良さが傭兵の良いところだと思う。
まだ横須賀の基地まで遠いが、向こうも迎撃を上げてきた。
見覚えのある機体だ。オープン回線から相手の機体のパイロットの声が聞こえる。
「気楽にやろうぜ。戦友」
アヘッドが俺に銃を向けた。
「アヘッド、一人で飛ぶのはいつも気楽だぞ。お前はどうだ?」
どんなに仲が良くても傭兵同士ならこうして敵として殺し合うときもくる。
俺は旧日本軍時代から使っている中量級の
「貴方に勝利を、敵手に死を」
俺の戦闘補助AIがいつもの決まり文句を音声出力する。俺は戦闘補助AIをセクサロイドに搭載して自走させている。持ち運びや載せ替えが楽だからな。顔は今は亡き彼女に似せている。
アヘッドも俺と同じように軽量二脚の
アヘッドと会ったのはBB社に日本が敗戦し、俺が何もかもを無くしたときだったか。学生時代に徴兵されて
俺とアヘッドの相対距離は五百メートル。
プラズマが俺の機体の横を通り過ぎた。目測が甘いんじゃないか?ブースター吹かせてちょっと音速超えたくらいの俺に当てられないんてよ。
相対距離四百メートル。
シロモズの専用機は今オーバーホール中で、直ぐには出撃できない。俺が
ジグザクにビルを飛んだり跳ねたりしながら、こっちに近づいてくる。飛びながらプラズマ砲を撃ってくるが、当然これを俺は回避。プラズマ砲の連射が早いな。冷却装置を新しくしたか?
「シロサギ、お前は何のために戦う?」
アヘッド、お前は初対面のときも同じようなこと言っていたな。
自分の裁量で仕事したくて傭兵になったんだっけお前は。結局傭兵なんて企業や国家の下請けでしかねえわけで、俺たちに自由なんてねえよ。俺はあのとき何と言ったか。忘れたな。どうでもいいことを言った気がする。
「金」
傭兵は自営業なわけで、金がないと生きていけないからな。まあ模範解答だと思う。
距離も詰めたし、そろそろ撃ち返してやるか。
自機の武装は片手にレールガン、片手にレールガン、背部と脚部のウェポンラックにプラズマブレードを二本ずつ。俺の戦法はオーバーヒートしない程度の射撃ペースで交互に射撃して、ブレードで焼き斬るというオーソドックスなものだ。
「今日の仕事はお前と遊ぶことじゃねえんだ。一分で片付ける」
レールガンの弾がアヘッドの機体の頭部に突き刺さった。軽量機とはいえ頭部が丸ごと吹き飛びはしない。だが、これでカメラとレーダーは死んだろ。カメラ回りは装甲化できないからな。
相対距離零メートル。突っ込んでアヘッドの機体を蹴る。蹴りで横転した
「
戦闘補助AIが見ればわかることを報告してくる。
忘れずにウェポンラックのレールガンを手持ちに戻し、プラズマブレードを仕舞う。さて。司令部の辺りにレールガン撃ちまくって、格納庫をぶっ壊してみるか。
「マスター、二時の方向より敵機接近。数は四」
BB社の青い中量二脚の
標準のレールガンや汎用ミサイルを積んでいる。俺の
「もう四機も上がってきたか」
片手のレールガンを通常射撃しながら、もう片方のレールガンを
回避した先の未来軌道に
「一機」
「二機」
加速してもう一機にプラズマブレードを突き刺す。
一度地上に降りて地面を疾走する。無駄に背の高いビルがお互いの視線を妨げる。
レーダーにはお互いの位置が表示されているだろうが、視覚的には見えねえよな。あくまでも二次元表示しかされねえし。
「三機」
ビルを使って姿を隠し、上手く相手の側面に回り込み、
「四機ィ!!」
思い切りの良い相手の突撃と蹴りを避けて、プラズマブレードで上下に切断してやる。
今日だけで五機を撃墜し、直撃弾は無し。弾薬の消耗は両手合わせて二十発。極めて順調に進んでいる。
「ここまでは想定通りだ。ここまではな」
何もかもが順調に進むときはない。必ずシロモズはこの空と地の間に羽ばたいてきて俺の道を邪魔するはずだ。黙って殺されるような奴ではない。
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