間章Ⅱ『雪のツバメの溜息』

 東方世界の最果ての海に浮かぶ"天の神の島国"――天神国。

 花山院聖徳王の座する“京都きょうのみやこ”、周囲に位置する“地方”に区分されている。

 京都と地方による差異はあるが、両所共に最多の犯罪は“盗み”である。

 役人による調査結果の内訳では、最も多く盗まれているものは食品、次いで金品である。

 貧困が背景にある物品と金品の窃盗、それに関する犯罪は大概役人と警察によって対処可能だ。

 ただし――唯一の例外は"人間"の窃盗だ。


 「やはり、間違いありませんでしたね――」


 京都の港に位置する、或る一軒の廃倉庫にて。

 窓から差し込む月明かりを除き、全てが夜闇に呑まれた倉庫内で、二人の男は対峙している。

 一人は若き麗人であり、右手に握った日本刀は月光に反射し輝いている。

 もう一人は壮年の男であり、上質な金の刺繍を施した煌びやかな着物に、滝の汗を滲ませている。

 壮年男よりも遥かに背丈も存在感のある麗人は、比較的柔らかな声色で口を開いた。


 「ここは"異能の子どもを産ませる闇工場"であることは」


 途端、壮年男の両の目玉は、ますます動揺に浮かび上がった。

 壮年男は沈黙に徹しているが、彼の態度から後ろ暗いものを隠しているのは明白だ。


 「あなた方は、異能和人の血筋の娘やその母親を攫い――さらに"望まぬ行為"によって異能を持つ子どもを産ませ、違法船でしていた所でしょうか」


 壮年男の背後に佇む巨大なコンテナ――その中の暗闇から覗く、の暗い眼差しと気配、痛ましげな赤ん坊の泣き声こそは全てを物語っていた。


 「実に合理的ですねぇ。港の廃倉庫を拠点にすれば、漁業者も警察の目から遠ざかり、密かにを生産し、バレる前にさっさと船で出荷してしまえばよかったのでしょうが……あなたは唯一見誤った」


 悠々と語る麗人は双眸を細めると、刀身の先を壮年男へ向けて構えた。

 瞳に灯った冷たい炎と刃の光に射抜かれた壮年男は、ヒィッと息を呑んで震えた。

 そこでようやく、壮年男は自身の悪い予感が的中してしまった現実を悟った。


 「ま、まさか……アンタが噂の……っ」

 「そうですよ……私は三大剣豪の一人、"炎竜えんりゅうゆずりは"です――以後、お見知りおきを」


 楪と名乗った麗人は、自身の日本刀へ力を注ぐと、刀身を炎の渦で包み込んだ。

 さらに両足を強く踏み込みながら両手を構えると、両の眼で真っ直ぐと標的を捉えた。


 「く、来るなあぁ! 三大剣豪がなんだ! 異能を持っているとはいえ、異能和人を支配してきた私をどうにかできると思うな!!」


 壮年男は最後の悪あがきと言わんばかりに、懐に隠し持っていた猟銃を取り出した。

 昨今、侍剣士を脅かす新たな武器として知れ渡りつつある銃を目の当たりにした楪は、一瞬目を見開く。


 「死ねぇ!!」


 逆転勝利を悟った壮年男は、楪に向かって容赦なく猟銃を連射した。

 最大威力で放出された複数の銃弾は、瞬きをする間も無く楪の眼前へ飛び――。


 「っ――な、なにぃ――!?」


 楪の剣から生まれた"炎の竜巻"に全て呑み込まれ――瞬く間に焼け溶けた。

 目の前の現象を信じられない壮年男は、再び猟銃を乱発した。

 しかし、何度やっても結果は同じだった。


 「くっ――ならば――ってえぇぇ!?」

 「無駄ですよ。今あなたにはもう、人質達にも私にも指一本触れられません」


 壮年男が最終手段に人質を盾に取ろうとしていたのは、楪には想定済みだったらしい。

 さらに大きく生み出された炎の竜巻は、壁となって壮年男と人質を隔てていた。

 壮年男が狼狽えている間にも、炎の竜巻は四方から男を囲ってしまった。


 「最終忠告です――大人しく降参し、と共に来てくださいませんか?」

 「っ――ふっ、はははははっ! なめるでないぞ! 若造が! この倉庫の周囲は既に私の部下達が包囲している! 降参するのは貴様のほうだぞ!」


 壮年男もまた、この最悪の事態をある程度は想定していたらしい。

 倉庫内に壮年男一人しかいなかった理由は、侵入した楪を油断させ、部下に包囲させて追い詰めるためだ。

 手練れの剣豪とはいえ、銃を構えた人間多数に囲まれて同時射撃されれば、ひとたまりもないはずだ――


 「おやおや……困りましたねぇ、実に……」

 「どうだ? 降参する気になったか」

 「あなたの頭の中は“お花畑”にまみれているようで……私はどう感想を述べるべきか、ふふふ……っ」

 「な……! き、貴様! 最後までこの私を馬鹿にしおって、ただじゃ――!」


 余裕綽々しゃくしゃくな楪の言動に対して、怒り心頭に発する壮年男が言い終えるよりも先に――闇に閉ざされていた倉庫の扉は勢いよく開いた。

 の混じった凄まじい冷風を吹かせながら。


 「ご苦労様です。そちらは、ようやく終わりのようですね」


 さりげなく振り返った楪の目線の先には、氷漬けにされたまま気絶している壮年男の部下達、そして――。


 「こちらは全て一掃いたしましたので、心置き無く力を解放してください――楪殿」


 月夜の海岸を背景に煌めく細氷ダイヤモンドダストを纏いながら、水氷色の剣を構える少年――冷泉純真は告げた。


 「言われずとも――それでは、最終局面と行きましょうか」


 これは完全なる誤算であった。

 闇商売で悪儲けしていた壮年男は、無知故に想定していなかった。


 「私はね――医術師でもあるので、知っているのですよ」


 いかなる鉄の銃弾も武器も"異能剣豪"――それも二人の前では、塵芥(ちりあくた)と化すことも。


 「炎の熱が何度あれば、焼き尽くすことは可能なのか――」


 茶会へ誘うがごとく、にこやかに語りかけてきた楪は刀を手に歩み寄る。

 楪の炎刀が――軽く掠っただけで、鉄箱がみるみると焼け溶けていく様に、壮年男は未来の自分を容易に想像してしまった。


 *


 「お疲れ様でした、楪殿」


 淡い藍色の朝方頃――。

 闇商売男は大人しく投降し、人質も増援の警察部隊によって解放・保護された。

 今回の事件の経過報告を行うべく、担当責任者の楪とその補佐人の純真は花山院邸へ赴く。


 「こちらこそ、ご苦労様です。純真君……今回もお見事でしたよ」

 「恐縮です……楪殿の采配のおかげです。楪殿があの男を相手にしてくださったおかげで、我々部隊も動きやすく、人質も全員無事保護されました」

 「ご丁寧にありがとうございます」


 三大剣豪の実力ならではの俊足によって、夜明け前の街道を突き抜けていきながら、二人は言葉を静かに交わす。

 会話の内容は一見任務後の互いを労うものであるが、この二名に関しては和やかものとはやや異なっていた。


 「正直……私は内心腸が煮え繰り返るあまり、“火加減”を誤らないから心配でしたから……」

 「そうですか……」

 「特に君にとっても、今回の事件もまた嫌なものでしたでしょう?」


 にこやかな態度でありながらも、不穏な気配を含んだ楪の言葉の意味を察した純真もまた、逡巡顔になる。

 "異能和人に関する犯罪"は、専ら異能剣豪と異能対策に特化した警察部隊が対応する。

 現・聖徳様が王位継承した十年程前に、鎖国政策は幕を閉じた。

 以降、他国の文化と知識技術の流入、貿易発展等の影響に伴い、異能和人は"当たり前の存在"として認知され始めた。

 とはいえ、特に地方における異能和人への差別迫害は根強く残っている。

 さらに以前から問題となっていた"異能和人売買"は、貿易の発展に伴い急増していった。


 「まあ……事件ですので……」


 特殊能力を持つ和人とその子どもは、故に恐れられ忌み嫌われる。

 一方"世にも珍しい人間"として見世物や慰みモノ、奴隷として搾取される者もいる。

 天神国では異能和人と子どもを誘拐し、闇商人へ高値で売るか己の商売道具として利用する犯罪集団もいる。

 もしくは、今回の事件のように“異能の子どもを産ませる”極悪非道な犯罪も、未だ後を経たない。


 「そうですか……あまり気を落とさずに」

 「お気遣いありがとうございます。僕は気にしていませんので……」


 天神国の三大貴族に数えられる楪家では、代々炎の異能和人が生まれ、その子どもは次期当主として王家の花山院へ仕える習わしだ。

 しかし元々貴族の出身ではなく、"或る特殊な経緯"によって冷泉家当主の座を継いだ純真にとって、今回の事件は決して他人事ではない。

 そんな純真の事情を知る楪の気遣うような言葉に、純真は冷静沈着な眼差しを崩さないが内心複雑ではあった。


 「ところで、純真君に改めてご提案したいのですが。是非、ご都合の付く日に東雲しののめ家の令嬢が参加する宴会へ……」

 「お気遣いとお誘い感謝致します。ですが、生憎暫くは屋敷の事で立て込みそうですので、またのご機会に是非……」

 「そうですか。残念ですが、致し方ありませんね。またお誘いしますよ」


 他の華族との交流もある宴会の誘いを丁重に断った純真へ、楪は苦笑しながら肩を竦めた。

 純真は決して表情には出さないが、これで何度目だろうか、と内心辟易していた。

 今までのやり取りと交流を鑑みれば、楪の目的が"お見合いの紹介"であるのは明白だ。


 「前から気になっていたのですが……何故に純真君は、お見合い相手の令嬢を振るのでしょうか?」

 「それは……」

 「お答え辛い質問をしてしまいましたが……どうしても、気になりましてね」


 確かに嫌な質問だ。

 純真にとってもそうであることを承知の上で、楪は問いかけているのだ。

 楪の言う通り、これまで純真は自分へ持ちかけられて来たお見合い話を断るか、仮に承諾しても全員へ婚約の断りを入れてきた。

 稀に花山院家の紹介もあったが、お見合い話もその相手も、大半はである。

 故に純真がお見合い話をさりげなく断るのも、単に結婚や相手を好かないという理由に留まらない。


 「先程紹介した東雲家のご令嬢ですが……私の目からも聡明で美しい良いお方ですので、ご検討を」


 どうだか。冷泉家当主と異能剣豪として聖徳様へ仕えるようになった後、華族を中心に色々な女がこぞって自分へ近付いてきた。

 しかし純真の経験上、どの女も、特に華族の女は高慢で打算的で欲深な者ばかりだ。

 彼女らは"自分こそは特別で上位の人間"と自負し、地位の低い人間を見下し、粗雑に扱う。

 当然、中には楪の推す東雲の令嬢のように聡明で礼儀正しい者もいる。

 しかし一見人の良さそうな彼女らもまた、街を歩けばそこに潜む貧困や不幸の闇を"見えない塵のようなもの"として忌避し、蔑ろにした。

 総じて、お見合いで逢った華族の令嬢は、冷泉家との婚姻によって己の家の権利と同時に、三大貴族・楪家との繋がりを強固にするのが目的だ。

 結局彼女らも、純真自身にも彼の心にも、露ほどの関心は抱いていないのだ。

 目の前で愛想良く語りかけてくるこの男もまた――。


 「最近、あなたの屋敷に新しい"付き人"が入った、と聖徳様から伺ったのですが」


 一秒でも早く目的地へ辿り着き、この面倒で息の詰まる会話を終わらせたいと思っていた最中。

 楪から切り出された話題を耳にした瞬間、純真の脳裏に"彼女"の顔が浮かんだ。


 「左様です。聖徳様の命で、冷泉邸へ保護することにした者です」

 「例の"異世界転生人"様ですね。私は祖父の話から存在を伺っておりましたが、実物を見たことはありませんので……大変興味深いです」

 「そうですか」

 「今回は女性だと伺いましたが、どのようなお方でしょうか?」


 夢咲久遠――。

 聖徳様曰く、最強の異能を身に宿し、その力を以って使命――天神国へ救いと恵みをもたらすべく、異世界から召喚された和人女性。

 その特殊性も彼女を謎たらしめているが、また別の意味でも不思議な存在だと思う。

 しかし、口では中々上手く言葉が見当たらない。

 彼女について訊かれた純真は、改めて逡巡した。


 「そうですね……強いて言うのであれば、"変わった女性"です」

 「ほう……変わっていますか……と、言いますと?」

 「あ……着きましたね」


 絶妙な頃合いに花山院邸へ到着した途端、二人は共に私語を止めた。

 内心胸を撫で下ろした純真は、沈着な表情と声を崩さないまま答えた。

 楪は微笑みで名残惜しさを伝えながらも、視線を前へ戻した。

 色々な想いが内で渦巻く中、二人は門番の前へ向かった。


 *


 「夢咲久遠、か……」


 花山院邸で報告書の作成と提出をし終えた後。

 帰路に着いた純真は、薄桃色に染まった朝空を眺めながら何気無く呟いた。

 自然と口を突いて出た言葉とはいえ、確かに夢咲久遠は自分から見ても"変わり者"だと思う。


 『よろしくね、純真君――』


 異世界の人間とはいえ、冷泉家当主の自分と婚姻を結べば、聖徳様からより手厚い処遇を受けられ、その身も保障されることは理解できるはず。

 しかし久遠という女は、今まで逢った女達のように、自分へ媚びてくるような言動も仕草もまったくない。

 むしろ純真自ら婚約に異論を唱えた際は、どことなく安心したような、嬉しそうな表情すら見せた。

 その真意は不明だが、久遠の瞳や声には不思議と"嘘"を感じないのだ。

 厳密には異世界人である以上、こちらのまだ知らない事や隠している事も多々あるだろうが。

 言うならば、久遠は気持ちが単純で分かりやすい女だ。


 『すごい! 霙ちゃんと雹君の言う通りに作ったら、とても美味しくなった! ありがとうっ』


 嬉しければ、明るい声で笑う。

 焦りや不安があれば、汗をかいて目を泳がせて狼狽える。

 怒れば、眉を吊り上げて唇を結ぶ。

 悲しければ、瞳を潤ませながら涙を堪えようと震える。

 感情表現豊かなうえに、使用人達にも素直で丁寧なおかげか、彼女らと特に双子にも気に入られた。

 以前の冷泉邸から仕えてきた今の使用人達は、純真という新たな主人を除き、自分より上の立場の他者へ恐怖や不信感を根強く抱いている。

 故に久遠が双子と使用人達とすっかり打ち解けている様には、内心驚かされたりもした。


 『だって、"一日でも"生きられたら、あの子の何かが変わるかもしれないでしょう?』


 街の路地で見かけた物乞いの孤児へ、握り飯を渡した久遠。

 たとえ僕に、孤児を憐れみ安寧を祈る気持ちを"傲慢で愚か"と吐き捨てられても尚、久遠は最善を施す手を止めなかった。

 そのうえ久遠を厳しい言葉で戒めた僕に怒りも悲しみもせず、むしろ感謝すら述べてきた。

 一体何なのだろう。何がしたいの、この女性ひとは。

 そう思ったのに、何故かそれ以上の言葉は出なかった。

 久遠が何気無く奏でた言葉が、昔幼い自分がよく耳にしていた台詞と歌に似ていたからか。


 『皆が無事でよかった。助けに来てくれてありがとう、純真君』


 久遠の変わった所は他にも多々ある。

 異世界転生人特有の異能によるものか、久遠は心臓を刺されても死なない。

 とはいえ、出逢って日も浅い上に自分へ冷たくする人間を庇うという――呆れるほどの“馬鹿なお人好し”だ。

 聖徳様の話にもよれば、本来の久遠のいた異世界は、異能にも無縁な世界だったらしい。

 それにも関わらず、同じ天神国の人間にすら畏れられ、忌み嫌われてきた"氷の異能"を、久遠は"綺麗だ"と無邪気に褒めてきた。

 料理も上手いことは上手いが、独創的な見た目と味付けをするし……とにかく、枚挙にいとまがない。


 「ただいま……」

 「「お帰りなさいませ、純真様」」


 朝日が昇る頃に冷泉邸へ帰還した純真は、扉の前で双子に出迎えられた。

 双子は、夜の任務へ赴いた純真が朝方に戻るのを見越し、早朝から起床して準備していたのだろう。

 双子は親の代から冷泉家へ仕えてきた一人前の使用人とはいえ、幼いながら殊勝な行いに、内心くすぐったいものを覚える。

 先に湯浴みをする事を双子へ告げた純真は、そのまま真っ直ぐ浴場へ向かったのだが――。


 「あのぉ……失礼します、純真君。二人から手拭いを預かってきたんだけれど……」


 湯船に浸かって体を温め、身を清めた後、脱衣所の扉の隙間から久遠が声をかけてきた。


 「ああ……丁度よかった。今から上がる所だったんだよね」


 新しい手拭いを用意しておく暇のなかった双子に代わり、久遠が届けに来たのだと分かった純真は扉の前に来た。

 すると、淡い磨り硝子越しに浮かぶ久遠の影がビクッと、一歩後退した気はする。

 心無しか純真へ話しかける声も、普段より弱々しく掠れて響いた。


 「ありがとう、久遠」


 純真は扉の隙間から手を伸ばし、久遠の手にあった手拭いをそっと受け取った。

 途端、またしても隙間から除いた久遠の体は、不自然に跳ね上がった。


 「っ……! ど、どいたしましてっ! じゃ、二人は朝食用意して待っているからっ!」


 久遠は簡潔に言付けすると、ドタバタと足音を立てながら、そそくさと去って行った。

 やっぱり変な女性だな。

 妙に狼狽えていた上に、湯気に当てられてもいないはずの肌は手から桃色に染まっていた様子に、純真は首を傾げた。

 けれど純真は、自身の瞳と唇が不思議と柔らかな線を描いていた事に気付かなかった。

 その後、冷泉家の昼食に出された"湯豆腐味噌"を初めて味わった時も、同じ表情を浮かべていたことにも――。


 *


 み、見てしまった――つい。

 否、わざとじゃなくて、偶然! 事故みたいなものなの!

 そう! これはただの"生理現象"!

 女子でも男子でも異性でも他生物? でも、見てしまえば"誰だってこうなる"はずなのよ! うん!


 「きっと特別な深い意味はないんだからねっ!」


 一瞬少しだけ見えてしまった、純真君の""から目が離せなかっただなんて――!

 ただの十五歳の子どもにはあり得ないほど、逞しく引き締まった"胸板"なんて――!

 あどけなさの残る綺麗な顔からまったく想像つかなかった、見事な"胸筋と腹筋"なんて――!

 自分よりもずっと大きくて、力強かった手に握られて、何となく手から顔から熱くなったとか!

 小柄で華奢な体躯ににつかわしくない強靭な筋肉が眩くて、艶かしくて、胸が高鳴ってしまったなんて――!


 「断じて違うの――!」


 どうかお許しください、愛しのクリスティアヌス様!

 あなた様以外の異性に、しかも子どもの半裸なんかに、一瞬でもドキドキしてしまったなんて!

 同じ光景が脳内で循環ループし、それに伴う異常な熱と動悸は暫く治らなかった。

 真っ赤な顔で頭を抱えて唸る様子に、双子と他の使用人達は風邪でも引いたのか、と本気で心配していた。



 ***


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